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歴代142個の金メダルランキングで再確認した体操・内村航平の偉大さ。

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最終種目の鉄棒を終え、僅差での金メダルが決まると内村は喜びを爆発させた。会見ではベルニャエフが「コウヘイは伝説」と勝利を讃えた。 (photograph by Asami Enomoto/JMPA)

 4年前の感動が人々の心に深く刻まれていたことに、あらためて気づかされた。何度でも繰り返し見たい。この感動をオリンピックでまた味わいたい。そう思わされた。

 先日、NHK(BS)の番組で、日本が過去の夏季五輪で獲得した142個の金メダルの映像がランキング方式で紹介され、内村航平(リンガーハット)のリオデジャネイロ五輪体操男子個人総合が第1位になった。

 これは、NHK公式ページの東京五輪特設サイトに公開されている1928年アムステルダム五輪から、2016年リオデジャネイロ五輪大会までに日本勢が獲得した計142個の金メダルのアーカイブ映像を、再生回数に応じてランキング化した企画。

「あの金メダル映像を見たい」という体操ファン、五輪ファンの気持ちが再生回数となって現れた結果だった。

内村が奇跡の大逆転を果たし、金メダルを手に。

 番組で使われたリオ五輪男子個人総合の映像は約3分。個人総合の6種目のうち、跳馬と最後の種目である鉄棒の演技がフルバージョンで映し出された。(アーカイブでは平行棒の演技もフルバージョンで公開)

 内村は4番目の種目である跳馬で高難度技の「リ・シャオペン」の着地をピタリと決めて、全体の1位となる15.566点を出した。5種目を終えた時点で首位のオレグ・ベルニャエフ(ウクライナ)とは0.901点差の2位だった。

 こうして迎えた最後の鉄棒の演技で、手放し技「屈身コバチ」や「カッシーナ」をダイナミックかつ美しい空中姿勢で披露し、最後は微動だにしない着地でまとめた。得点は全体の1位である15.800点だ。

 ここまでの状況を受けてベルニャエフが優勝するのに必要な得点は14.900点。NHKのアーカイブにその映像はなかったが、ベルニャエフは途中までスムーズに技をつなげたものの着地で大きく動いたため、実施点で大きく減点された。

 得点は14.800点。内村が奇跡の大逆転を果たし、金メダルを手にした。

感動をさらに膨らませた、肩を抱き合う姿。

 しびれる展開での優勝とあって、当然ながら日本人は大喜びである。

 だが、物語にはまだ先があった。感動をさらに膨らませたのは、内村とベルニャエフが互いに肩を抱き合う姿だ。内村は「オレグ、お前すげーよ」とでも言うかのように、親指でベルニャエフを指し、悔しくてしょうがないはずのベルニャエフもさわやかに内村を称えていた。

 余談になるが、実は内村は鉄棒でアクシデントに見舞われていた。中盤に入れている「エンドウ」という車輪技で腰を痛めていたのだ。

 しかし、今回あらためて映像を見ても気づかないほど完璧に最後まで演じきっていた。表彰式で金メダルを首に掛けてもらうところで体をほとんどかがめずに首だけちょこんと曲げていたのは、鉄棒で腰を痛めていたからだ。

体操の競技方式の秀逸さ。

 内村はこの他にも、’12年ロンドン五輪男子個人総合が5位にランクされ、リオ五輪の男子団体総合も16位と上位に入っていた。

 3つの金メダルが軒並み上位にランクインしたのはなぜだろうか。思い浮かんだのは人々の記憶に新しいということも理由だが、やはり、彼の演技のひとつひとつが「作品」の域に達しているというのが大きな要因だろう。

 だが、それだけでもない。内村がとてつもない魅力を発揮してきた背景には、体操の競技方式の秀逸さがあると思う。

 五輪や世界選手権の個人総合で決勝に進出できるのは予選上位24人。予選1位から6位までが第1組、以下、予選の順位に応じて6人ずつ4組に分かれて演技を行なう。

 演技の順番は予選の順位によって決まる。

第1組は「正ローテーション」。

 第1組の6人はゆか、あん馬、つり輪、跳馬、平行棒、鉄棒の順番で演技をする。この順番は「正ローテーション」と呼ばれ、最もスムーズに演技ができるローテーションとされている。

 第2組の選手はミスの出やすいあん馬から始まり、最後には疲れているところで体力を必要とするゆかがある。

 第3組はいきなり筋力パワーをマックスで使うつり輪から始まり、最後は緊張感の高いあん馬。第4組は跳馬から始まり、最後にきついつり輪が待っている。

 演技順に関してはもうひとつ注目したいことがある。それぞれの種目ごとに出番がひとつずつずれていく方式になっていることだ。

プレッシャーによる心理的な疲労が?

 予選1位の選手は最初のゆかを5番手で演技し、あん馬は4番手、つり輪は3番手、跳馬は2番手、平行棒は1番手、そして鉄棒は6番手。つまり、予選1位の選手は、最終種目で最終演技者となり、試合のトリを飾る仕組みになっている。

 このため、予選1位の選手は前の選手の点数を見て演技構成を決めることも可能になる。体操では予選の点数は持ち越さないが、その代わりに別のアドバンテージがあるのだ。

 リオ五輪ではこの演技順が選手の心理状況に微妙な影響を与えた。リオでの内村の予選の成績は2位で1位はオレグ・ベルニャエフ。つまり、決勝でベルニャエフは内村のすぐ後に演技をする順番だった。

 2人は互いに譲らずノーミスの演技をして5種目までを終えたが、もしかすると内村の直後に演技をしていたベルニャエフには、プレッシャーによる心理的な疲労が蓄積されていたのかもしれない。

試合をトータルで見るのが断然面白い。

 最終種目の鉄棒では内村が5番手で演技をして高得点を出した。これは、鉄棒を苦手とするベルニャエフに決定的な重圧を与えた。ベルニャエフは鉄棒の着地を止めることができず、大きく減点された。

 体操では、演技ごとの技の難度や点数がフォーカスされることが多いが、男子6種目、女子4種目を行なう団体や個人総合では試合をトータルで見るのが断然面白い。

 リオ五輪体操男子個人総合の金メダルには、内村の演技の作品としての完成度の高さや、スリリングな競技方式に加えて、ベルニャエフという好敵手との名勝負の魅力など、オリンピックという舞台でなければ生み出されないすべての感動が重なり合っていた。

 だからこそ輝きはマックスだった。

 さて、番組ではランキングという見せ方になっていたが、142個の金メダルすべてに同じく大きな価値があることは言うまでもない。わずか2、3分の映像に感動が凝縮されて後世に残っていくのがオリンピックなのである。

text by 矢内由美子
「オリンピックPRESS」

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