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ヨルシカが「花人局」で描く破壊衝動と愛

UtaTen

ヨルシカが「花人局」で描く破壊衝動と愛

「花人局」の原型は美人局?



ヨルシカが2020年7月29日に待望の新アルバムをリリースしました。

そのタイトルは「盗作」。

本作には、Netflixにて公開されたいるアニメーション映画「泣きたい私は猫をかぶる」の挿入歌、主題歌として話題になった「夜行」花に亡霊」も収録されています。

前作「エルマ」では強いストーリー性を持ったコンセプチュアルな曲構成が注目されたヨルシカですが、その特徴は今作「盗作」にも引き継がれています。

「盗作」には、「音楽を盗作する男」を主人公とした男の「破壊衝動」を形にした楽曲が収録されています。

「盗作」というセンセーショナルなタイトルが強く印象に残ってしまいがちですが、本作には様々な温度の「破壊衝動」が織り交ぜられています。

「昼鳶」では怒りに染まった「破壊衝動」、リード曲である「盗作」では男が自分自身と向き合う独白に近い「破壊衝動」。

そして今回触れる『花人局』からは、孤独な男の寂しさや後悔が滲む「破壊衝動」が感じられます。

タイトルの『花人局』は、「美人局(つつもたせ)」という言葉を「花人局(はなもたせ)」と書き換えたものですが、そこにはどんな意味が込められているのでしょうか?

小説の一説のような『花人局』の歌詞から考察していきます。




ますは、『花人局』というタイトルのもとになっているであろう「美人局」という言葉について触れていきます。

「美人局」は中国由来の言葉で、男が妻や情婦にほかの男を誘惑させ、それを種に相手の男から金品をゆすりとることを言います。

妻を他の男に近づかせて、その男が妻と懇ろになりかけたときに夫が登場し、男に対して賠償のための金品を要求するという詐欺の一種です。

この「美人局」という言葉がこの曲にどう影響してくるのでしょうか?

その疑問を頭の片隅に置いたまま読み進めていきましょう。

『花人局』は、男と一緒にいた女性が男の部屋から出ていくところから物語が始まります。

この歌詞は、女性が「さよなら」を告げた夜から、男が一人で目覚めたときの寝屋の広さと冷たさに寂しさを感じさせる一節となっています。




酒に酔っていたからか、男は昨夜のことをよく覚えていません。

いや、もしかすると覚えていたくない事実があったのかもしれません。

男は一人で目覚めた朝も女性のことを思い出して、「綺麗だ」と感じているようです。




男の生活の中に残されている「誰か」の生活の跡。

その全ては「覚えのない物」でありながら、男は枕に残る匂いに焦燥と劣情を思い出しているのかもしれません。

男は頑なに「覚えのない」事実として、昨夜の出来事を綴っています。

執着も慕情もなかったものにしてしまえばいい。

なかったことにすれば、心がかき乱されることもないのです。

「浮雲」が表す正体とは?





2番に入ると、男は女性が「美人局」だったのではと疑い出します。

純粋な愛を育んでいたと思っていた相手が「美人局」だったことに気付くと、裏切られたような気持ちになるかもしれません。

しかし、女性が再び帰ってこない限りその真偽を確かめる術もありません。

考えても考えても真偽は分からないけれど、本当に「美人局」だったのならばそんな残酷な真実は知りたくないと思うはずです。

知らなくていいこともある。

その意味を感じさせられる一節となっています。




「浮雲」という言葉は、「寄る辺のない者、儚く頼りないこと」を比喩して言うときに用いられます。

ここでは、空にポツンと漂う浮雲のようにフラフラしていた男の心を掴んで離さない女性のことを『花人局』と形容しているのではないでしょうか。

男の部屋に女性が帰って来ることはないまま、陽が暮れて1日が終わっていきます。

繰り返し使われている「覚えのない」「何も知らない」という言葉は、男の強がりを表す言葉であると同時に、女性の心の内側にあるものを何も知らなかったのかもしれないという、男の本心が含まれているのかもしれません。




彼女は「美人局」ではない。

そのことを一番よくわかっているのは、当事者である男なのです。

私たちは昨夜、男と女性の間に何があったのかを知ることはできませんが、それでも男がどれだけ昨夜の出来事を後悔しているのかは、推測することができます。

「さよなら」を告げて去ってしまった女性が男に残していった「花」は、洗面台の歯ブラシでもコップでもなく、孤独だった男に芽生えた「誰かを愛する」という感情を表しているのではないでしょうか?




彼女が「美人局」であれば容赦無く彼女を恨んだりなじったりできたのかもしれません。

しかし、女性は男に優しい感情を教えていきました。

それは男にとって「美人局」よりずっと残酷で、重い記憶なのではないでしょうか。

破壊衝動を満たす「盗作」





音楽家である男は、女性にもらった感情を忘れてしまう前にその気持ちを音楽に昇華しようとペンを取ります。

しかし、男が行うのはあくまで『盗作』。

どんなに純な感情で作品を生み出そうとしても、盗作という後ろめたい行いが彼の作品に影を落とします。

孤独な彼が女性を想うその感情が盗作という行為によって曇っていく。

それが『花人局』で描かれている「破壊衝動」なのかもしれません。




女性が二度と帰って来ることはないと知りながら、男は女性に持たされた「花」を大切にし続けるのでしょう。

曲の冒頭では「昨日の夜のことは少しも覚えていない」「覚えのないものばかりだ」と綴っていた男が、最後には女性の残していった温もりや思い出を飲み込んでいます。

『花人局』は男が自分の不器用な感情を作品に昇華するまでのストーリーが描かれています。

小説のページを捲るように展開していくヨルシカの『花人局』。

その世界観に想いを馳せながら聴いてみると、また違った楽しみ方ができるかもしれませんよ。


TEXT DĀ

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