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雨が映し出す10年代の風景 ―カバーで聴く新世代のスタンダード

UtaTen

秦基博「Rain」




原曲は大江千里の1988年発表のアルバム「1234」に収められたナンバー。「君の名は。」の新海誠監督2013年作「言の葉の庭」主題歌にもなっています。



男性目線の歌詞で描かれる雨は、気まずくなった2人の関係を象徴しています。「悪いのは自分の激しさをかくせないぼくのほうさ」と歌う主人公は、雨の中恋人を追いかけようとしますが、すでに間に合わないことにも気づいています。
過ぎ去ってしまった出来事への後悔とその中ににじむほのかな諦観。失恋を歌った原曲に対して、秦基博のカバーはかみしめるように丹念にメロディーを歌うことでほろ苦い心情を浮かび上がらせているのが印象的です。

原曲が発表されたのは1988年。淡々と情景を描写するような25年後のカバーは、世代間で異なる恋愛に対する距離感を映し出しているように思えます。

Suchmos「雨」


東京事変や星野源のバンドメンバーとして活躍する長岡亮介率いる3人組バンド、ペトロールズ(PETROLZ)。デビュー10周年を迎えて若手アーティストが集ったトリビュートアルバムで彼らの代表曲をカバーするのはソウルフルなたたずまいも共通するSuchmosです。
雨に託して歌われる慕情。ここで雨は2人の距離を意識させる効果を持っています。



対するSuchmosは原曲からテンポを落としメロウネスを前面に押し出しています。雨降りの気だるい午後にボーカルYonceのソウルフルな歌唱が切なく響きます。内省的な原曲と比べて開放的で楽観的な空気が漂っているのは、彼らの持ち味である陽性のレアグルーヴによるものか、あるいは地元や仲間との絆を大切にするSuchmosというバンドのあり方が関係しているのかもしれません。

クラムボン「雨」


すでにベテランの域に達する三位一体のポップトリオ、クラムボン。彼らが生み出す作品はいつも音楽的な発見に満ちています。定期的に発表するセルフカバーから2009年「Re-clammbon 2」に収録されたこの曲。



都会から離れた場所でぼんやりと窓の外を見つめている、そんな場面です。休息が必要なとき、疲れてしまってうまくものを考えることができないとき、雨の音やしっとりとした空気に不思議と癒されることがあります。
雨をみつめながら主人公が見ているのは自分の心です。曇って見えなくなっていた自分を少しずつ取り戻していく様子を歌っています。セルフカバーでは、蓋をして閉ざしていた心のざわめきを表すように後半でエクスペリメンタルな演奏が続きます。



無意識の世界から現実に戻ってくるところで曲は終わります。アコースティックギターの弾き語りによる青葉市子のカバーも必聴です。

シナリオアート「迷子犬と雨のビート」




2010年に発表されたアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)15枚目のシングルをカバーするのはレーベルの後輩でもある男女混成バンド、シナリオアートです。



原曲の発表当時、世界同時不況のあおりを受けて日本は先行きの見えない不安に覆われていました。「厚い雲」や「雨」は不安や絶望感といったネガティヴな心情を反映しています。そこで登場するのが「迷子犬」です。



ふぞろいな雨音を縫って聞こえる鳴き声。自分だけではない、懸命に生きようとする他者の存在を知ること。それは傷をなめあうことではなく、がんばっている人の姿を見て励まされる心境に似ているかもしれません。



メッセージ色の強い原曲をシナリオアートは弾けるようなポップスに昇華しています。
このあっけらかんとしたアレンジをひねくれがちなロスジェネとさとり世代の違いと考えることもできます。しかし、絶望と無縁のように思えるさとり世代も右肩上がりの成功という幻想を諦めている点ではロスジェネに通じるものがあります。
「迷子犬」の次世代である彼らがポップスの魔法を高らかに鳴らす姿には、たしかにロスジェネ世代からの連続性があるといえるでしょう。


ピックアップした4曲は10年代のスタンダードと呼べる曲ばかりです。雨に託して失恋や切ない心情を歌ってきたこれまでの名曲と比べると、メランコリックなだけでなくなかば意識的に自身の内面に目を向け、世の中や価値観の変化を反映しているのが特徴です。

時代を映し出す「雨」の名曲たち。雨の日にはそんな曲を口ずさんでみるのもいいかもしれません。


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