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錦織圭「1年ぶりの試合にふさわしい」逆転負け 本人が明かす完全復活までの距離感。

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復帰初戦は逆転負けとなってしまった錦織圭だが、全仏までの調整期間ととらえているはず。 (photograph by AFLO)

 赤土の舞台に錦織圭が足を踏み入れると、センターコートの客席から拍手が起こった。白いヘッドバンドからは、コロナ禍の自粛期間中に伸びた髪がこぼれている。白いマスク姿ながら、鋭い目つきからは久々の実戦に懸ける強い思いが伝わる。

 スキーリゾートとして知られるキッツビュールの会場は、新型コロナウイルスの感染予防のための入場制限に加え、平日の夕方前ということもあってか、錦織戦では異例の1割ほどしか客席が埋まっていない。

 その一角には昨年から新コーチに就任したマックス・ミルヌイ氏が陣取り、メモ帳を手に気になった点を記録する準備をしていた。

 昨年8月の全米オープン3回戦以来となる実戦復帰。主催者による大会前の公式インタビューで、錦織は率直な心境を語っている。

「1年試合から離れて、緊張だったりいろんな気持ちもありますけど、すごく楽しみです。ひとつひとつの試合を楽しんで、早く自分のいいリズムだったり、自分のテニスが戻ってくるように、1試合1試合を頑張って臨みたいと思います」

「やはり1年離れていると……」

 昨年10月下旬の右肘手術から、10カ月以上が経過した。本人の公式アプリにたびたび投稿される最近の練習動画からは、本来の力強さや軽快なフットワークが戻りつつあることが窺えた。「楽しみ」という言葉を繰り返したのは、練習で手応えを感じているからだろう。

 もちろん、1年ものブランクの影響が小さいはずがない。ほとんど症状は出なかったというが、新型コロナウイルスの感染から復帰したばかりでもあった。

 復帰初戦の難しさは、本人も覚悟していた。

「やはり1年離れていると、なかなか自分の思ったようなプレーはできないと思うので、いろんな気持ちを楽しみながらプレーしたいなと思います」

1年ぶりの実戦と思えぬ完璧な組み立て

 開始直前にパーカーを脱いだ錦織は、右腕にサポーターを着けていた。

 復調の程度を確かめるための相手は、世界ランキング47位のミオミル・ケツマノビッチ。昨年3月に初めてトップ100入りし、着実に力を伸ばしているセルビア出身の21歳だが、2カ月前に骨折したという左手の包帯が痛々しく、こちらも万全ではないようだった。

 気持ちの良い青空の下、試合が始まる。

 標高が高く球が飛びやすい中、錦織は出だしこそショットがやや不安定だったが、すぐに修正した。第1ゲームから5ゲームを連取。バックのクロスで相手をくぎ付けにし、空いたスペースに正確なフォアのクロスを打ち抜く。

 ベースラインから下がらず、早い展開から積極的に仕掛け、相手が十分な体勢をつくる時間を奪った。完璧に近い組み立ては、とても1年ぶりの実戦とは思えなかった。

 ただ、その精度は長く続かない。徐々にミスが増え始め、第6ゲームから4ゲームを続けて落とす。それでも、5-4の第10ゲームは40-15と追い込まれてから丁寧なラリーで巻き返し、驚異的な守備力でも粘りながらのサービスブレークで何とかセットを先取した。

第2セット以降に隙を見せてしまったが

 一気に勝負を決めたい第2セット。中盤まで競った展開になる中、先に隙を見せたのは錦織の方だった。

 第7ゲームでサーブやショットのミスを重ね、最後はダブルフォールトで自滅。サーブは新コーチの下で改善を図っている技術の一つだが、この日、相手にブレークポイントを握られた場面で3度もダブルフォールトが出たのは反省点だった。久々の実戦という難しさを差し引いて考える必要があるとはいえ、本人も試合後に「(サーブは)課題の1つ」と口にしていた。

 その後も流れを変えられないままセットを落とすと、最終セットは序盤で決め球のミスを重ねて後手に回り、相手をさらに勢いづかせてしまった。

 試合勘を取り戻すには、試合を重ねることが何より大事。その意味でも初戦敗退は避けたいところだった。

 ただ、何度も繰り返すがこれは1年ぶりの復帰戦。大会前に本人が覚悟していたように、苦戦は織り込み済み。むしろ、試合の序盤で見せた高い精度のショットや攻めの姿勢、軽快な動きは長く実戦から遠ざかっていたとは思えないほどで、完全復活までの距離感は、それほど大きくないのではと感じさせた。

「ショットの感覚が100%ではないので」

 錦織自身、試合後の記者会見で悲観する様子は見せなかった。

「もちろん完璧ではなかったですね。でも悪くはなかったです。1セット目、いいプレーもできていましたし。内容的には課題ばかりでしたけど、そこまで悪くはないんじゃないかなと思います。ちょっと大事なところが取れなくて、すごいブランクを感じさせる……1年ぶりの試合にふさわしいというか、ちょっとリズムに乗れなかったところがあるので。まだまだショットの感覚が100%ではないので、試合を重ねていって、もっと(感覚を)得ていきたいなと思います」

 敗因については安定感のなさを挙げた。

「まだレベルを維持するのは難しかったので、もうちょっとでしたね。もうちょっと試合を重ねれば、自分の感覚もつかめてくるのかなと思います」

気になる肘の状態については?

 この点でも、試合を重ねることが大事になると強調した。肘の状態については、少し気になるコメントをした。

「良くはなっているんですけど、もうちょっとですね。まだ傷跡が痛んだりはするので」

 この日の試合中もわずかだが痛みを感じたという。「こういう試合を積み重ねていければ、肘も準備万端になってくれると思います」。痛みの程度は本人しか分からないが、今の段階では今後に不安を残すほどではなさそうだ。

 9月27日開幕の全仏オープンまで続く赤土の道。今後もイタリア国際(ローマ/14日開幕)とヨーロピアン・オープン(ハンブルク/21日開幕)に出場し、試合勘や本来のショットを取り戻すことに専念する。

 大舞台までの調整期間は短いが、焦りはないようだ。いつ頃までに万全な状態に戻りたいかと問われると、こう答えた。

西岡とペアを組み、調整を進める

「特に今年は目標はないですね。本当に1試合ずつ。勝って何試合も重ねることが今は一番の経験値になるので、なるべく勝って試合数はこなしたいですね。今日みたいな試合を競って勝っていければ、より早く(万全に)戻ってこられると思うので。そこを頑張りたいと思います」

 キッツビュールでの戦いも終わっていない。9日には西岡良仁とペアを組むダブルスにも出場する。西岡によると誘ったのは錦織の方で、互いに試合勘をつかむためにエントリーしたという。

「ヨシはとても才能ある選手だし、一緒にプレーするのは楽しみ。ダブルスもしばらくプレーしていないので、学べることがあると思う」

 泰然と構えながらも、貴重な機会はしっかり生かして糧にする。

text by 長谷部良太
「テニスPRESS」

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