行定勲監督、松本潤&有村架純を迎えた恋愛映画に「これは綺麗事ではない」
行定勲監督、松本潤&有村架純を迎えた恋愛映画に「これは綺麗事ではない」
行定勲監督について紹介するとき、「恋愛映画の名手」という言葉が用いられることが多い。確かに、『世界の中心で、愛をさけぶ』などのラブストーリーを数多く手がけてきた、まさに“名手”だ。しかし、「いま流行の恋愛映画」とは明らかに違うことをちゃんと強調しなくてはならない。行定監督の恋愛映画は、「綺麗事」ではまったくないのだ。
松本潤、有村架純を主演に迎え、島本理生の恋愛小説を映画化した『ナラタージュ』(2017年10月7日公開)。高校教師・葉山(松本)とその教え子・工藤(有村)が、時を経て再会し、想いを結びつけようとする。だが葉山には、気持ちのバランスを崩している妻の存在があり、二人の関係は停滞してしまう。一方、工藤は自分に気がある小野(坂口健太郎)との幸せに傾いていく。

誰もが憧れるような恋愛模様は、そこにはない。むしろ、目を背けたくなるような恋愛の無様さが描かれている。行定監督は、原作を読んだときのそれらの衝撃を受けたという。

「島本さんの原作を読んだとき、女(工藤)が男(小野)に土下座をするという場面に脅威を感じました。20歳の女性が書いたとは思えない、あまりに赤裸々な内容だったので、『果たして経験があってのことなのか、はたまた想像なのか』と驚いた。熱量が高く、そして妄想ではなく現実的で生々しい。男と女のどうしようもなさを読んで、僕は成瀬巳喜男監督の映画を想起したんです。学校の教師と元生徒という設定なので、教師は(立場上)欲望を抑圧しますよね。性的行為まで持っていけない。しかし、それでもこの二人は確かに“濡れている”んです。映画をご覧になっていただくと分かりますが、その“濡れ”は雨の描写のせいかもしれないし、湿度の高さもあるし、汗ばんだ身体で表現もしている。ただ、もしこれをミニマムな規模で作ったとしたら、自由度が増して僕もたがが外れるし、もっと愛欲の方向性が強くなってしまう。だけど松本潤、有村架純をキャスティングできたことで、メジャー規模で撮れることになり、良い意味で抑制も効かせながらも、原作が持つ重厚感を出せるようになったんです」

教師と生徒の禁断の恋愛は、ラブストーリーとしては定番の一つと言えるだろう。しかし、この物語には甘酸っぱいトキメキはない。むしろ二人はどんどん苦しんでいく。感情が、もつれにもつれる。こんな恋愛を経験してしまったら、もう他の人を真っ当に好きになることなんて出来ないんじゃないか。詳しくは書けないが、葉山と工藤の最後のシーンはかなりショッキングだった。いろんな出来事を共有した男女の結論として、あの行動に移るのは、普通であれば絶対にしないのではないか。あまりの生々しさに思わず目を背けてしまった。

「あのラストは一つの提示なんです。これは綺麗事ではない、ということ。むしろ、いかがわしさがありますよね。あの瞬間、二人はきっと“自分たちにはこの先なんてない”と考える。だから、あの考えに行き着くんです。ラストで男(葉山)は、自分のことを忘れても良いという気持ちと未練が交わるようになる。もちろん、工藤にも女性ならではの考え方もある。結末部分なので詳しく言えないですが、観てもらうときっとその意味がわかります」

劇中、二人の行く末を暗示する映画タイトルもたくさん出てくる。それを見逃さず、しっかりと手掛かりにして、葉山、工藤を追いかけていくとより入り込める。中でもファーストカット、壁に張ってある映画ポスターをしっかりチェックして欲しい。2014年製作のイタリア映画『これが私の人生設計』のポスターが目に飛び込んでくる。

「ディテールにかなりこだわっているので、そうやって見てくれるのは本当に嬉しいです。人生設計なんてあるのかどうか分からない女性の物語なので、あの映画のポスターから始まるのはおもしろいかなって。その隣には『ロゼッタ』(1999年製作、ダルデンヌ兄弟監督)が貼ってあるし。もちろん、どちらも(物語に)意味付けている部分があります。あと個人的には、今回の映画は『バルタザールどこへ行く』(1964年製作、ロベール・ブレッソン監督)のように捉えて描いていたりもして。それと、葉山と工藤がDVDの貸し借りをするけど、葉山はヨーロッパの映画が好きでトリュフォーの話をしますよね。工藤は、そうやって葉山の好きなものに触れて、価値観を共有しようとする。何かを分かろうとする行為こそが、人を大人にしていくのだと思うんです。物語に関連付けていろんな映画を登場させています。映画偏差値が高い人は、かなり深く読み込んでもらえるはずです」

映画タイトルだけではなく、もちろん台詞の一つ一つにも一切の無駄がない。印象的なのは、工藤と出会ったばかりの小野が言う、「誰かを好きになるなんて、ないよ」の言葉。小野は、まんまとその発言が自分へと跳ね返ってきて、傷を負うことになる。

「小野は全うな欲望を相手に向けるタイプ。それなのに葉山、工藤という曖昧な男女の、どうしようもない恋愛の方が勝る。その瞬間こそが大きな見どころだと思います。『ナラタージュ』はダメな恋愛の話であり、しかしそれを肯定しているんです。今、不倫問題が毎日のように世間を騒がせるけど、はたしてみんなそこまで断罪できるものなのか。上っ面だけを切り取って、広げているようにしか僕には見えない。だけど、今の日本映画が向かっているのは、そうやって上っ面だけを切り取って広げていくものばかりに思えます。恋愛漫画の映画化が多いけど、原作となる少女漫画って、本来はファンタジーだけではなく、ズブズブで痛みもきっちり描かれている。それなのに映画になった途端、そこが排除されて、展開だけで見せている。いろんなものが、綺麗事だけで済まされている気がしてならない。そういったものとは対峙した映画作りを意識しています。何だか、敵が増えそうな話しばかりしていますが(笑)、だけどこれが今の自分の本音ですね」

映画『ナラタージュ』は2017年10月7日より全国公開
(更新日:2017年10月3日)

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