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シェルバコワの衣裳が一瞬で変わる。その秘密をデザイナーに直接聞いた。

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2019-2020シーズン、シェルバコワはFSの演技中、衣裳を青から赤に一瞬で変えていた。 (photograph by Asami Enomoto)

 新型コロナウイルスの影響で、フィギュアスケート界も競技会やアイスショーが次々と中止に追い込まれた。

 モントリオールで開催予定だった世界フィギュアスケート選手権には、羽生結弦、宇野昌磨、ネイサン・チェンといった高レベルの選手が揃い、女子はグランプリファイナルで表彰台を独占したロシア勢に日本の紀平梨花がどう食い込んでいくかも期待されていた。

 それとともに、今大会初となる国際スケート連盟(ISU)が創設したISUスケーティングアワードという賞も注目された。

 選手はもとより、コーチや振付師、プログラムそのものに目を向けた画期的な試みである。中でも、演技を印象づける「衣裳」に着目した「ベストコスチューム賞」に興味をそそられた。

 ところが、ふたを開けるとノミネート者がデザイナーではなくその衣裳を着る選手であった。

ロシアの衣裳デザイナー、ミレーナ・ボブコワ。

 この賞はベストドレッサー賞ではなく、ベストデザイン賞であるべきで、今後の見直しが必要な部分ではある。とはいえ、ぎこちないスタートであっても一歩踏み出したことには意義があると考える。

 本記事では、ベストコスチューム賞にノミネートされた衣裳の「デザイナー」にスポットを当てた。

 ロシアの衣裳デザイナー、ミレーナ・ボブコワ。

 かつて浅田真央の衣裳をデザインしていたことでも知られている。

 個人的に受賞最右翼と踏んでいたため、世界選手権が中止になる前の3月初旬に、インターネットを介して取材をしていた。

世界をあっと言わせたシェルバコワの衣裳。

 2019-20シーズンのグランプリファイナルは2位、地元ロシア選手権では昨シーズンに続いて優勝を果たしたアンナ・シェルバコワ。複数の4回転ジャンプをものにする16歳だ。

 今季のFSにおける、ボブコワがデザインしたプログラムの途中で色が変わる衣裳は、演技と共に大きな話題になった。

――この衣裳はシェルバコワのコーチ、エテリ・トゥトベリーゼ氏からの要望だったと聞きますが。

「以前、アンナ・ポゴリラヤのアイスショーで同様の衣裳を作ったことがあり、それで依頼が来たのだと思います」

 ポゴリラヤの演出はフォーマルな黒のスーツから一転、煌びやかな金のドレスに変わるというもの。2014-15シーズンのEX「Rise Like a Phoenix」で披露され話題を呼んだ。

「今回難しかったのは、シェルバコワの衣裳はショーのためのものではなく、競技用だということです。ふたつはまったく異なる性質で、競技用の場合はより要件が多くなります。

 いくつかのデザインを用意しましたが、私がいちばん気に入っているものが選ばれました。素材サンプル、色、全てにおいて、トゥトベリーゼ・コーチは私の提案に同意してくれました。

 ドレスの構造は見た目の印象ほど簡単なものではなく、しかも発表までは“秘密”にしなければなりませんでした」

変身のための動きを訓練する時間が必要。

 プログラム前半は、エリック・サティの『グノシエンヌ』で構成され、シェルバコワは青いシンプルなドレス姿で演技する。

 後半、曲がストラビンスキーの『火の鳥』に変わると、コンビネーションスピン後の回転の中で、曲名さながらの真っ赤なドレスに早変わりする。

 胸元のロックを外すとファブリックが落下し、赤い裏地が青いスカートを覆う仕組みだ。それと共に上半身に隠されていた赤い鳥の羽根をモチーフにした柄が現れる。

「今回の早変わりの方法は、この衣裳のために思いついたものです。シェルバコワは演技に加え、変身のための動きを訓練する時間が必要になりました。

 本番でプログラムに時間の影響を与えてしまっては元も子もありません。ここは非常に重要な点です。そのため、ドレスの重さ、素材の質感にも注意を払いました。

 ストレッチネット、シフォン、薄いサプレックス(注・素材の名前)、そしてラインストーンも。私はこの衣裳の出来に非常に満足しています」

――お客さんの反応がとてもいいですね。大歓声が上がり、前半とは雰囲気を一変させます。

「これはすごい! と方々から伝え聞きます。昨今、どの選手も競争力のある素晴らしい衣裳を着ていますが、それらを決定するすべてのコーチがこのような大胆で実験的なことにチャレンジ出来るわけではありません。トゥトベリーゼ・チームだから出来たと言っても過言ではない。トゥトベリーゼ・チームは新しいことに非常にオープンで、進歩を止めません」

