メジャー挑戦を断念して――。涌井秀章は今季、何を目指すのか?
メジャー挑戦を断念して――。涌井秀章は今季、何を目指すのか?
 埼玉西武で10年、千葉ロッテで4年、主にトレーニングコーチとしてチームに携わってきた大迫幸一が、千葉県館山市に「館山フィットネスセンター ゴルフ&ベースボールアカデミー」を立ち上げたのは昨年春のことだった。


移籍5年目を迎える今季も、涌井秀章は4年連続かつ現役最多9度目の開幕投手を視野に入れる。 (photograph by Kyodo News)

 埼玉西武で10年、千葉ロッテで4年、主にトレーニングコーチとしてチームに携わってきた大迫幸一が、千葉県館山市に「館山フィットネスセンター ゴルフ&ベースボールアカデミー」を立ち上げたのは昨年春のことだった。

「この時期(初春)にしては随分暖かいでしょう? 南郷(埼玉西武のキャンプ地)にも気候が似ていると思ってね。ここで何かをしようと思ったんだよ」(大迫)

 冬は暖かく、夏は涼しい海洋性気候の千葉県館山市は、合宿のメッカとしてもよく知られている。大迫も2009年の初陽、当時、埼玉西武に籍をおいていた千葉ロッテ・涌井秀章の自主トレの地としてこの場所を選び、以降10年間続けている。

「すぐにここが気に入りましたよ。食べ物もおいしいし、街の人たちも温かい。今度取材じゃないときに、また遊びに来てくださいよ」

 付き合いの深さに関係なく、相手の懐にすっと入って来る。そんな気さくな性格の大迫だからこそ周囲に人が集まって来る。

 トレーニングコーチ時代には、選手との距離感をなくすため、あえて「コーチと呼ばなくていいから」と話し「大迫さん」と呼ばせた。そんな彼のもとには今年も涌井を筆頭に、千葉ロッテの内竜也、益田直也、埼玉西武の炭谷銀仁朗、東京ヤクルトの原樹理らが集まって自主トレを行った。

涌井が「オヤジ」と呼んで慕う。

「近年は色んなトレーニングがありますけど、私の自主トレは基本走ることがメインです。もちろん私も一緒になって走りますし、選手と共に走れなくなったら、そこで終わり。そう決めていますから……。だから、あと何年もないですよ」

 そう、己の信念を話す大迫。

 しかし次の瞬間、「なーんてね」と切り返し、せっかくの良い話を、冗談で笑い飛ばしてしまう掴みどころがない人物でもある。

 自らの性格を「天邪鬼」と称する涌井ともそれは気が合うはずで、涌井もそんな大迫を「オヤジ」と親しみを込めて呼び慕っている。

涌井の今年のテーマは「原点回帰」。

 さて、その涌井である。

 今オフ、涌井は海外FA権を行使して、米メジャーリーグ挑戦を表明した。

 しかし、結果はアメリカのFA市場が極端に遅い動きだったことなども影響して、1月末に千葉ロッテ残留を発表。2月1日からは千葉ロッテの石垣島春季キャンプに参加し、例年通りの調整を続けてきた。

 そんな涌井が今年のテーマに掲げているのが「原点回帰」だ。

 秩父の山にこもって、ひたすら走った若手時代のように、今年は例年以上に自分の体を追い込み、年間を通して高いパフォーマンスが維持できるように準備を怠らなかったという。

 千葉県館山市での自主トレでは、グラウンドでのランニングをはじめ、坂路走、クロスカントリー走などで1日平均7キロ走ることを自身に課した。

 整備されたトラックを走るのではなく、坂路や芝生、ウッドチップコースなど起伏のあるコースを走ることで体を鍛え、シーズン中は鍛えきれない筋肉にも刺激を与えた。筋肉痛になることもあったというが、これもあまり使ってこなかった筋肉を起こしたと捉えれば予定通りである。

「練習メニューも、もう1回ゼロに戻そうと」

 大迫はそんな涌井の体付きの変化についてこう語る。

「(近年は)自分で考えて体を絞っていたり、色々していたみたいですね。奥さんとも食事のことについて話し合っているみたいだし、彼なりの考えがあるのでしょう。

 僕の練習メニューも、今回、もう1回ゼロに戻そうと。そこは涌井とも相談して、走り込みを中心にね。もう1回、彼を蘇生させなければいけないわけですから。だから昨年と比べても大変多い量を今年は走ってきましたよ」

 その証言からも、涌井の並々ならぬ想いが伝わってくるようだ。

今年は完全復活を期待してもいい!

 昨年の不振を一掃する兆しは、昨年の終盤戦に見せていた。

 千葉ロッテ移籍後は封印してきたノーワインドアップでの投球を、昨年9月2日の北海道日本ハム戦で解禁。打たれたヒットはわずか5本で、9回にはこの日の最速150kmをマークするなどして実に6年ぶりの完封勝利を飾った。

 さらに井口資仁監督の現役最後の試合となった9月24日の北海道日本ハム戦でも、初回、大谷翔平(現ロサンゼルス・エンゼルス)から151kmの直球で空振り三振を奪うなど、5回までで9個の三振を奪う快投を見せる。

 6回に左手親指付近と右ふくらはぎが釣って無念の途中降板となったが、そこで得た手応えと、途中降板の反省を踏まえて臨んだ今オフの自主トレはそれだけの密度をこなし、万全の準備をしてきている。

 その辺りの決意、および準備を踏まえても今年は完全復活を期待していい。

 2月15日のブルペンでは捕手を座らせて105球を投げ込んだ。ここまでの過程も順調そのもので、いよいよ3月から実戦登板に入って行く。

「井口監督を胴上げするために投げたい」

 今オフ、千葉ロッテを退団したかつてのチームメイトが働く職場に、涌井は後輩数名を引き連れて顔を出したという。

 仲間想いで面倒見が良い性格は今も昔も変わらない。このチームメイトも涌井らの来訪をとても嬉しそうに語った。

 ロッテ残留を決めた1月末、涌井はこんなコメントを出している。

「日本のキャンプインまでに結論を出すと決めていた。決断の時期に差し掛かり、愛着あるマリーンズで現役時代からお世話になった井口監督を胴上げするために投げたいという気持ちが強くなりました」

 信頼する指揮官と仲間達と共に、2018年の秋、喜びを分かち合えるのか。

 涌井の復活がそれを近付けるのは言うまでもない。

text by 永田遼太郎
「球道雑記」

(更新日:2018年3月14日)

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