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『Microsoft Flight Simulator』「飛行訓練ってどうやるの?第1回」現役プロパイロット達がゲームを通じてご紹介「注意しなければならないのは、会社に雇われて訓練を受けている場合です」【特集】

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『Microsoft Flight Simulator』「飛行訓練ってどうやるの?第1回」現役プロパイロット達がゲームを通じてご紹介「注意しなければならないのは、会社に雇われて訓練を受けている場合です」【特集】

『Microsoft Flight Simulator(以下MSFS)』は、航空機フライトシムにおいては特に歴史のあるタイトルのひとつ。全世界のファン待望のシリーズ最新作が2020年8月18日、およそ14年ぶりにリリースされました。

前回、こちらの記事で現役プロパイロットである筆者が、同じく現役のビジネスジェット機長と共に、フライト前の準備を紹介しつつ実際のフライトを行いました。その際、編集部の方から「飛行が大変なのはわかった。じゃあ、そのためにパイロットはどんな訓練をやるの?」と大変良い質問を頂戴しました。

そこで、今回からは「自家用操縦士の資格を取得する」というテーマのもと、「リアルで実際に使える」実践的な訓練内容を複数回にわたって紹介してまいります。

ゲストには今回もglexdriverさん(以下、GD)をお呼びして、筆者の操縦画面を共有しながら2人で語っていきます。前回からの文末用語集は今回も用意しているので、安心安全。記事中に出てくる単語で「*」マークがついているものは記事末の用語集に説明があるので、あわせて確認してみてください。
ーーさて全体通してもう4回目となる本連載。GDさん今回もどうぞよろしくお願いします。

GDよろしくお願いします。これまで楽しい時間を過ごさせてもらっているので、今回の企画もお声がかかるのを心待ちにしていました。

ーー今回は自家用操縦士の資格を取得ということで「何を目的として、どんな訓練をするのか」という部分の話を『MSFS』で実際に確認しながら話すことができたらと考えます。とはいえ、この記事だけですべてを網羅しようとすると、流石に果てしない長さになるので何回かに分けることになります。

GD今日の収録は5時間いくかな……(笑)

ーーいやいやいやいやいきませんいきません(汗)たしかに第1回のインタビューの時、あとで録音したデータ確認したらハンガー内でアレコレ話してる部分で軽く1時間以上使っていましたからね……。

大丈夫です!今回の企画は、資格取得までの流れを大まかに「基本飛行技能の習得」「応用飛行技能の習得」「野外飛行技能の習得」という3つに分けていきます。この記事はその第1回目なので、基本的な部分をお話しすることができたらと考えます。記事の読みやすさを考えれば、それぞれの回も場合によっては前編後編といった形でさらに分けていこうかとも考えています。

GDそれが良いですね。話しているとあっという間ですが、あとで時計を見た時に「あれ!?」ってなることしばしばでした(笑)それであれば今回についてはプリフライト(飛行前点検)について話してから、タキシング、離陸、上昇、下降、水平飛行、旋回を紹介していく感じでしょうか。スローフライト、パワーオフストールの他に急旋回や着陸などについては次回に持ち越した方が良いのかな?

ーーそうなりますね、いくつかの部分はこれまでの記事中でも触れたトピックではありますが、訓練という切り口からあらためて紹介していこうと思います。
プリフライトでは手早く確実に異常を発見すべし
ーー今回の企画で紹介していく訓練の各内容はすべて「単独飛行ができるようになる」ことを目的としています。このシンプルなフレーズに含まれる要求項目の多さたるや。

GD出発前の準備から到着後の後片付けまで、一人で安全に出来るようになりましょうということですからね。




ーーともあれ今回は、説明のやり易さという点でC172のG1000*装備を使用機体に選びました。米国内の飛行で出発地はグランド・キャニオン・ナショナル・パーク空港(コード:KGCN)で目的地はセドナ空港(コード:KSEZ)に設定。さっそくプリフライトについてからやってまいりましょう。