「デザインは音楽そのものから受けた印象です」

 イギリスのロックバンド、ミューズの『エクソジェネシス:交響曲第3部』は、今シーズン、エフゲニア・メドベージェワのSP、若手ナンバーワンで北京五輪の優勝候補ではと期待されるカミラ・ワリエワのFSで使用され、2人はともにミレーナ・ボブコワのデザイン衣裳を身に着けることになった。

 その話を振ると、少し戸惑ったような答えが返ってきた。おそらくその質問を他でも多く受けているのであろう。

「確かに同じ曲ではありました。でも、なぜそれらを比較するのでしょう。まるで考えませんでした。たとえ偶然に同時期のデザインになったとしても、両者はそれぞれに個性的です」

――はじめにカミラ・ワリエワの衣裳ですが、発想は曲の内容と関係ありますか?紫と青の美しい多層ドレスは蝶の脱皮を連想しました。

「デザインは音楽そのものから受けた印象です。

 カミラの衣裳はクロッキーの段階で蝶のイメージが浮かびました。色合いや光、エアリー感、ふわっと舞い上がるような無重力感……。他のオプションを持たないほどにイメージがはっきりしていました。

 スケッチに素材サンプルを付けてエテリ(トゥトベリーゼ・コーチ)に提案しましたが、とても気に入ってくれました」

ジュニア選手の衣裳では素材の伸縮性を考慮。

――体の成長期にある若い選手のデザインで苦労する点はありますか? 

「ジュニア選手の衣裳で特に考慮するのは素材の伸縮性です。これは演技に直結します。
 装飾要素はすべてハンドメイドですが、デザイン上ラインストーンは外せません。その煌めきで視線を集中させると同時に、衣裳全体の印象を豊かにしてくれます。

 もちろん重すぎてはいけません。この衣裳には大小約3500個のラインストーンが施されています」

――デザインと制作にかかった時間はどれくらいでしょうか?

「カミラの衣裳は約1か月。カラーは手染めです。フィッティングの際にエテリからいくつかの修正を求められました。カミラはとても喜んでいました。彼女との作業がとても好きです」

メドベージェワは、ジャンプスーツであるべきだと即答。

――エフゲニア・メドベージェワのSPの衣裳についてお話し下さい。身体にフィットしたパンツタイプの衣裳です。

「ジェーニャ(メドベージェワの愛称)に聞くと、ジャンプスーツであるべきだと即答しました。

 私としては、他にいくつかデザインの選択肢があったのですが、彼女はすぐにこのデザインを選びました。

 濃紺のオーバーオールの上部は、脚のラインに対して斜めに連続する明るい青とシルバーで描かれています。シンプルに施したシフォンは、プログラムの振り付けを強調することに成功しています」

――メドベージェワは衣裳のデザインにとても重点を置いており、具体的な意見をはっきりと言うと聞きますが。

「ジェーニャとは、スケッチの段階、フィッティング時、ラインストーンなどの装飾を付けた段階のすべてで話し合いを持ちました。

 彼女は絵を描くのがとても好きで、前向きで好奇心に溢れ、議論は楽しいものでした。私の仕事が彼女のプログラムにインスピレーションを与え、官能的なスケーティングに繋がったとすれば、とてもうれしいことです」

色の爆発、感情の爆発を具現化したもの。

 衣裳デザイナー、ミレーナ・ボブコワといえば、日本では現役時代の浅田真央の衣裳を手掛けていたことで知られる。また、荒川静香の衣裳を覚えているファンもいるだろう。
「マオ・アサダの衣裳に10年間携われたことが何よりうれしいです。そしてマオの衣裳を介して、タチアナ・アナトーリエヴナ・タラソワという素晴らしいコーチと仕事をすることが出来ました。どれも忘れられないプログラムです。

 興味深いたくさんのアイデア、愛すべき衣裳たち、そしてマオの素晴らしい演技!」

――印象深いいくつかの衣裳を紹介してください。

「2014年のソチ・オリンピックの青い衣裳が気に入っています。FSのセルゲイ・ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第2番』。これは色の爆発、感情の爆発を具現化したものです。忘れられない経験です。

『Bei Mir Bist Du Shon(素敵なあなた)』では、豊かで明るく、濃いフクシアの花の色を使用しました。ピンクの色味自体が魅惑的で、魅力的なプログラムに適した……マオそのものです。マオは美しく、彼女の衣裳を作るのはいつも楽しかったのを覚えています」

 最後にボブコワは自らの仕事について、こう語った。

「私は新しいものを作成、発明することが大好きなんです。仕事でこれを実現できることを嬉しく思っています。私はよく展覧会や博物館を訪問します。偉大な芸術家の絵画は非常に興味深いです。国立プーシキン美術館、トレチャコフ美術館、それだけでなく、自然、花、動物、すべてがデザインに役立ちます」

text by いとうやまね
「フィギュアスケートPRESS」

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