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猪木 がん逝去の愛妻を語る「自分の命縮めて俺に時間くれた」

女性自身

猪木 がん逝去の愛妻を語る「自分の命縮めて俺に時間くれた」

アントニオ猪木さん(77)は、後ろを振り返らずに生きてきた。「元気があれば何でもできる」を体現し、モハメド・アリ戦(76年)やイラク在留邦人人質解放(90年)など、不可能を可能にしてきた男だ。しかし、いまや杖をついて歩き、「心アミロイドーシス」という100万人に数人の難病も抱える。“毎朝元気をかき立てなくてはならない状況”と話す猪木さんは昨年8月、愛妻・田鶴子さん(たづこ・享年62)をすい臓がんで亡くしていた――。

 

「引退試合(98年4月)の控室にも、橋本くんはカメラを構えて勝手に入ってきたんです。人の懐にスッと入ってくる才能があったんではないかな」

 

田鶴子さんを、猪木さんは「橋本くん」と旧姓で、田鶴子さんは猪木さんを「会長」と呼んでいた。「でも後々には『寛ちゃん』とも呼ぶようになってきていたね」

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最初はカメラマンとして、次第に公私の境がなくなって、つねに行動を共にするようになったのだ。二人は、17年に婚姻届を提出した。

 

小柄な田鶴子さんは、猪木さんの巨体を毎日マッサージしたのだという。

 

「相当前から俺の体は傷んでいましたから、全国の先生に作法を聞いて、ストレッチとマッサージを日課のようにしていました。さすがに亡くなる2、3年前には体重が軽くなってきていて、それが精いっぱいなのに、必死で俺の背中を踏んで、足を踏んで……」

 

田鶴子さんは亡くなる2カ月前の19年6月に最後の入院。腰の手術のため先に入院中だった猪木さんの隣部屋にしてもらったのは、彼女の願いだった。入退院を繰り返す闘病は、6年ほど前からだったが、猪木さんは病名を最後まで告げられなかった。

 

「教えてもらえなかった、ぜんぶ内緒で……。俺に知られたくないという彼女の思いというか、俺に心配や負担をかけたくないというのがあったんだろうと……」

 

亡くなる一週間前には、猪木さんの部屋を訪れたのだという。

 

「ほとんど会話はなかったが、20分くらい、彼女はベッドに腰かけて。その姿を覚えています」

 

しかし腹水がたまっていくさまに、厳しい状況は覚悟していた。

 

「もしかしたら今日、明日かも」

 

担当医が、猪木さんに告げる。

 

「状況はわかるつもりなんです。しかし実際に病名を聞いていなかったし、何とか回復してほしいというわずかな希望もね。それから3日くらい持ったのかな……。俺もリハビリが必要でしたから、彼女に姿が見えるよう、ドアを開けて廊下を1、2回往復した。『俺も頑張っているよ』というメッセージを送ったつもりなんです」

 

最後に過ごした、蜜月のような時間。猪木さんは、それまで捧げられた無償の愛に恩返しするかのように、田鶴子さんに献身した。

 

「彼女のバイタル(心拍数・呼吸・血圧・体温などの情報)が下がったとき、俺が病室に行けば正常に戻った。安心して自室に帰るとまた『大変です、来てください』。それで駆けつければ、また戻る……」

 

そんなことが、つづいたという。

 

「(バイタルの)数値が止まった後だって、3度も蘇生したんです。何を本人が思い、念じたのかは、わかりません。生きようと思ったのか、俺が心配だったのか。そういう意味で最後の最後まで闘った、頑張ったなあと」

 

最期の言葉「ありがとう」で、田鶴子さんは、生涯を閉じた。亡くなった翌日、田鶴子さんが出演をまとめてきたテレビ番組『さんまのまんま』(関西テレビ)の収録が奇しくも入っていた。

 

「夜中に亡くなって、翌日でしょ。さすがにちょっと、こういう(バラエティ)番組に出る心境ではなかったんですが、彼女が取ってきた仕事でした。しかも生前、俺に言っていた、《私に何かあっても仕事は絶対にやり遂げてください》と。それで予定通り出演しました。亡くなった後はバタバタと忙しかったんですが、俺には一切わからない遺品の整理から、食事や家事についても、どうすればいいか言い置いて逝ったんです」

 

それはやはり「アントニオ猪木のままでいて」という田鶴子さんの深い愛のなせる業であった。

 

「俺は男を売っている商売だから、あまりこういう話はしませんが、人の情、思いを井戸にたとえれば、彼女の井戸の深さは、どこに底があるかわからないほど深かった。自分の命を縮めて、俺にもうすこし生きる時間をくれたのかなと思うんです――」

 

猪木さんの目に、ふたたび“闘う男”の精気が宿っていた。

 

(取材・文:鈴木利宗)

 

「女性自身」2020年10月27日号 掲載

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