
「人は見かけによらず」と言いますが、飲食店にも「見かけによらず」がよくあります。今回ご紹介したいのも、まさにそんなお店。東京・高円寺にある『中華料理 天王』という、昔ながらの町の中華屋さんです。
筆者は、この店の前を、何年も幾度となく通っていたにもかかわらず、その存在に気づかないまま生きてきたのですが、つい最近、ここの「生姜醤油ラーメン」を食べる機会があり、とんでもなく感激することになりました。
きっかけは、荻窪の人気ラーメン店のご主人にオススメの店情報を聞いたことでした。彼は即座に高円寺の『天王』の名前を挙げ、「とくに長岡発祥の生姜醤油ラーメンが美味しい」と教えてくれたのです。
ラーメン屋がラーメンを薦めるわけですから、間違いがあろうはずがありません。ただ、店の住所を調べてみると、よく知っている場所のはずなのに「そんなとこに、町中華なんてあったっけ?」と首をかしげるほど印象がありません。とにもかくにも、行ってみることにしました。

底冷えする寒い夕方。見慣れた高円寺パル商店街のアーケードを抜けて歩いていくと、確かに、そこに『天王』がありました。が、上の写真を見てわかるように、実に質素な店構え。素通りするのも無理ない…というか、そもそも目立とうという気がないようにすら思えます。

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さっそくお店に入ってみると、カウンターと奥に二つの小さな座敷があります。券売機はなく、注文は直接、お店の方に声をかけるシステムです。厨房にはご主人、フロアにはかなり高齢の女将さんらしきおばあちゃんの2人だけで切り盛りしているようです(食べ終わる頃にバイト君が一人来ました)。
夕方5時と、夕飯にはまだ早い時間だったせいか、お客さんは誰もいません。まるで田舎の人気のない中華屋に入ったような心細い気持ちになりますが、気を取り直し、件の「生姜醤油ラーメン」を注文してみたのですが、これが、驚くほど美味しかったんです!
絶品の生姜醤油ラーメンの味わいは?

レンゲでスープをすすると、まず生姜がガツンと来て、その奥から、鶏ガラベースの醤油スープの味が静かに響いてきます。非常にすっきりしていて滋味深く、思わず「ああ、美味しい」と声が漏れてしまいました。まだ、麺もチャーシューも食べていない段階にもかかわらず、間違いなく美味しいラーメンだとわかってしまう、静かな迫力を感じます。
すると横にいたおばあちゃん(女将)が、私の声を聞いて、「ありがとうね」と声をかけてくれました。続けて麺をすすってみると、中太の丸くてツルツルしたタイプで、これがまた旨いのなんの。「ホント、美味しいですね」とおばあちゃんに答えると、満面の笑顔で、「良かった、良かった」と喜んでいます。なんだかこちらまで嬉しくなります。

さらにチャーシューを食べると、適度な厚みで柔らかく、さっぱりしていて、これまた最高。もう箸もレンゲも止まりません。すると、横にいたおばあちゃんはニコニコしながら、「生姜がたっぷり入っているから体が温まるでしょ」と声をかけてくれます。確かに体がポカポカしてきました。
おばあちゃんにお話を聞くと、お店は30数年ほど前にオープンし、ラーメン主体の町中華だったとのこと。この「生姜ラーメン」は新潟出身の現主人(おばあちゃんの甥っ子さんだそう)が数年前から提供し始めたところ、口コミでその美味しさが広まり、テレビや雑誌にも取り上げられる人気メニューになったんだそう。