GDプリフライトのなかでもとりわけ機体外装点検における大事なポイントは手短に完了し、機体の異常を発見することにあります。もちろん趣味で飛ぶ際はたっぷり時間をかけて点検するのも良いことですが、仕事で飛ぶ際に時間をかけすぎて運航に影響が出てしまっては元も子もありませんからね。

そう、プリフライトもれっきとした訓練のひとつです。安全に深くかかわる工程なので、手順だけ流して終わらせるようなことをしてはいけません。訓練生の皆様におかれましては、機体の通常状態をしっかり覚えた上で、速やかに点検を完了するのと同時に異常を発見できる技量を身に着けて欲しいですね。

ーー手短に完了することは、イコール「急いで慌てて行う」という意味ではなく、要所を的確に手際よく確認していくという意味です。例えば、C172を使用する際に僕が気をつけているのは各操舵面と足回りについてですね。

ブレーキは正しく動作しているのか、油圧系統に漏れはないか、ネジなどがしっかり締まっているか、カウンターウェイトやケーブルなど動作に関わるものが正しく取り付けられているか……などなど。点検の順番については、法的な縛りは無いはずですが、僕は極力マニュアル通りに進めます。

本来であれば青い丸の部分にカバーが取り付けられます
GD順番については、私は「最後にうっかり忘れた」という事態を防ぐために機体外装に取り付けられたカバー類*、タイダウン*、チョーク*を先に外します。

あと機体を移動させた時や、ハンガーから出した直後はすぐ前輪からトーバー*を外します。これらの外し忘れは、エンジン始動後に困った事態になってしまいます。特にうっかり外し忘れたトーバー*にプロペラがぶつかってしまうと衝撃でダメージが入り、オーバーホール作業でしばらく飛行不可になりますからね。

C172などの小型機を使う仕事というのはいくつかありますが、やはり主に訓練で使用されることが多いと感じます。私も御多分に漏れずキャリアのなかで飛行教官として飛んでいましたね……そこでしばしば1日に数本の訓練が重なり、インターバルを挟みつつも合計で6時間飛ぶということがありました。

今でこそ当たり前にその時間以上の運航で世界各国へ飛んでいますが……駆け出しの頃の密なスケジュールというのはとても疲れるものです。疲れがピークを迎えるスケジュールの終わり頃というのは、まさにうっかりやポカが起こりがちなタイミングなので特に注意しなければなりません。あと夜間帯はこれに加えてさらに視界も悪くなるので、絶対に見落としがないよう集中して取り組む必要があります。

ーー飛行教官だと生徒さんに教えながら、機体の手綱を握って周囲に気を配りつつ飛行するわけですからね。通常のフライトとはまた違った体力の使い方だと思います。僕はカバー類*については点検完了時に外すので、「ここまでは点検完了」という目印として捉えていました。

例えば何かしらの理由で手順が前後してしまった時に、右翼のタイダウン*が繋がれたままなら「ああ、右側の点検はまだ済んでないな」と確認ができますからね。ただまあいずれにせよ人間は必ずミスをするものとして構えて、うっかりの防止の徹底を努めていきたいところです。

青い丸の部分、本来であれば下げの位置にあるハズ
GD本当に今更気づいたことなのですが、普通操縦桿に触れていない時って、エレベーターは完全に下がっていなければおかしいですね。これガストロック*が取り付けられているとかでしょうか?

