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セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1951年編~

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セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1951年編~

 本企画はNPB過去年度の打撃ベスト10を眺め、往事の野球を今の視点から振り返り楽しんでもらおうというものだ。ただベスト10は従来の打率ではなく、セイバーメトリクスにおける総合打撃指標wRAA(※1)を採用する。これはリーグ平均レベルの打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標だ。この視点で振り返ることで、実は過小評価されていた打者がわかるということもあるかもしれない。
 

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 1951年は日米野球開催のため、セ・パ両リーグともに10月初旬で日程打ち切りの変則開催となった。そのため、前年より試合数が少ない上に各球団不揃いの消化試合数となっている。少ないところではシーズン100試合未満になるチームもあった。
 
 試合数の減少は当然ながら打席数=サンプルサイズの減少につながり、サンプルサイズの減少は、良くも悪くも平均から大きく外れた結果を生みやすくなる。これらによりセ・パ両リーグともに上下に突き抜けたスタッツが目立つこととなった。この年、両リーグともでマークされた最高打率新記録による首位打者は現代でも最上位近辺に残るスタッツである。

1951年のパシフィックリーグ

チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点差
南海  104 .750 496 322  174
西鉄  105 .558 429 367  62
毎日  110 .514 482 463  19
大映  101 .441 376 422  -46
阪急   96 .420 367 404  -37
東急  102 .404 355 459  -104
近鉄   98 .398 319 387  -68
 

 

 大下弘(東急)が記録的な猛打で圧倒的な傑出度を見せるシーズンとなった。wRAAは58.7。これだけを見るとトップの選手としてはありふれたものだが、この年の大下の出場試合数は89で、打席数はわずか371にとどまる中での記録なのだ。2位の別当薫(毎日)が108試合444打席と多くの打席を得る中で、大下の半分強にあたるwRAA33.5にとどまっていることからも大下の傑出度がわかる。
 
 平均的な打者に対する1.66倍のwOBA(※3、※4)は1973年に王貞治(読売)が越えるまで最高の倍率であった。打席が少なかったため積み上げ式のwRAAでは不利になるが、1打席あたりの質を表すwOBAで見た場合NPB史でも最高レベルの記録と言える。
 
 この年のパ・リーグは主力選手の新旧交代期が迫っていたのと、消化試合が少なかったことが影響してか、顔ぶれがかなり流動的になっている。ほかに注目したいのは大下、別当に次ぐ3位のwRAA31.6を記録した永利勇吉(西鉄)である。前年はセ・リーグの西日本に在籍した永利であるが、この年は所属チーム合併のために西鉄に籍を置くこととなった。前年のトップ10入りの大活躍に続きこの年はwRAAで3位、wOBAで2位とリーグを代表する打者であった。
 
 しかし永利は順調にキャリアを伸ばすことができなかった。この1年後には見る影もなく調子を落とし、その後わずか3年で球界を去っている。リーグ分裂、チームの合併、トレードによる編成の激変など、環境の変化が悪い形で作用したのかもしれない。彼は当時では珍しい右投げ左打ちの選手で、かつ捕手もできる希少価値のある選手であった。謎の強打者といったところだろうか。もったいないという言葉が頭に浮かぶ。
 
 前年に78盗塁のNPB新記録をつくった木塚忠助(南海)はこの年も55盗塁、失敗7で盗塁王に輝いている。ここまで3年連続の盗塁王(最終的に4年連続にまで伸びる)で、かつ3年連続の打率3割。そして面白いことに3割を打ちながら3年連続でwRAAベスト10から外れている。この時代にはすでに長打を打つ打者が一般的なものになったことの表れでもある。

1951年のセ・リーグ

チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点差
読売  114 .731 702 381  321
名古屋 113 .564 526 523  3
大阪  116 .540 545 465  80
松竹  115 .482 609 598  11
国鉄  107 .438 389 533  -144
大洋  108 .385 502 620  -118
広島   99 .333 402 555  -153
 

 
 この年に川上哲治(読売)が残した打率.377は、1986年にランディ・バース(阪神)が.389で更新するまでセ・リーグ最高打率として長く残ったものだ。しかし総合打撃指標であるwRAAで見た場合のこのシーズンの最強打者は、川上ではなく岩本義行(松竹)ということになる。岩本は川上のwRAA42.3をはるかに上回る55.1を記録している。クラシックなスタッツである打率.351や本塁打31本を見ても、岩本の数字は現役選手の柳田悠岐(ソフトバンク)と見まがうほど。wRAAでは川上のほかにも、藤村富美男(大阪)、青田昇(読売)といった大御所を圧倒している。
 
 また前年までの打高を行き過ぎと感じたか、この年からはラビットボールの使用が制限されたと思われる。結果、金田正泰(大阪)をはじめとした出塁力に強みのある打者がランキングに食い込んできている。32本塁打で本塁打王の青田と、18三塁打(現在も日本記録)の金田正泰(大阪)のwRAAが僅差であるところなども面白い。
 
 この年は、正直なところまだ12球団以上を維持できるだけの陣容はプロ全体で整えられていない様子である。南海の72勝24敗、読売の702得点381失点などはチーム間の実力差が顕著すぎることの表れである。このレベルでは上位チームと下位チームが同格レベルでのゲームをファンの前に提供できているとは言い難い。この年と翌1952年の読売のチーム打率は2割9分台に到達。1999年に横浜が超えるまでNPB記録として残った。
 
 このシーズンのベスト10圏外選手で取り上げたいトピックは何といってもハワイから途中加入した与那嶺要(読売)である。来日初年度はシーズンの半分程度のプレー期間にとどまったため規定圏外となっているが、1打席あたりの得点貢献を示すwOBAでは3位の藤村に迫る.424を記録。能力の違いは短い期間でも明らかだったようだ。与那嶺はこの年わずか1本塁打と長打力に秀でた選手ではなかったが、この後10年ほどイチロー(元マリナーズ)のように高いクオリティのプレーを披露しつづけることになる。
 
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
 
DELTA・道作
 
DELTA(@Deltagraphs)http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。
 
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