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努力は自分に返ってくる――梶谷隆幸、復活劇の真相/FOR REAL – in progress –

週刊ベースボールONLINE

優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。


 二度とも、変化球をかち上げた。

 9月19日、今シーズン初めて横浜スタジアムの外野スタンドにまで観客を迎え入れたジャイアンツ戦。記念すべき日の主役に躍り出たのは、梶谷隆幸だった。

 1点リードの3回に今村信貴のスライダーを、2点リードの7回には大江竜聖のスライダーを引っ張って、秋風が吹き抜けるライトスタンドに一陣の熱風を届けた。

 直近6試合で4度のマルチ安打をマークし、打率は.311に上昇。規定打席に到達したシーズンとしてのキャリアハイの更新に、日に日に近づいている。

好調維持の要因は何か。


 ここまで、ほぼすべての試合で1番打者としてスタメン出場してきた。目立ったスランプの時期はなく、打率のみならず、安打数、得点、盗塁など、成績は着実に積み上がっている。

 現状に対する率直な所感を、梶谷はこう述べる。

「打率が2割7分くらいから2割9分くらいのところをずっと上下していて。なんとか食らいついていきたいと思いながら、目標としていた3割に乗って。なんとか耐えてるなって感じですね」

 好調維持の要因は何か――。問われて語り始めたのは、昨オフからの地道な取り組みについてだ。


「毎年いろんなことを試してきたけど、なかなかコンスタントにヒットが打てるようにならなかった。今年は、これまで以上に考えました。まず体を動かす前に、頭を整理しようと思ったんです。頭でイメージできないことは体でもできないので。どうすれば確率よくヒットが打てるか。自分のこれまでの経験も踏まえながら自主トレの間からずっと考えて、『これがいいんじゃないのか』という答えを探して……。体がどう反応してくれるのか、(イメージを)体現できるのかという部分は不安だらけだったんですけど、多少は結果につながってるのかな、と」

 考え、考え、行き着いた答え。それは、逆方向に意識を置くことだった。

「もともと、ぼくは引っ張りのバッター。気づいたら体が引っ張っちゃう。でも、よく言われるように、逆方向に打っていかないと率は残らない。だから練習でも徹底して逆方向に打つようにしました。スライス回転がかかったフライというより、レフト前にライナー、左中間に強い打球をイメージして。我慢して、(引っ張りをこらえた)つまらないバッティング練習をとにかく根気よく続けてきました」

 禁欲的かつハードな練習は裏切らなかった。梶谷はプロ入り14年目にして、たしかな技術の向上を感じ取っている。

 最もわかりやすいのが、2ストライクと追い込まれてからの対処だ。かつての梶谷は、粘ることなく三振、あるいは凡打に打ち取られることが多く、それゆえ見る者に淡白な印象を与えてきた。

 ところが今年は明らかに違う。厳しいコースのボールをカットして四球を選んだり、苦しいカウントにもかかわらず巧打でヒットをもぎ取ったりする場面が増えた。

 逆方向に打つ打撃術の会得。すなわち体の近くまでボールを引き付けられるようになったからこそ、見極めがよくなり、打席での粘りにつながっているのだ。

「粘れないっていうのは、性格が淡白だからとかそういう心の問題じゃなくて、単に技術がなかっただけ。追い込まれたら粘れるようにしたいという考え自体は前から変わっていない。多少は技術がついてきた。それに尽きると思います」

逆方向への意識の副産物。


 2018、2019年の2年間、背番号3は苦境に立たされた。レギュラーの座を失い、それどころか一軍さえも遠のいた。心も揺れた。ネガティブな思考の渦に吸い込まれそうになった。

 だが、抗った。がんばっているつもりだった過去の自分が2年間の不甲斐ない結果をもたらしたと考え、野球の神様が試練を与えているのだと思うことにした。

 だから――必死さの次元を上げた。梶谷は言う。

「今年はかなり本気モードだなと思います。これまで本気じゃなかったのかって、そんなふうに誤解されたくはないですけどね。いつも自分なりに必死でやってきたんです。でも、人間、自分では気づかない部分もいっぱいある。逆境になって、切羽詰まってきて、追い詰められると人間はすごいパワーを発揮できる。(やってきたことが)自分に返ってきたかなと。いいときも、悪いときも」