青い丸部分に差し込まれているガストロック*が見当たりません
ーーコックピット内の操縦桿も確認しましたが、そういった装置は見当たりませんね。もしかしたら油圧でニュートラルポジションに調整されるジオン脅威のメカニズム*が組み込まれたC172なのかもしれません。

GD機体が高価になるとそれだけ訓練費用も高くなりますよ!とにかく言わんとすることは、こういう「普段と違う部分」を発見して確認することの大切さです。異常がなければ良し、あれば飛ぶ前に確認出来て良しと、安全にとって良いこと尽くし。繰り返しになりますが訓練生の皆様におかれましては、たくさん経験を積んでもらい異常個所をなるべく出発前の地上で発見できるようになって欲しいですね。

青い↓部分が燃料キャップ
ーーちょっと話が脇道にそれますが、燃料キャップはちゃんとフタが締まると取っ手部分が気流と同じ向きに並ぶよう再現されていますね。流石にFuel Sumpはできないみたいですが……。このSumpは、現実では燃料タンクの中に水やゴミが紛れ込んでいないかを確認する大事な点検です。燃料以外の不純物がエンジンに流れ込んでしまったら故障の原因になってしまいますからね。

GD降水の多いエリアの運航が不慣れだった駆け出しのころを思い出します。タンクにFuel Tester*を押し当てて流れ落ちてきた燃料を確認したらほぼ水しか入ってなくてびっくりしたことがありました。あとちょっと記憶に自信が無いのですが、エジプトかインドかで燃料に水が混入すると色が変わるテスターの存在とか聞いたこともあります。

ーー調べると車のガソリンでもおなじみShellがWater Detectorというカプセル商品を出していますね。燃料がこのカプセルに触れて色が青から黄色に変化したら水が混入していると判断できるとのことです。
チェックリストの使い方あれこれ
GDこれから初めて飛行機を飛ばしますという訓練生に対してチェックリスト*の使い方を教えるとき、どうすれば良いと思います?

ーー安全なフライトのために定められた手順ですから、抜けや忘れが無いように声に出して読み上げ、目でスイッチ類などの対象を見て操作する……こんな感じでしょうか。さらにはチェックリストの写しとコックピット内部の写真を用意して、実機で操作するように読み上げて練習するイメトレを繰り返して覚えてもらいます。この練習法は椅子に座って行うので「チェアフライト」と呼ばれることもありますね。

GDそうですね。ちなみにこれが会社に雇われて訓練を受ける場合、パイロット2名のうち一方が読み上げてもう一方がそれに応じる形で操作をしていくというやり方を教わったりします。もっと早くチェックリストを完了する場合は、内容を全部覚えた上で流れに乗って先に一通り終わらせてから、リストを使用して再度確認していくこともあります。二度手間に思うかもしれませんが、実際やってみるとこちらの方が手早く確実に完了できました。

ーー流れに乗るというのは、例えばコックピット内部のパネルに並ぶスイッチ類を押していく時の手の動きが上から下、または右から左などフローが出来上がっているということですよね。面白いのは、頭の中だけで「1番目はコレ、2番目はソレ、3番目はアレ……」と覚えようとしても上手くいかず、身体の動作と合わせることでスラスラと覚えていくことができます。

GDそうですそうです。ちなみにもっと早くチェックリストを進める場合というのは、通常時はもちろんのこと緊急事態に対しても効果的ですね。初動の数ステップをどれだけ手早く確実に行えるかが、その後の明暗を分けるため本当に大事です。その際、手順を思い出そうとして時間を浪費したりすることなく、かといって慌てた操作で状況を悪化させることもなく、正確な手順を手早くこなせるようになるには、それを流れとして頭と身体に馴染ませるような練習を重ねる必要があります。

ーーこのC172などの小型機を使用した緊急事態の対処訓練でも、最初の数ステップをすぐ対応できるよう覚えて練習しましたねー。

ありがちなのが機内に意識を集中しすぎてしまうこと
GD訓練全体を通じて言えるアドバイスがひとつあります。それは「計器だけでなく、常に機体周囲にも気を配ること」です。これは何も飛行中だけに限った話ではなく、これから行うエンジン始動とタキシング*にも関係があります。

ーー仰る通りですね。僕はエンジンかけるときは、特に背後に注意していました。エンジンが始動すれば高速で回転を始めたプロペラによって機体後方へ強い空気の流れが発生します。その後流、またはそれによって巻き上げられた地上の小石が、たまたま機体の後ろを歩いていた人に当たってケガをさせてしまうようなことは絶対に避けなければなりません。

