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「田澤ルール」撤廃――プロ野球が抱き始めた国際的なプロリーグとしての余裕と自信/球界の論点

週刊ベースボールONLINE

時代の流れの中で



メジャーではレッドソックス、マーリンズ、エンゼルス(写真)でプレーした田澤。現在はBCリーグ埼玉でプレーしている

 プロ野球12球団による日本野球機構(NPB)実行委員会は9月7日、アマチュア選手が海外の球団と直接契約した場合、所属球団を退団してから一定期間に契約できないと規制した、いわゆる「田澤ルール」を撤廃すると決めた。国外への戦力流出の抑止力として設けられた同ルール導入の背景と、撤廃までの経緯をたどってみる。

 メジャー・リーグ(MLB)のレッドソックスなどで主に救援投手として活躍し、2013年のワールド・シリーズ制覇にも貢献。今年3月にレッズを自由契約となった田澤純一は、自身の名前が通称となったルールの廃止を喜んだ。現在、独立リーグのBCリーグ埼玉でプレーする34歳の元メジャー・リーガーは、「本当にうれしい。自分を必要としてくれる球団があるのなら、NPBでプレーできたらいい」。獲得するためには、10月26日に行われるドラフト会議での指名が必要。メジャー通算388試合に登板したベテラン右腕は、今秋の目玉として注目を集めそうだ。

 ルール導入は、2008年のドラフトで新日本石油ENEOS(現ENEOS)に所属していた田澤が、指名を拒否して会議直前にレッドソックスへ入団したのがきっかけとなった。逸材のメジャー志向増加に危機感を覚えたプロ野球側は、同様ケースに歯止めをかけようと防止策を協議。アマ選手が日本のプロ野球を経ずに海外球団と契約したら、退団後には「12球団は大学・社会人出身者は2年、高校出身の選手とは3年間契約しない」という申し合わせ事項をまとめた。

 田澤ルールは「日本のプロ野球にとどまってほしい」という12球団の思いが高じたものではあったが、海外でプレーした場合は選手が日本に帰る際に制限を科すというペナルティー的要素が強かった。最高峰の舞台に挑戦しようとする若者の夢を妨げる発想に批判が上がり、一部には早くから「独占禁止法違反では」という声も出ていた。

 労組日本プロ野球選手会は「野球を職業として選択しようとする人たちに影響する」として、事務折衝等でNPB側に撤廃を要求。スポーツ界での選手移籍に関して問題が取り上げられるようになり、公正取引委員会が「移籍制限ルールが独禁法に抵触する恐れがある」という見解を示唆した。陸上やラグビーなどがこぞって独自規定を廃止していく時代の流れの中で、田澤ルールは撤廃された。

 プロ野球にとって元メジャー・リーガーの経験は貴重だ。同じメンタリティーを持つ日本選手というならなおさらだろう。黒田博樹、福留孝介、青木宣親ら本場でもまれてきた選手たちは、グラウンドの数字には表れない財産をチームにもたらしている。ひと味違う道を歩んできた田澤のフィードバックは、これまで以上にチームを活性化してくれそうだ。

日本が秀でる育成環境


 MLBのドラフト会議で18年にブレーブスから1巡目(全体8位)指名を受けたカーター・スチュワートが、19年5月にソフトバンクに入団した。主導したのは大物メジャー・リーガーの高額契約をまとめてきた代理人として知られるスコット・ボラス氏。「より良い条件の契約を模索した」結果であり、「世界一の球団を目指す」と公言するソフトバンクとの合意に行き着いた。

 スチュアートはMLBのドラフト指名球団と契約に至らず、ソフトバンク入りが決定。米球界と直接契約した田澤のケースと同列には論じられないが、米国アマチュア球界から有望選手が日本球界入りするのは異例だった。しかし、メジャー側はスター候補の海外流出という事態にも冷静だったのが興味深い。MLBコミッショナーのロブ・マンフレッドは、「プロフェッショナルとして野球を選んだ若いプレーヤーには、いろんな選択肢があっていい。世界中にはさまざまなリーグがある。われわれも競って、勝っていかなければならない」と、日本とは対照的な反応を示した。

 田澤ルールの廃止の際、NPBは「育成環境が格段に整備されたことも決断の一因」と語った。スチュアートや代理人のボラス氏も認めているように、今や一部の選手育成システムは日本が秀でている部分だ。

 岩手・花巻東高時代にメジャー挑戦を表明した大谷翔平は、ドラフト後に強行指名をした日本ハムに入団した大きな理由として、「プロ野球の育成プログラムの優位性」を挙げている。大谷だけにとどまらず、ダルビッシュ有、前田健太、菊池雄星――ら、プロ野球でじっくりと実力を培い、世界でも戦えるようになったことをメジャー側も理解しつつある。

 プロ野球が選手にアピールする確固たる強みと、国際的なプロリーグとしての余裕と自信を抱き始めた。日米間でそれぞれのアマ選手獲得については配慮すべきという「紳士協定」は生きている。それでも、プロ、アマを含めた双方の往来は活発化の方向に進むだけに、関係者は世界を目指して飛び出したアスリートへ、温かい目で迎えてあげられるだけの度量を持ち続けてほしい。「どうすれば選手の実力を発揮できるか」が世界の共通認識になれば、球界はもっと飛躍できる。

写真=Getty Images

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