 努力の厚みは土台の厚みと同義だ。8月、左足かかとの打撲で欠場した時期の前後、16打数連続ノーヒットと不振に陥りかけたが、「バッティング自体には何の不安もなかった」。

 信じて続けてきた逆方向への意識を持った打撃練習は、思わぬ副産物をもたらす。

「反対方向に確率よく打てるようになった点と、あとインサイドの甘めの球をホームランにすることができるようになったのは自分でもびっくりしてます。正直、今年はまったくホームランを意識してなくて、間違いなくひと桁、まあ5本も出ればいいほうだなと思っていたんです。センターから逆方向に意識を持っていても、意外にホームランが出るんだなと気づけたことは意外な発見であり、すごい収穫だった」

 19日のジャイアンツ戦で放った2本のホームランが象徴的だ。14号は球速118km、15号は119kmのスライダー。引っ張りをこらえてきた男のもとに緩めの変化球が投じられたとき、瞬時、引っ張りの本能は解き放たれた。

梶谷を唸らせる、佐野のすごみ。


 今シーズンの好成績は梶谷を安心させるどころか、むしろ向上心を焚きつけている。チームメイトが快音を残せば、すかさず声をかけ、自らにも生かせるヒントを探りにいく。キャリアも年齢も関係ない。

「柴田(竜拓)、倉本(寿彦)、佐野(恵太)……いろんな人に聞きますね。いいバッティングだったなと思ったら、どういう頭で打席に入ったのか、何を待って、どういう感覚で打ったのかって。そこには興味があるので」

 なかでも、新キャプテンの佐野に問いをぶつける頻度が最も高いという。リーグトップの打率をたたき出す25歳に、梶谷は賛辞を惜しまない。

「まず考え方の面で、賢い、頭がいいなと。プラス、それを実現できる彼の技術はちょっとずば抜けてるなと感じてますね。去年も見ていてすごいバッターだなとは思っていたけど、ここまで率を残せるとは」

 佐野に話を聞くたび感嘆せずにはいられないのは、その割り切りだ。この打席でどの球種にターゲットを絞るのか。背番号44は、ときに明確な意志を持って打席に立つ。


「肝が据わってるというか。そこまで割り切って打席に入れるのはすごいな、と。何かを待つということは何かを捨てるということでもあるので、なかなか勇気が要ること。腹をくくってそれを待って、ヒットにする、ホームランにするだけじゃなくて、捨てているはずの球でさえ反応してヒットにしてしまう技術がある。それがレギュラー1年目でできるというのはもう……。すごいですよ、あの人は」

 9月、ふたりは競い合うように打っている。過密日程の今シーズンも3分の2に当たる80試合を消化。疲れの蓄積はあるに違いないが、切磋琢磨し合う打線はいまだ活発だ。

 残り40試合に向かう心持ちを、梶谷はこう語る。

「まずはケガなく残りの試合に出続けたいし、目標にしている打率3割をなんとかクリアしたいと思っています。あとは、今年かなり意識している得点を増やしたいですね。あとを打つバッターがどんどん返してくれますけど、自分の足でもなんとか得点を増やしていきたい。ぼくたちは毎日、1試合1試合、やれることをきっちりやっていくしかない。自分のパフォーマンスを精いっぱい出せる準備をして、そこで結果を出すことがすごく重要だと思います。スタジアムにお客さんがこれまで以上に入って盛り上がるようになりましたし、すごく選手たちは力をもらっている。少しでもいいプレーを見せられるように、がんばるだけです」

 復活した“青い韋駄天”は、2020年シーズンのゴールテープを切るまで、全力で駆け抜ける。



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https://www.baystars.co.jp/news/2020/09/0917_02.php

『FOR REAL – in progress -』バックナンバー
https://www.baystars.co.jp/column/forreal/

写真=横浜DeNAベイスターズ

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