GDその周囲安全の確認が取れたら、エンジン始動前に「Clear Prop!」と機内から外に向かって声を出すことで周囲へ「これからエンジンかけるぞ」と宣言します。無理もない話なのですが、運航に不慣れな人がたまに機体周囲で予測不可能な動きをされることがあります。そういった方に対しては、あわせて声をかけてこれから起こる状況を説明をしてあげると良いでしょう。

ーーそういえば結局第1回の特集からこっち、ショートカットキーでしか始動できていないエンジン……これは一体何が原因なのか。

GDちょっと考えたのですが、ショートカットキーを入力した際に各レバーがどのように操作されているのかがわかれば、それをなぞることで主導による始動もできるのではないでしょうか?

ーーなるほど、試してみましょう。

青い矢印部分がミクスチャーレバーです
GDあ、ショートカットキーは始動時にミクスチャー(混合気調整用のレバー)を奥まで押し込んでいないですね。

ーーいま何度か手動で試してみたのですが、ミクスチャーレバーを押し込んだ時のみエンジンが落ちますね。これをあえて60~70%程度にまで留めてみると……お、回転数を拾ってエンジンが安定しました。

GDこれはどういう理由なのだろう……。現実のフライトですとエンジンがここまで繊細な反応というのはちょっと考えにくいです。もしかしたら『MSFS』内における他の何かのシミュレートと干渉してこういうピーキーな反応を示すのかもしれませんね。
タキシングはかなり神経を使うシーン
GDタキシングの時、訓練生にぜひとも体得してもらいたいのは機体への入力と反応の感触ですね。地上を移動する際は、誘導路のセンターラインを維持しつつ、いつでも停止することができる「歩くような速さで」あることが適切とされています。

ーーゲーム『.hack//G.U.』のvol.3タイトルと被ってますね(彼方に視線を結びながら)

GDちょくちょくこれがゲーム記事であることを意識した発言をされますね?

ーーははは、タキシングのスピードコントロールですがたまにブレーキをかけながらスロットルをあけるような操作をする訓練生の方がいらっしゃいます。特に地上で旋回する直前などでそういう操作が行われやすいですね。これは言ってしまえばアクセルを踏みながらブレーキも押し込む操作でして、飛行機でヒールアンドトゥ*をやる必要はありません。

GDそうです。無駄な操作を減らして機体をスムーズに地上走行させることは燃料消費や機体への負担を減らし、さらには周囲への安全を確保することに繋がります。そのためにもどれくらいスロットルをあけると、どのくらいの速さがでるのかという機体のパフォーマンスを訓練の早い段階で体得しておく必要があります。

また風の強い日は、地上走行中に機体が強風に押されて横滑りしかねないため、風向きに合わせて適切にエルロンとエレベーターの位置を調節して「風が機体表面を流れやすくする」必要があります。これをやるとやらないとでは、地上走行のやり易さが大きく異なりますね。

ーーあとは訓練初期段階で地上走行中の旋回操作をエルロンではなくラダーでやるよう体得してもらうことでしょうか。皆さん初回でよくやりがちですが、車のステアリングよろしくエルロンを右に左に切って曲がろうとするんですよね。

これ、タキシング中は操作を多少誤ってもすぐブレーキかけて停止できるからまだ良いものの、もし離陸中や着陸直後の滑走状態でやらかすと結構クリティカルな事故につながりかねないです。速度が乗っているので小さな間違いがそのまま大きな問題に繋がる典型例ですね。一事が万事、きっちり練習して身に着けたいところです。
離陸
GDここから実際に飛び始めるわけですが、今回の訓練目的はすべて「機外の景色を覚えて、時折機内の計器を確認して機体の姿勢を維持しながら飛行する」に集約されます。離陸上昇水平飛行下降旋回すべてに対して、「外さえ見て飛行を維持できればよし」と言っても良いくらいです。

ーー仰りたいことはわかりますがちと乱暴すぎませんかね!?

