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大迫傑が『Sugar Elite』で狙うこと。「とにかく背中を見せていきたい」

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日本記録を更新した3月1日の東京マラソン終了後、アメリカ・ポートランドに戻って練習をしてきた大迫。 (photograph by Sports Graphic Number)

「一緒に練習をさせてもらって、すごく参考になる部分が多かったんです」

「彼の覚悟はやっぱりすごいですよ」

 この2~3年、大迫傑について、何度、そんな言葉を聞いただろう。

 同年代や年下の選手がこう言うのであれば分かる。だが、これは箱根駅伝強豪校の監督たちのセリフだ。特にこちらが水をむけたわけでもないのに、自然と大迫に関してそんな言葉が出てくる。

 7月15日、大迫は新しいプロジェクトを動かしはじめた。日本人ランナーが世界と戦うために、所属の枠を超えた大学生以下を対象とした強化チーム『Sugar Elite』を発足することを発表したのだ。

 第1弾として、基準タイムなどを満たしている全国の大学生以下の中長距離選手を募集。8月17から24日まで、長野県で最大10名の少人数の短期キャンプを開催するという。キャンプへの参加標準タイムは、5000mが13’55″00(高校生と大学1年生に限り14分未満)、1500mが3’48″00、1万mが28’40″00とかなりのハイレベルな設定だ。

一番大切なのは背中を見せること。

 このプロジェクトで何を目指すのか。

 オンライン記者会見を開いた大迫は、その狙いを自らの言葉で説明した。

「(自分が)指導をするということももちろんありますけど、それ以上に大切なのが、姿勢を見せる、背中を見せる、ということだと思っています。コロナの影響でオリンピックが延びた今、僕らトップアスリートたちがどういう練習をして、どういう姿勢で競技に取り組んでいくのかを若い選手たちに知ってもらいたい。

『本当にこれだけ練習しているんだ』とか『自分ならもっとこうできる』とか、自分たちの練習の“基準”にしてもらいたいと思っています」

「引退後は指導者」の夢を前倒し?

 引退後は、指導者になりたい――。

 数年前から大迫はそんな言葉をたびたび口にしてきた。実際に、その布石として、帰国した際には、忙しいスケジュールの合間を縫って、小学生から高校生まで、それぞれを対象にしたランニングクリニックを自ら企画し、開催してきた。

 最初の頃はあくまでも「引退後」のヴィジョンだった。けれども今年の東京マラソン後にはインタビューでこう語っていた。

「今でも世界との差がこんなにあるのに、これ以上差が開いたら、日本人選手のブランド価値を下げることになるのではないかと焦燥感を持っています」

オリンピック延期で考える時間が増えた。

 日本のマラソン界、長距離界に何ができるか――。将来的なプランのスピードはここにきてぐんと加速した。東京五輪マラソン日本代表の座をつかんだランナーが、後進育成というもうひとつの目標を早くも動かし始めたのだ。

「東京オリンピックは僕の中ではひとつの集大成で、そこに向かう激しいトレーニングを見せるというのは引退してからだと無理だなと思って。東京オリンピックが延期になって、より考える時間が増えたなかで、新しいことに挑戦しようかなという思いが出てきたというのもあります。

 オリンピック前の大事な時ではありますけど、今だからできることだし、今までされてなかったことだからこそ、(自分が)やるべきだなって思ったんです」

 百戦錬磨の監督たちでさえ、大迫の練習を見て刺激を受けたように、選手たちは「Suger Elite」で学んだものを、自らのチームへと持ち帰る。そして大迫から直接学んだ選手たちの姿勢は、チーム内の他の選手への刺激にもつながっていくはずだ。

大迫もトップランナーを見て衝撃を受けた。

 大迫自身、早稲田大学の3年時にナイキ・オレゴン・プロジェクトに参加し、日本に戻った時にはアメリカで学んだことを練習に組み込み、それを見た他の選手たちも参考にしていたという。以前、大迫にその時のことを聞くと、こう語っていた。

「大学3年でナイキ・オレゴン・プロジェクトに参加するまでは、僕もいろいろなことが見えていませんでした。でも1歩あそこに足を踏み入れたら、いやでも自分の立ち位置を自覚をせざるを得ない状況になる。モハメド・ファラーやゲーレン・ラップたちが、質が高くて、ものすごいボリュームのトレーニングをしているんです。

 世界のトップ選手ですら、ここまでやらなきゃいけないんだと腹を括らざるを得ない。(トップとの差があるという現実に)向き合うことの怖さはあるけれど、強くなるためには目を背けるべきではない」

 世界との差を間近で見てきたからこそ伝えられるものがあるはず。そう大迫は考えているのだ。

「アメリカに来て、単純に僕の力だけじゃ、世界と戦うというのはやはり限界があるというのを痛感して。大学や実業団など、うまく機能しているチームと一緒に協力しあって、日本を強くしていこうよという思いですね」

Sugerには2つの意味がある。

 ちなみにチーム名のシュガーエリートは、大迫のニックネームに由来している。Suguruと呼びづらいため、チームではSugarと呼ばれているという。

「もうひとつ別の意味もあって。悔しいときに英語圏では“Shit(クソ!)”とか言われるじゃないですか。調べたらSugarってShitの綺麗な言葉として使われることがわかって。アメリカに来て、悔しい思いや、うまくいかないことを経験してきた自分の競技生活にぴったりだなと思ったんです。

 だけど、そういう思いがあったからこそ、今の自分がある。若い選手たちにも、強さに対してのフラストレーションが溜まっていたり、常に飢えたり、悔しい思いをしている、そのエネルギーを強さに変えて、世界で戦っていこうという思いで名付けました」

オリンピックより大切なことがある。

 東京オリンピックの新たな競技日程も発表されたが、1年後に世界中からアスリートを呼び、本当に開催することができるのか、それは誰にもわからない。だが、大迫の強くなりたいという姿勢は変わらない。

「オリンピックは大きな目標ではありますが、こればかりはコロナの影響もあるし、どうなるか、具体的なことはわかりません。ただ、(東京オリンピックが)なくなったとしても、単純に次の目標に向けてやっていくだけ。開催して欲しい思いが全くないわけではありませんが、そこまで強くないですね。オリンピックがないなら、また別の目標に向かって、自分の価値を上げるために頑張るだけです」

 大迫は常々、自分でコントロールできないものについて、悩み、考えても仕方ないと言ってきた。

 新型コロナウィルスにより、スポーツだけでなく、あらゆるものが変わった。そのなかで、停滞することなく、自分のできること、自分がやるべきことにフォーカスし続けることこそ、大迫が持つ強さだろう。

 そしてSugar Eliteは、そんな大迫の精神的強さが受け継がれたものになるのだろう。若い選手たちがどんな刺激を受けて、チームに戻っていくのか。大迫の新たな挑戦を楽しみに見守っていきたい。

text by 林田順子
「オリンピックPRESS」

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