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【石田雄太の閃球眼】選手という財産のいかし方

週刊ベースボールONLINE


大和の“人的補償”で、2018年シーズンから阪神移籍が決まったDeNAの尾仲祐哉。将来の飛躍が期待されるトッププロスペクトだ

 日本では“取る”ものだが、アメリカでは“なる”ものだ。FA(フリーエージェント)のことである。たとえばイチローは12月に入った時点で、すでにマーリンズの選手ではない。フリーエージェント、つまりどのチームとも契約をしていない選手である。2017年のシーズン終了とともにマーリンズとの契約が満了し、その後はいかなる契約にも縛られていない――そうやってFAになった選手は、このオフ、MLBには300人以上、いる。

 その一方でこのオフ、NPBでFAを取った選手は85人。うち海外FAを取ったのが60人、国内のみのFAを取ったのが25人。その中で“FA宣言”をしたのはたったの7人だ。海外FA宣言をしたのが鶴岡慎也、平野佳寿、大野奨太、涌井秀章。国内のみのFA宣言をしたのが野上亮磨、増井浩俊、大和。この7人が旧球団も含めた他球団との交渉が可能になった。要は、NPBには契約満了という考え方はなく、規定の年数に達した選手がFA権を取り、宣言という手続きを経て、ようやくフリーエージェントの状態になれる、というわけだ。

 だからNPBは選手の移動が少ない。それを一概にネガティブなこととしてとらえるつもりはないが、FA権を取った選手のうち、宣言した選手の割合が17年は8.2パーセントしかいない。16年は6.8パーセント(88人中6人)、15年は6.3パーセント(95人中6人)と1にも満たないのが現状だ。こういう数字を眺めていると、力があってもチーム構成上、なかなか出番がない選手がもっと簡単に移籍できるよう、ハードルを低く設定することも必要なのではないかと思う。これでは選手という財産をNPBがいかし切れているとは言い難い。

 その高いハードルの1つが、人的補償という制度だ。もちろんMLBにこんな仕組みは存在しない。17年にFA選手を獲得したある球団の選手が、こう言っていた。

「人的補償で移籍したいと思ってる選手はけっこういるんです。プロテクトの28人に入ってるはずがないと分かる選手にとっては、人的補償に選ばれないのもつらいんですよ。だって自分のチームからはプロテクトしてもらえず、相手チームからはいらないと言われてるようなものですからね」

 人的補償に選ばれなければホッとするのかと思いきや、そうばかりでもないことを聞かされて、正直、驚いた。この人的補償という仕組みは、FA選手を獲得した球団に在籍する選手たちに、じつはいくつもの心理的圧迫を与えていたのである。ルーキーと外国人を除く支配下選手のうち、プロテクトされるのは28人。ということは、約30人がプロテクトされない、ということになる。

 プロテクトされなかった選手たちはその事実を知らされず、自分かもしれないと落ち着かない日々を送らなければならなくなる。人的補償に選ばれて新たなチャンスを模索したいと願う選手も、今の環境でそのまま頑張りたいと願う選手も、どちらも不安を抱えながら次の年に向けてのトレーニングを行わなければならない。そしてフタを開けてみれば……人的補償に選ばれた選手には選ばれた選手のショックがあり、選ばれなかった選手にも選ばれなかった選手なりのショックがあるというわけだ。

 かつては小田幸平が、赤松真人が、福地寿樹が、人的補償として移籍し、新天地で才能を開花させた。17年シーズンも、一岡竜司(14年に巨人から移籍)が勝利の方程式の一角を担ってカープのリーグ連覇に貢献し、大幅な年俸アップを勝ち取った。このオフ、大和の人的補償として移籍が決まった尾仲祐哉は、ベイスターズに残っていたとしても近い将来の飛躍が期待されていた、トッププロスペクトのピッチャーだった。

 そういう観点から見れば、人的補償は球界の埋もれた才能を発掘する機会になっていると言える。プロテクトされない評価の選手が新天地へ移ることで才能を開花させるとしたら、素晴らしいことだ。FAの本質を突き詰めればこの制度はいびつだとは思うが、現時点では妥協の産物として、人的補償はあっていいとは思う。ただ、この“人的補償”という呼び方については、何とかならないものだろうか。以前にもこの欄で“代替選手”くらいにならないかと訴えたことがあるが、補償は英語で“make good”というのだから、いっそのこと“MG選手”なんてどうか……いやいや、こんな冴えないネーミングしか浮かばないフリーランスの野球記者に、この言い換えはどうかと助け舟を出してくれる野球好きを、広く求めている(笑)。

文=石田雄太 写真=BBM

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