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一度は東京五輪を「夢物語」と……。内村航平なら1年延期を糧にできる。

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2016年5月5日、内村はNHK杯で8連覇を遂げた。その4年後に行われるはずの東京五輪は延期されたが、代表入りをあきらめてはいない。 (photograph by Naoto Akasaka/AFLO)

 今夏に予定されていた東京五輪が延期されたことは、アスリートに大きな影響を及ぼしている。

 大会から逆算して強化を図ってきたスケジュールが狂い、いや、練習すらままならない状況がある。

 ピーク作りは容易ではない。1年の延期は、ただの1年ではない。

 ベテランの域にある選手には、なおさら影響は大きいかもしれない。東京五輪を集大成の場として考えていた選手、東京五輪があるからこそ、競技生活を継続してきた選手……体操の内村航平もその1人だ。

日本での五輪開催がモチベーションに。

 今年1月に31歳の誕生日を迎えた。体操の世界では、大ベテランの域にある。

 2012年のロンドン、2016年のリオデジャネイロと、五輪で個人総合連覇も果たした。年齢そして積み重ねたキャリアを考えれば、本来なら、引退をしていてもおかしくはない。でも、競技を続けてきた。

「東京ですから」

 五輪が日本で開催されることが、継続のモチベーションだった。

 ただ、ここまでの道のりは容易ではなかった。

 リオの翌年の世界選手権では、跳馬で負傷し棄権。個人総合は6連覇で途絶えることになった。

 その後も身体の悲鳴と戦い続けたが、ダメージは隠しようもなかった。

 昨年は、両肩痛の影響もあって代表選考対象大会で成績を残せず、世界選手権の日本代表から外れた。

「東京オリンピックは、夢物語ですね」

「東京オリンピックは、夢物語ですね」

 言葉にも、失意のほどがうかがえた。

 それでも、気持ちを取り戻していき、2020年を目指してきた。

 その過程で、変化もうかがえた。

 内村は今年3月に自身が立ち上げた大会を予定していた。「KOHEI UCHIMURA CUP 2020」である。選手自身が立ち上げプロデュースするという異例の大会である。

 中止を余儀なくされたが、企画した当初は、世界選手権代表から外れ、実戦の経験が不足することを回避するために自ら試合の場を求めて設けた、と伝えられていた。

満身創痍、注射を100本以上打った。

 そうした面はもちろんあっただろう。さらに、そこにとどまらない要素も加わっていった。

「体操の魅力を伝えたい」という思いだ。

 もともと、体操の地位向上、認知度の高まりへの意識は強くなっていたが、自身で立ち上げた大会でさらに高めたい、そんな思いが加速していった。

「僕は、いつも、皆さんに、美しくて、楽しくて、面白いと思ってもらえるような体操を届けたいと思っています」

 年を経るごとに、自身が打ち込んできた体操の魅力を広めたいという思いは強まっていった。そのためにも自身のパフォーマンスを取り戻したいという決意があった。

 満身創痍、実はそんな言葉があてはまる状況にあった。昨年は肩の筋肉をほぐし痛みを和らげるための注射を100本以上打った。以前は2、3カ月でおさまった痛みは、「1年ぐらい、気になるくらい痛いのが続く」状態だった。

「自分に怒りを感じます」

 それでも屈しない。その姿に、4年前を思い起こす。

 2016年5月5日、NHK杯で内村は優勝した。8連覇達成を記録した。

 その前月の全日本個人総合選手権で、内村は優勝したものの、試合の中で、意外なミスを見せた。

 得意なゆかのラストのタンブリングの着地でふらつき、跳馬では着地で前にのめり両手をついてしまう。平行棒でもミスが出た。

「自分に怒りを感じます」

 晴れない表情で言った。一方、2位に成長著しい白井健三が入り、注目を集めていた。

「大丈夫だ、と思ってもらえるような演技をしたい」

 そんな決意で臨むと話したNHK杯では、同じミスを繰り返さなかった。

1年延びたことを糧にする力。

 ゆかではタンブリングで着地をしっかり決め、あん馬、跳馬、平行棒でも15点を超える完成度の高い演技を見せる。最終種目の鉄棒も完璧と言っていいパフォーマンスを見せ、合計得点で2位と4.5点以上の大差をつけ、圧倒的な力を見せた。

「今日は、自然にオリンピックで演技している自分をイメージできました」

 穏やかな笑顔だった。

 ベテランにとっての1年は、若い頃よりも長い、と聞くことがある。パフォーマンスを維持していくための労苦もふくらんでいく、とも聞く。メンタル的にも、集大成の場が動けば打撃になる。

 一方で、1年、あらためて仕切り直して状態を上向かせる時間として捉えることもできる。満身創痍の状態で進んできた選手なら、身体をあらためて調整しつつ取り組める。

 容易な道ではない。それでも過去、数々の逆境を跳ね返してきたのが内村である。

 1年延びたことを糧にする力も、きっとあるはずだ。

text by 松原孝臣
「オリンピックへの道」

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