Holding Position Marking、実線と破線による二重線部分のことですね
GDいまこれ許可の無いままHolding Position Marking*を軽やかに通過しようとしていますけどタワー(管制塔)からクリアランス*もらってますか?

ーー……っぶねえ!(急停止)

GDとはいえさすがにクリアランスが取得できるほどATCの再現度が完成されてるわけじゃ……

できてた
ーー貰っていました。さすが痒い所に手が届く拘りのある『MSFS』……。

GDフハッ(感嘆の鼻息)


ーーともあれ離陸開始です。フルパワーにセットされたエンジンが唸りをあげております。

GDその際にエンジンに関する計器類パネルを上から下へ流れに乗って確認しましょう。すべてのインジケーターが緑色を示している必要があります。


ーーオールグリーン確認。このまま離陸速度57ktまで加速をします。

GDフルパワーのプロペラ機体は進行方向左側に機首が流れていく傾向があるので、ラダーをしっかり当てて機体をセンターラインに沿って滑走しましょう。
上昇と下降

GDで、上昇する時にどのくらい機首上げの角度をつければよいのか?という話ですが……

ーー目の前の地平線または水平線に機首が触れる程度にスッと機首を上げてその角度を維持すると丁度良いですね。

GDははは、説明を受けてくれましたね。その通りです。これらの線よりも機首が高くなっていくと、かえって上昇速度が緩やかになりますし、最悪の場合迎角が臨界点を超えて失速に陥る可能性があります。反対に、機首が低くなっていくと、今度は高度が上がらないどころか下降をしてしまいます。外の景色を見て姿勢を確保したら、機内の計器をさっと見て、飛行機に対して自分が正しい操作入力を行っていることを確認しましょう。

ーーあ、そうだ。実機だと所定の高度に達する前にスロットルから手を放して上昇を続ける方がたまにいらっしゃいます。個人的にはエンジンの不具合が発生したときにすぐ対応できるよう、離陸上昇中、片手はスロットルに置いていて欲しいですね。エンジンが最大出力で回っている時こそ何かトラブルが起きやすいぞ……という感覚です。

GDそうですね。あと先ほどピッチを上げるという言い方をしましたが、個人的な感覚だとグイっと機首を引っ張り上げるのではなく、軽くピッチアップになるよう弾みをつけてあとは飛行機自身が勝手に上昇していくよう方向付けをしてあげる感じです。優しくエスコートするイメージでしょうか。

ーー理想は操縦桿を2本の指でやさしく摘まんでスイっと揺らす感覚ですよね。もちろん天候によってはそれができないことも多々あるので、あくまで感覚です。実際に操縦桿にしがみついて力任せに操作入力するよりは、機体の動きに合わせて一緒に動作を流してあげる方がやり易いですね。手前の命を預ける機体と喧嘩しても良いこたぁありやせんぜ。


ーーまた下降の際は、機首を下げつつパワーを少し落としますね。ピッチを深く下げてフルパワーにセットすると対気速度がグングン上がって勢い良く下降します。状況によってはそれでも良いのですが、少々攻撃的な操作のきらいがありますし、場合によっては機体構造にダメージが入りかねない制限速度にまで加速してしまいます。周囲の様子を見つつ計器を確認して、適切な操作を継続していきたいところです。

GDそうですね。いずれの場合においても、外の景色と中の計器を見比べながら覚えて、素早く機体の姿勢を安定させて下降できると良いですね。
水平飛行

ーーさて水平飛行に移りました。機首をピッチアップの姿勢から地平線に向かって下げて、空と陸がそれぞれ50%ずつ視界に収まるような位置に合わせることで高度を維持。それと同時にパワーを絞って、速度も巡航速度になるよう調整します。この景色を覚えて機体の姿勢を判断しましょう。

例えば空がより多く見え始めたら機首が上がっており、反対に陸が多く見え始めたら機首が下がっていると判断ができますね。また、この時点で一度トリムを設定します。この設定によって、操舵面へかける操作圧力を緩めることができます。

