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見えないうえに逃れられない……ハラスメントが恐ろしい現代リブート版『透明人間』#野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第七十八回

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見えないうえに逃れられない……ハラスメントが恐ろしい現代リブート版『透明人間』#野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第七十八回


TVアニメ『デート・ア・ライブ  DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス  怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。


(C)2020 Universal Pictures



古典小説から始まり、幾度となく映像化されてきた“透明人間”は、言わずと知れた超有名モンスターだろう。モンスターと言っても、その名の通り“透明になった人間”なので、科学の進歩した現在であれば技術的に存在していてもおかしくはない。現代を舞台にリブートし、2020年に爆誕した『透明人間』は、そんな今だからこそ怖いと感じる作品だ。


(C)2020 Universal Pictures



恋人で天才科学者・エイドリアンの束縛から逃れたいセシリアは、ある日、彼の豪邸から脱出。エイドリアンは悲しみから自殺し、セシリアは遺産の一部を受け取ることになった。やがて、セシリアの身の回りでは不可解な出来事が多発。彼女は見えない誰かに襲われていることを証明しようとするが信じてもらえず、徐々に正気を失ってゆく。

 

見えないハラスメントが恐ろしい


(C)2020 Universal Pictures



不穏なBGMにドキッとさせる演出など、スリラーとしての魅力もさることながら、今回の『透明人間』で私が推したいのは、身内から受けるハラスメントの恐ろしさだ。主人公・セシリアは、豪邸に住む気鋭の科学者の彼女ということもあり、傍から見たらいい身分に映るかもしれない。しかし、その暮らしを捨ててでも逃げたい、彼に睡眠薬を盛らなければ逃げられないという冒頭のシークエンスは、その状況だけで相応の抑圧やモラルハラスメント(精神的暴力や嫌がらせ)を彼から受けていたことを推察させる。何度も彼が眠っていることを確認しながら、ろくに荷物も持たずに脱出を試みるその焦り様に、「彼が目覚めたら一体どんな目に遭わされるのだろう」とゾッとする。


(C)2020 Universal Pictures



エイドリアンから逃げおおせた後も、セシリアは「彼が追ってくるのでは?」と恐怖し、家の前の道にすら出られない日々を送る。他人に与えられた精神的暴力や支配は、心に色濃くその痕を残すのだ。エリザベス・モスの疲れた顔とビクビクと怯える表情は、そんな心の傷を細かに表現していて、観ているこちら側の気持ちも引き込まれ苦しくなる。ハラスメントをされている直接的な描写が無いからこそ、より想像がかき立てられ恐ろしく感じるのだろう。

 

追い詰められたエリザベス・モスのカッコよさ


(C)2020 Universal Pictures



寝ていたセシリアが何かの気配を察して目覚めるシーンで、初めて透明人間の存在が示唆される。皆さん、「『透明人間』ってタイトルなんだからそりゃいるでしょ!」と思うかもしれないが、そもそもセシリアに付き纏う可能性があるエイドリアンは既に死んでいるのである。それに、衰弱したセシリアの精神状態からして、彼女が幻覚を見た可能性もある。周りの人間も、「あなた疲れているのよ」と取り合ってはくれない。観ている私でさえ、「タイトルはフェイクで、ひょっとして透明人間は出てこないのかも……?」と頭を捻ったところだ。


(C)2020 Universal Pictures



社会的地位を持つ人間は、それだけで信用されやすいのではないか。そういった人物が加害者になった場合、被害者がその裏の顔、悪い一面を誰かに訴えても、信じてもらえないことが多い。そうして黙殺されてきた事件や問題は、実際にもあるだろう。私にも経験があるくらいだ。「天才科学者として成功を収めた人間が、どこにでもいるような女性に執着するはずがない」と皆で勝手に決めつけ、信じようとしない。もし自分がセシリアの立場だったらと考えると、危機が迫っているのに誰にも信じてもらえないなんて、二重に恐ろしい。エイドリアンから逃げた後もセシリアは、真の意味でその支配から逃れられていないのである。


(C)2020 Universal Pictures




こうした状況に追い詰められ、もう立ち直れないのでは……と不安になったところからのセシリア=エリザベス・モスがカッコいい。げっそりした顔つきは終始変わらないのに、自分を信じ、戦う覚悟を決めた後半はどんどん美しく見えてくる。それはきっと、強さや逞しさの現れなのだろう。観終わる頃には、彼女の体当たりのお芝居にすっかり魅了されてしまった。

様々なハラスメントや搾取、差別が問題視される今だからこその怖さへと、見事リブートされた本作。『SAW』シリーズの脚本を手掛け、メガホンをとった前作『アップグレード』でも舌を巻くストーリー展開を見せつけたリー・ワネル監督の、新たな代表作となったのでないだろうか。

 

『透明人間』は公開中。

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