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新人王戦はボクシング界の希望だ。4回戦選手たちを救った協会の英断。

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中日本地区の新人王戦予選の様子。無観客ではあっても、選手たちは試合の機会を心から欲していた。 (photograph by Kyodo News)

 世界に類を見ない日本ボクシング界の伝統のトーナメント、4回戦選手による新人王戦がプロボクシング興行の再開とともに開幕した。

 今年で67回の歴史を重ねる新人王戦は国内のプロボクシングの土台とも言える大事な大会だ。新人王戦に意義について考えてみたい。

 日本プロボクシング協会(JPBA)が主催する新人王戦は、東日本(北日本を含む)、中日本、西日本、西部日本の4地区に分かれて4回戦選手がトーナメントを行い、最後は勝ち上がった東軍代表(東日本)と西軍代表(中、西、西部日本)が後楽園ホールで激突してその年の全日本新人王を決める――という大会だ。

 ただのルーキーズトーナメントと侮ることなかれ。このトーナメントで全日本新人王に輝き、のちに世界チャンピオンになった選手はファイティング原田を筆頭に、ガッツ石松、竹原慎二、畑山隆則、内藤大助……と、ここに名前を挙げきれないほどたくさんいる。

 新人王戦が昔も今も“チャンピオンの登竜門”と呼ばれるのはそのためだ。東日本の決勝、全日本新人王決定戦ともなれば、その盛り上がりは日本タイトルマッチをしのぐほどである。

7月に開幕できなければ見送りだった。

 その新人王戦が今年、新型コロナウイルスの影響で3月にすべての国内興行が中断されると、開催が危ぶまれる事態に直面した。

 新人王戦はトーナメントのため、通常であれば3月下旬ごろに開幕し、12月の全日本新人王決定戦でフィナーレを迎える。業界はコロナショックを受けて会期を来年2月まで伸ばしたが、それでもギリギリで7月中に開幕しなければ日程を消化できない。それができなければ今年の新人王は見送りだ。

 こうした状況で7月の興行再開のめどが立ち、7月12日の中日本新人王、同月30日の東日本新人王の開幕にこぎつけたのである。

出費は巨大でも理事会はGO。

 JPBAの林隆治事務局長補佐は、協会の熱意を次のように説明する。

「協会主催で無観客での試合となれば、かなりの出費が見込まれます。理事会ではそのあたりの説明も十分しましたが、反対意見はほとんどなかった。それだけ新人王を開催したい、という思いは協会員の間でも強かったと思います」

 コロナによる制約がある中で興行を開催する場合、選手のファイトマネー(6万円)、会場費、日本ボクシングコミッションへの承認料、コロナ対策費(PCR検査費、計量後に選手をホテルに隔離する宿泊費など)などすべてを合わせると、1回の興行で250万円程度の経費が必要になる。

 観客が入らなければ収入はほとんどないので、これをすべて東日本協会が持つことになる(会場が後楽園ホールの場合)。

 東日本協会は7、8月に無観客の新人王戦を3回開催。9月以降は観客を入れるとはいえ、入場者の制限や会場スタッフの増加を考えると、赤字額が大幅に改善されることはないという。

別会計でためてきたお金を切り崩して。

 それでも東日本協会が新人王を開催できるのは、長年にわたって新人王を別会計とし、コツコツとお金をためてきたからだ。伝統ある大会を守るため、何より4回戦選手の活躍の場を絶やさないためにも、先達の汗と血と涙によって残された資金をありがたく切り崩し、無観客での新人王戦開催にこぎつけたというわけだ。

 各ジムにとっても勝ちさえすれば、自動的に次の試合が決まるトーナメントは、マッチメークの手間が省けるという意味でもありがたい存在なのである。

中止なら引退者も増えていた可能性が。

 4回戦選手の活躍の場を絶やさないと書いたが、現状はグリーンボーイたちにとって極めて厳しい状況と言えるだろう。

 プロボクシングの興行は7月に再開したとはいえ、コロナ対策によって試合数は1興行原則8試合以内(後楽園ホールの場合)と限られている。出場選手が多くなればウイルス感染検査の手間と経費が増えるし、控え室の“密”も避けられなくなるため、感染防止の観点から試合数を制限している。

 こうなると優先されるのはどうしても上位選手の試合になる。実際に再開となった興行の中身を見ると4回戦の試合がとても少ない。

 東日本協会の新人王運営委員であり、国内で多くのイベントをプロモートするDANGANの古澤将太代表は次のように語る。

「おそらく今年の新人王が中止になっていたら、エントリーした100人以上の選手は2020年にまったく試合ができなかったと思います。

 4回戦の選手は言うまでもなく試合を重ねて力をつけていきます。それ以前に1年以上も試合をできなかったら、気持ちが続かなくてやめてしまう選手も多いことでしょう」

「負けていたら今年はもう試合がないと」

 多くの4回戦選手がアルバイトをしながら、限られた時間の中でトレーニングに励み、リングに上がっている。8月3日に後楽園ホールで開催された新人王戦に出場した選手は「勝ち残れてよかった。負けていたら今年はもう試合がないと思っていましたから…」とほっとした表情を見せたものだった。

 古澤代表は自社がプロモートするDANGANでオール4回戦興行を10月と11月に開催する。選手に募集をかけたところ60人以上も集まり、試合を求めている選手が多いことをあらためて実感した。

プロテストもただいまストップ中。

 さらにもう1つの問題を古澤代表は指摘する。

「この時期に例年、オール4回戦興行を開催していますが、普段ならデビュー戦の選手がけっこう多い。ところがいまプロテストが止まっていて、10、11月の興行にデビュー戦の選手は出ない。この状況でオール4回戦興行に60人の応募ですからかなり多いと言えます。4回戦選手の試合が少ない上に、テストが開催できないとなれば、来年以降が心配です」

 日本ボクシングコミッションは3月、興行の中断と同時にプロテストをストップした(B級テストだけ一部実施)。たとえテストであってもリングに上がるのだから、新型コロナウイルスの検査をはじめ、さまざまな感染防止対策が必要になる。

 現在、プロテストを待っている選手は90人程度いるものの、ようやく試合再開にこぎつけた状況では、テストまで手が回らないのが現状だ。

新人王戦の開催は大きな一歩なのだ。

 日本のプロボクシングは裾野を広く保ち、チャンピオンを頂点としたピラミッドをつくって運営されてきた。チャンピオンクラスが辞めたらニュースになるが、4回戦選手が辞めてもニュースにはならない。

 しかし、いうまでもなく、あすのチャンピオンは4回戦選手から生まれる。新人王戦が開催されたことにより、引退する4回戦選手が減ったとするなら、それはとても大きなニュースと言えるのだ。

text by 渋谷淳
「ボクシング拳坤一擲」

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