簡単に言えば、力いっぱい操縦桿を前に倒してようやくピッチダウンになるような操作圧力が、トリムを取ることで軽い力で少し傾けるだけでピッチダウンを維持できる程度に軽減されます。これにより操作に割くワークロードも軽減することができます。

GDピッチ、パワー、トリムの順番による操作は基礎中の基礎ですね。姿勢が整わないうちにパワーを入れると機体はなかなか安定せず、いつまでも目標高度から上がったり下がったりを繰り返してふらふら飛んでしまいます。まずは何よりも姿勢の確保が肝要です。さてさて安定したところで、高度を維持しながら対気速度を上げていきましょうか。ラダーの入力も忘れずに。

ーーラージャ。少し機首を下げつつパワーを入れていきます。ここで機首を下げておかないと推力増加による加速と揚力の増加で機体が上昇してしまいます。ここでマズイ対応は、先ほどと同様、各操作入力による機体パフォーマンスへの影響を確認しないまま、あれもこれもと修正操作を繰り返してしまうことです。

それによって機体は目的の状態から逸脱したエラーが続き、パイロットはそれに対して修正操作をずっと続けていかなければなりません。修正操作はエラーを発散させるのではなく収束させるために行うものです。

良い子の訓練生の皆様におかれましては、訓練初期の段階では丁度良いバランスのポイントを探りながら、少し操作を入力してはパフォーマンスがどう変化するのかを確認していくと良いでしょう。その経験を積むことで、その後の操作速度と精度がどんどん高まっていきます。

GDそうやって経験を積んで技量を高めていけるのは自分のタイミングで時間と資金を使える自費訓練であればこそですね。ただし注意しなければならないのは、これが会社に雇われて訓練を受けている場合です。

飛行機の訓練費って、例えば機体と教官代込みで1時間当たり200ドルとか平気で超えるじゃないですか……とっても高額ですよね?それを会社に出してもらっているわけです。ただでさえ免許取得までの期日とスケジュールがタイトな中で、どこにも無駄にできる時間はありません。

そのため訓練中に機体の操作にもたつく時間なんてものも当然存在せず、教官から「対気速度○○kt」と指示が来た時に速やかに対応できないとその時点でフェイル、最悪の場合はリトライ無しでクビです。

自費で訓練する時と、会社で訓練する時の違いはまさにここにあって、前者は「少しずつ経験を積み上げていく」というスタイルに対して後者は「自分を枠の中に収めるようアジャストしていく」というものになります。

ーー会社での訓練では「まったく未知の状況から訓練を始めるとき、どれだけ早く要領を掴んで、どれだけ素直に反応できるか」ということが重要になってくると僕は捉えています。

GDそうですそうです。だからパイロットの就職活動では、「未知の状況でも訓練をきちんとこなすことができるのか否か」という部分が見られます。よくある話なのですが、ここで経歴が伴っていないのに、自分の技量や経験が如何に素晴らしいかを飾り立てるような履歴書とカバーレターの書き方をしてしまうのはおすすめできません。

なぜなら企業は、その言行不一致の応募者は運航にとって危険な人間性の持ち主と判断して不採用とするからです。私もビジネスジェットの仕事において、技量の高さを誇っているパイロットをあまり信用できません。

あくまで個人的な経験ですが、彼らが中身の伴っていない背伸びや無意味な競争心をしばしばコックピットに持ち込んでくることがあり、最悪の場合は運航全体の安全が脅かされてしまう可能性すらあるからです。以前もお話ししましたが、私がいる場所は機体を飛ばせて当たり前という人が就くポジションなのです。まあ、そういうタイプの人って割とキャリアの早い段階で弾かれてしまうのですが……。

