戦力外選手たちの思い出とエール。彼らは確かに「幸せ者」だった。
戦力外選手たちの思い出とエール。彼らは確かに「幸せ者」だった。
 10月に入って、いよいよペナントレースも大詰めになってきたが、一方でプロ野球の10月は“惜別”の時でもある。


ヤクルト・徳山武陽がプロ初勝利を上げたのは2014年9月3日のことだった。2015年は39試合に登板し、日本シリーズにも名を連ねた。 (photograph by Kyodo News)

 10月に入って、いよいよペナントレースも大詰めになってきたが、一方でプロ野球の10月は“惜別”の時でもある。

 2日はオリックスから、3日は千葉ロッテ、ソフトバンク、中日、ヤクルトの4球団から合計37人の「戦力外通告選手」が発表された。

 京都大学から初めてのプロ野球選手として大注目の末にプロ入りした田中英祐投手(千葉ロッテ)も3年間のファーム生活を終えてユニフォームにひと区切りつけ、2014年の中日1位指名・野村亮介投手は社会人・三菱日立パワーシステムズ横浜当時、その“全力投球”をブルペンで受けた投手だ。両サイド低めへの見事なコントロールが、今も記憶に新しい。

 健大高崎高から俊足を買われて千葉ロッテに進んだ脇本直人は、外野手として3年間奮闘したが、群馬の“スーパー中学生”だった時、その快速球を受けたことがある。

 弟・大地と共に同じ3日に兄弟そろって戦力外通告を受ける悲運に遭ったヤクルト・星野雄大捕手。

 ある雑誌の「ドラフト隠し玉」企画で取材に伺ったのもなつかしい。独立リーグ・香川オリーブガイナーズの寮は、建設中止になった5階建てのマンションだった。電気の配線もむき出し、エレベーターも動いていない建物の中で、「リードと配球とは違う」をテーマに熱く語り合った5年前が、ついこの間のようだ。

通告の4日前に9回を打者27人で封じた男も……。

 発表された戦力外通告選手たちの名前を見て、アッと驚いた。

 ヤクルトの戦力外通告の中に、「投手・徳山武陽」の名があったからだ。

 通告のあった4日前、徳山投手はイースタンリーグの日本ハム戦に先発。9回を3安打10奪三振無四球で完封し、許した3人の走者も2つの併殺と牽制死1つ……。結局、“打者27人”で封じるすばらしいピッチングをやってのけていた。

プロ野球では、夏頃に来季の構想が作られる。

 同じヤクルトで、「外野手・原泉」もちょっと驚いた。

 今季のイースタンで、ついこの前までクリーンアップを打ち続け、打率は0.215と低かったものの11本塁打を放ち、チームでは廣岡大志内野手と並んで数少ない長距離砲の素材と考えていたからだ。

 ファームの試合結果を細かく見ていると、ある“傾向”が見えてくることがある。

 たとえば、イースタン、ウエスタンでずっとレギュラーを張ってきた選手が、夏を過ぎたある時期から、パッタリ試合に出なくなることがある。

 あれっと思っていると、10月に入って新聞に名前が出て、ああ、やっぱり……。

 来季の構想というのは、すでに夏のころに行なわれる「編成会議」で決まっているとも聞く。

 ヤクルトの2人の選手の場合は、まさに“それ”だったのかもしれない。

通告の2日前、ロッテの二軍戦に並んだ名前。

 通告の2日前、10月1日。

 イースタンリーグ・DeNA戦の千葉ロッテのスターティングメンバーに、こんな名前が並んだ。

3番・左翼手・柴田講平 (31歳)
4番・一塁手・猪本健太郎(26歳)
7番・捕手・ 寺嶋寛大 (24歳)
8番・中堅手・脇本直人 (21歳)

 さらに、試合終盤には、菅原祥太外野手(24歳)が守備固めに入り、たったの1打席でヒットを放ち、中継ぎのマウンドに上がった黒沢翔太投手(29歳)が打者4人をピシャリと抑えてみせた。

 8回、千葉ロッテ最後の守りについた外野手3人を含めて、その2日後、戦力外通告を受けることになる6人。「引退試合」だった。

彼らは確かに「幸せ者」であった。

 その翌日、早稲田実業高・清宮幸太郎選手のもとには、プロ野球10球団の使者たちが、ドラフトを控えたチーム事情の説明のために訪れた。

 そして、4球団が戦力外通告を行なった3日、DeNAのルーキー・細川成也外野手が「プロ初打席初ホームラン」を決勝3ランで飾り、2年目・綾部翔投手も初めての一軍マウンドで先発、5回を無失点に抑えて初勝利。

 初回、細川成也に一生忘れない3ランを打たれながら、2回以降をノーヒットノーランに抑えた中日・笠原祥太郎投手だって、昨秋のドラフト4位でプロに進んだルーキー・サウスポーなのだ。

 集まり、散じる季節。

 それが、プロ野球の“10月”なのかもしれない。

 もしかしたら、大きな成果は挙げられなかったのかもしれないけれど、それでも、途方もなく小さな確率をくぐり抜け、青春の何年間かをプロ野球選手としてプレーできた「幸せ者」であったことを決して忘れずに、確かにその胸にしまって……。

 新たな世界での“未来”に、どうか幸あらんことを。

text by 安倍昌彦
「マスクの窓から野球を見れば」

(更新日:2017年10月16日)

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