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桐生祥秀が新国立の初代王者に。トップ選手の違和感から見えること。

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8月23日のセイコーゴールデングランプリでケンブリッジ飛鳥(右)との接戦を制した桐生祥秀。これから新国立競技場でどんな走りを見せてくれるだろう。 (photograph by Asami Enomoto)

 名勝負の期待は、やや肩透かしで終わった。

 8月23日、新国立競技場で開催されたセイコーゴールデングランプリ陸上で、世間の注目を集めていた競技が男子100mだ。

 日本歴代2位タイ(9秒98)の記録を持つ桐生祥秀と小池祐貴、さらに復活を期す山縣亮太、ケンブリッジ飛鳥、多田修平らトップ選手が名を連ね、日本記録の更新も期待されていたが、予選、決勝を通じて9秒台は一度も出なかった。

 優勝した桐生のタイムは10秒14。決して悪いタイムではないが、予選を最後流して10秒09と好走していただけに、目の肥えたファンを納得させることは難しかっただろう。

 やはり、コロナ禍で練習環境が変化した影響は大きかったのか。レース後の会見で選手は口々に違和感を口にした。

選手たちが口にした違和感とは?

「終始からだが軽くて地面がうまく押せなかったので、あまりいいところがなかったかなと。普段レースになると力がグッと上がってくるんですけど、今日(今季初戦)はそれが感じられなかった。レースってこんな感じだったかなって、思い出しながらやってました」(決勝8着の小池)

「アップの状態は良かったけど、いざ試合でかみ合わなくて。練習が足りないなと思いました。正直、後半は力んだし、持ち味のスタートも置いて行かれた感があるので」(決勝6着の多田)

「予選はある程度目標にしていたタイムが出せたけど、決勝は少し物足りない感じで終わったのが残念。今までしっかり腰が入って乗り込んでいけたところで、少しこう腰が抜けるような感覚があった。そこを今後どう修正していけるかですね」(ケンブリッジ)

 10秒16で2着に入ったケンブリッジは、「桐生君は強かった」とも語ったが、こうしてトップ選手がそれぞれコンディション作りに苦心している様子を聞くと、今回の優勝タイムがまた違った価値を持つようにも思えてくる。

桐生のトップスピードが“高く”なる。

 桐生は今季初戦の北麓スプリント(8月1日)で10秒04をマーク。まだ無観客の状況に慣れない中、2戦目となる今レースでも予選できっちり10秒0台を出している。かつては「スタートラインに立つまで自分の感情がどうなるかわからない」と語っていたが、今やレースに向けて集中力を高めるのは桐生の得意と言えそうだ。

 桐生は今季のテーマに「トップスピードを上げること」を掲げているが、その部分でも進化した面が見られた。

 決勝レースの終盤、後半に強いケンブリッジに並びかけられたが、それでフォームが硬くなることはなく、中盤でリードした差をそのまま守り切った場面だ。

 スプリンターはみなスタートから加速し、中盤以降にトップスピードに達して、なだらかに減速していく曲線を描くが、桐生が描く山は昨季以降、一段と高くなった印象がある。より斜度の高い山から自転車を下れば、その後の速度を保つことも容易になるが、トップスピードを上げることで後半の落ち込みをうまくカバーしようとしているのだろう。

「勝ちきれたのが良かった」

 桐生は試合後、こんなコメントを残している。

「中盤から後半の走りは、去年の世界陸上でも海外の選手にやられていたので、うまく走ろうとしていて、それが今年は少しずつできているかなと思います。今日は中盤が良かったんですけど、もっと前半も行けると思うので、それをこれからの試合で直していきたい」

 そして、ホッとした表情でこう付け加えた。

「とりあえず今回は、勝ちきれたのが良かったです」

2戦目の10秒14を五輪に繋ぐ。

 サニブラウン アブデルハキームこそいなかったものの、五輪を目指すライバルが勢揃いした今レースで、危なげなく勝ちきった。五輪まで1年を切った今、こうした勝ち癖をつけていくのも大切なことだ。

 コロナ禍の影響で極端に試合数の少ない今シーズン、今後予定されているレースも社会情勢の変化でさらに中止になることだって考えられる。1戦1戦の重みが増す中、いかに自信を深めて五輪本番を迎えられるか。現時点で、桐生は日本のエースとして頭一つ抜けた存在になったと言えるだろう。

 今後も10月1日開幕の日本選手権まで、アスリートナイトゲームズイン福井など注目の試合が続く。各選手がそれぞれの大会でどんな課題を見いだし、次につなげていくのか。タイムだけでなく、コメントの中身にも注目していきたい。

 2戦目で出した10秒14は、決して悪いタイムではなかった。

text by 小堀隆司
「オリンピックPRESS」

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