ーー爽やかに話される割に内容が厳しすぎて心臓がギュッとしめつけられる……。自分の話で恐縮ですが、個人的にはパイロットのキャリアで一番苦労したのは最初の就職活動における履歴書とカバーレターの作成だと感じます。未経験な己を偽ることのないようにと脳を振り絞って書き上げては他の人達から一刀両断のダメ出し添削を受けて、最終的には数か月かけて30回くらい書き直してやっと本命の会社に提出できた当時の記憶。

スペルミスもそうですが、ピリオドの位置ひとつズレるだけで採用担当者に読んでもらえませんからね。幸い僕は軌道修正できたおかげで希望通りの場所で働くことができましたが……。あの頃の初期原稿を読み返すとあまりにも言行不一致というか情緒不安定というかポエムというか、思い上がり甚だしく誠に申し訳ございませんでしたという気持ちでいっぱいになります(汗)

GDははは、私もそこはとても苦労したところです。
旋回

ーーさて旋回操作の時、何も考えずにエルロンだけ切って右へ左へ蝶よ花よと旋回を始めてしまうと高度がじわじわと下がってしまいます。そもそもなんで機体を傾けると旋回が始まるのよという話ですが……水平飛行時に機体を空中の一定高度に保持するべく、垂直軸に沿って上方へ作用していた揚力が、傾けられることによって水平軸にもいくらか分配されるためです。

この水平軸の分、機体の真上から見ると円運動における向心力だと気付きます。つまるところ、この成分のおかげで機体は旋回が可能になる訳ですね。ともあれ揚力の総量が同じである場合、水平軸に分配された分、垂直軸の揚力は減少してしまいます。その結果、水平飛行時の高度で機体を保持することができなくなり高度が下がり始めてしまうわけです。

GDその高度変化を防ぐためには、少し機首を上げて揚力を稼いであげたり、それでも下降が止まらない場合はパワーを入れてあげたりします。この時もピッチ、パワー、トリムの順に設定してあげることができたら良いですね。

また忘れてはいけないのがラダーの適切な操作。これをせずに機体を空中でこじるように旋回してしまうと、スリップまたはスキッドという状態が発生してしまうことがあります。前者は機首が旋回方向の外側に向かって滑っていき、後者は旋回方向内側に向かって滑っていきます。細かい空力の話はありますが、結論だけ書くと、この状態でうっかり失速に陥る場合、スキッドの方が特に危険です。

その理由は失速だけでなく、とっさの回復が難しいスピンにも陥りやすいためです。またそれらは着陸前のトラフィックパターンで無理に滑走路へ向かって旋回しようとするときに起こりやすく、これで命を落としたパイロットの例は枚挙にいとまがありません。

ーーこの旋回操作中も外の景色と中の計器の様子を覚えておくことが大切ですね。この機体が傾いた状態で計器だけに意識を集中してしまうとあっという間に姿勢と高度がめちゃくちゃになってしまいます。

GD地平線がコックピット内部のダッシュボードのどの辺を通過しているのかを把握すると、その2つの線が作り出す角度でおおよそのバンク角度を把握することができます。ぜひ活用してみましょう。

(特集2につづく)
このまま書き続けていきたいところですが、道のりは果てしないため今回は一度ここで区切りとさせていただきます。現役プロパイロット2名による『MSFS』訓練飛行特集、次回はスローフライトやストール、急旋回などの飛行技能を紹介していきます。お楽しみに!

大空を自由に飛び回る体験ができる『Microsoft Flight Simulator』はPC(Windows 10/Steam)向けに販売中。Windows 10版においては、PC用Xbox Game Pass(ベータ版)にも含まれます。エディションによる価格等の詳細は、各ストアページをご確認ください。
用語集:並びは本文中に現れた順
G1000
Garmin社が開発したグラスコックピットのこと。複数のゲージに分かれてコックピットのパネルに取り付けられていたアナログ計器をデジタルですべてひとまとめにして表示してくれるすごいディスプレイ。他にも様々な機能が搭載されていますが、全部説明しようとすると本当に切りが無いので割愛。

