歌い、語り継ぐことで未来に遺すプロ野球/石田雄太の閃球眼
歌い、語り継ぐことで未来に遺すプロ野球/石田雄太の閃球眼
4月30日、日本球界で12年ぶりの白星をつかんだ中日の松坂大輔 二番・谷木とか八番・広瀬とか、松本、渋谷

4月30日、日本球界で12年ぶりの白星をつかんだ中日の松坂大輔

 二番・谷木とか八番・広瀬とか、松本、渋谷のミラクル投法とか、森下コーチのピストンサインとか、華麗な守備の正岡とか……アラフィフ以上のドラゴンズファンでなければ、おそらくはどれも具体的には思い浮かべられないだろう。もちろん一番・高木が塁に出て、四番・マーチンがホームランで、五番・谷沢がクリーンヒット、星野仙一強気の勝負、一発長打の大島君、期待のルーキー藤波君とくれば、ああ、板東英二さんが歌っている1974年の『燃えよドラゴンズ!』に出てくるフレーズなのだな、と分かる。ただ、この曲がすごいのは当時のドラゴンズの中では脇役だった選手の名前まで今に伝えているところにもある。

 たとえばONを苦しめた巨人キラーの変則右腕、渋谷幸春や、中継ぎのスペシャリストだった水谷寿伸、快速球の竹田和史、ショートのポジションを広瀬宰、正岡真二から奪えなかった西田暢、東大出身の外野手だった井手峻、スイッチヒッターのジミー・ウイリアムまで、この曲で歌われていなければ忘却の彼方に消えてしまっていたかもしれない選手たちの姿が今も目の前に鮮明に浮かんでくるのだ。歌というのはその人が聴いていた時代に戻してくれるという話を聞いたことがあるが、野球にまつわる歌にもそういう力がある。

『燃えよドラゴンズ!』から3年後、またもとんでもない曲が世に出てきた。矢野顕子さんが歌った『行け柳田』である。ドラゴンズのオーダーが歌われた後だっただけに正直、二番煎じ感は否めなかったものの、細野晴臣さんや荒井由実さんら新進気鋭のミュージシャンとセッションしていた若き日の矢野顕子さんが、あの独特のアンニュイな雰囲気を醸し出しながら、仕事が終わってラジオの前に陣取り、今日のジャイアンツのオーダーがどうなっているのかを気にする様子が歌われていたものだから、それは仰天したものだ。やおら一番・柴田、二番・高田、三番・張本、四番・王、五番・柳田、六番・土井、七番・河埜、八番・吉田と歌い継ぐ。そしてサビではなぜか“行け柳田”を3回も繰り返す。いやはや矢野ワールド全開の名曲である。この曲を初めて聴いたのは中学生のときだから、あれから40年、このメロディは今もずっと頭の中を支配している。行け柳田の“ドド、ドド(ワンオクターブ上のド)、ドー”を口ずさむだけで1977年のジャイアンツが蘇ってくるのだからの力は凄まじい。
 
 野球にまつわる歌といえば、『闘魂込めて(巨人軍の歌)』や『六甲おろし(阪神タイガースの歌)』から、『地平を駈ける獅子をみた』『いざゆけ若鷹軍団』など、いわゆる球団歌が真っ先に浮かぶ。以前、広澤克実さんから、スワローズ時代、日本シリーズでライオンズと対戦したとき、「西武球場に行くと『ウォ、ウォ、ウォ、ラーイオン』って、あの松崎しげるさんの歌声が聞こえてくるでしょ。あれでズシーッとイヤな気分になっていくんです(笑)。常に何かしでかしそうなライオンズ野球の恐怖を、あの曲から与えられてました」という話を聞いたことがある。つまりは音楽の力は野球をも支配することがあるということだ。

 野球を歌った曲といえば、最近では桑田佳祐さんの『栄光の男』が切ない。ハンカチを手に現役を引退した長嶋茂雄さんを、たまたま立ち喰いそば屋のテレビで観ていた大学時代の桑田さん。シラけた人生で初めて、割り箸を持つ手が震えていたと綴る。長嶋さんはスピーチで「わが巨人軍は永久に不滅です」と叫んでいるのだが、桑田さんはここを「永遠に不滅」と歌う。報じられているところでは、レコーディングの前にこの事実を聞かされた桑田さんは、敢えてこの部分の歌詞を変えなかったのだとか……おそらく桑田さんの頭の中には、長嶋さんの台詞は「永遠に不滅」で刻まれているのだろう。もちろん、これもまた動かしがたいひとつの事実なのだと思う。

 そして野球を歌詞に織り込んだ名曲――河島英五さんの『地団駄』。これもまた、テレビの画面の中でヒジを痛めて再起不能と言われた村田兆治さんが、息子ほどに歳の離れた若い打者に挑みかかっていく様を歌ったものだ。松坂大輔がドラゴンズで投げている姿を見るたびに、河島さんのこの曲が頭の中でリフレインする。村田さんが川崎球場のマウンドで投げていた約40年前の力強い、豪快なピッチングが今の松坂のピッチングによって蘇る――歌も野球も、歌い、語り継がれることで未来に遺すことができるのである。

文=石田雄太 写真=BBM
(更新日:2018年5月16日)

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