カバー類
ピトー管やエアインテークといった空気を取り込む場所に取り付けることで雨風を凌ぐことができる優秀なカバーのこと。また、ピトー管にカバーを取り付ける動作から連想されるナニかについて、いかに品位を落とさずにギリギリのジョークをぶっ放せるかの大喜利がたまにパイロット間で行われたり行われなかったり。

タイダウン
固縛用ロープのこと。主翼や尾翼まわりに取り付けらえたフックに、地上に打ち込まれたロープを取り付けてピンと張力を働かせることで、駐機中の機体が風に煽られ不用意に動き出さないようにすることをタイダウンと言います。

チョーク
車止めのこと。タイダウンと同様、風や地面の傾斜によって機体が勝手に動き出さないよう着陸装置であるタイヤの各部に前後から挟み込むような形で取り付けます。これを外さないままエンジンをかけてしまうと、いざ出発という時に機体がまったく動かず肝を冷やすことになります。

トーバー
機体をけん引する装置のこと。これを機体に取り付けることで、牽引することが可能になります。なかに動力がついているタイプもあったり。

ガストロック
風などで機体の各操舵面が勝手に動き出すことのないよう、操縦桿に差し込む固定用の金属棒のこと。これを外し忘れたまま離陸をするとコントロール不能状態に陥って最悪アクシデントに発展することもあります。

ジオン脅威のメカニズム
漫画「機動戦士ガンダムサンダーボルト」を読んでいてたまに「さあて今週のびっくりドッキリメカは!?」みたいな気分になります。ところで同作者さんによる「MOONLIGHT MILE」の続きはいつ……いつ読めるのですか……。

Fuel Tester
ちょっと太いマジックペンサイズな管状のテスター装置のこと。Fuel Sump時には、これの突起部分を検査穴へ差し込んで燃料に水や不純物が混ざっていないかを確認します。僕は「確認し終わった後の燃料をその辺に撒くのだけはやめろ」と教わっています。正しい手順で廃棄しましょう。また、突起部分を検査穴に差し込む動作から連想されるナニかについて、いかに品位を落とさずにギリギリのジョー(以下略)

チェックリスト
機体を安全に運航するにあたりバイブルともいえる手順書。1にも2にもチェックリストに従って操作することで、手順の抜けや順番間違いを防ぎます。慣れてくると身体に染み込んで勝手に反応できるようになりますが、それはそれで見落としの原因にもなるのでリストからの逸脱が無いようやっぱり注意が必要です。

タキシング
地上滑走のこと。C172はただセンターラインに沿って動けば良いのですが、問題は尾輪式の機体は前方視界が極めて限定されてしまうため蛇行することで視界を確保します。

ヒールアンドトゥ
足のつま先とかかとを使ってブレーキとアクセルをコントロールする車のドライビングテクニックのこと。ロボットアニメ「地球防衛企業ダイ・ガード」においても主人公が敵との戦闘で見せた技でもあります。飛行機ではもちろんできません。

Holding Position Marking
誘導路と滑走路を分ける境界線のこと。直線と破線が並行した二重線で、誘導路→滑走路へ進入する際には直線側から通過、滑走路→誘導路へ出ていく際は破線側を通過します。前者については、タワーからの許可が無い限り絶対に通過/進入をしてはいけません。なぜなら別の機体が滑走路を使用しているかもしれないからです。

クリアランス
管制から貰う許可/承認のこと。これを貰わずに好き放題すると他機の安全に甚大な影響を及ぼしてしまうためご法度です。様々な理由でクリアランスが聞き取りづらい場合は「よーし、さっきの通信で許可をもらったハズ!」と決めつけて進まず、一度停止するなりして確認の通信を入れ、確実にクリアランスを貰ってから動くよう心がけましょう。


今回記事にご協力いただいたglexdriver氏のサイト「FL510.aero」では、各種ジョイスティックの輸入代行の他、本格的な『Microsoft Flight Simulator』の講習を企画中。また同作向けのアドオンを製作・販売予定の企業や個人に対する販売ライセンス取得支援サービスを展開しています。

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