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完全再現!ブリット・フロイド公演初日をレポート

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完全再現!ブリット・フロイド公演初日をレポート

Brit Floyd 2020.2.26  中野サンプラザ

2月26日(水)に中野サンプラザで行われた、Brit Floyd(ブリット・フロイド)の初来日公演の初日を観た。

ブリット・フロイドとは、Pink Floyd(ピンク・フロイド)を完全にライブで再現するトリビュート・バンドなのだが、これが単なるトリビュート・バンドとして侮ることはできない。

ブリット・フロイドのライブには「音楽と映像と光の一大スペクタクルショー」というキャッチコピーが掲げられており、本家が使用し彼らのアイコンともなっている周囲にライトが埋め込まれた巨大な円形スクリーンはもちろんのこと、そこに映し出される映像や、眩いほどのライティングなど、ピンク・フロイドのライブを構成していたあらゆる要素をきっちりと持ち込み再現するという。

プログレッシブ・ロックといううるさがたのファンが多いジャンルの中でも、コンセプトやそこに込められた思想までもを理解し音楽の一部として取り込むことをしてきたピンク・フロイドのファンが、果たしてどこまでこのブリット・フロイドのライブにのめり込み、共鳴することができるかに興味が沸き、実際に体験してきた。

ちなみに、筆者は、2011年に行われたピンク・フロイドの元リーダーであるロジャー・ウォーターズが開催したアルバム『The Wall』完全再現ライブに参加するために欧州へ飛んだ経験ももつ、所謂面倒くさいフロイド・ファンであることを告白しておく。また、このレポートには一部演奏曲目を含んでおり、また巻末にはセットリストが記載されているので、これからライブを楽しまれる方はお気を付けいただきたい。


Brit Floyd



初来日となった今回のブリット・フロイドのライブは「Brit Floyd "40 Years Of The Wall" In Japan 2020」というタイトルがついているが、このタイトルが表す通り1980年に発表された2枚組の名盤『The Wall』の40周年を記念したものだ。トリビュート・バンドがアルバムのアニバーサリーを祝うという発想は、トリビュート・バンドという文化があまり根付いていないこの日本ではちょっとびっくりしてしまうが、場内では先述のスクリーンにはアルバム『The Wall』を象徴する2本のハンマーのマークが映し出されているばかりでなく、会場後方のPA・照明ブースに置かれたPCのモニターにもすべてこのマークが映し出されており、こんな細かい演出からもその本気度が伝わってくる。


Brit Floyd



ほぼ会場が観衆で埋まった19時ジャストに客電が落ち、暗い中に小さくソプラノサックスが響く。「この始まりは!?」と思った次の瞬間には十二分の音圧を伴ったバンドサウンドが突如炸裂する。この公演のタイトルであるアルバム『The Wall』の冒頭を飾る「In The Flesh?」で幕を開けたブリット・フロイドのライブは、とにかく上手いの一言に尽きる。

ステージ上が、ギターが2人に、ベース、ドラム、キーボード、サックス&パーカッション、そしてコーラスが3人の計9人編成。フロントに立つギターとベースが交互にボーカルを取るスタイルは本家と同じ。

「In The Flesh?」は、本家のライブでは、特効の火柱が上がったり、戦闘機が客席の上を飛びステージに突っ込んで炎上したりするのだが、さすがにそこまでの再現はなし。ただ、ないのはそんなスケール感を要するもののみで、それ以外のものは映像も、ライティングも、ストーリー展開上非常に重要なSEまでも、すべてにおいて完璧と言っていい。文字通り、一曲目で一気にその世界へ引き込まれた。


Brit Floyd



そのままライブは、アルバム『The Wall』の曲順通りに進むという、よもやアルバム完全再現かと思わせる展開を見せるが、数曲して『The Wall』の世界観に浸りきった頭を強制的にリセットさせるかのように時計のベルが鳴り響く。そう、歴史的名盤『The Dark Side of the Moon(邦題:狂気)』の「Time」だ。一気に別の世界へ引き込まれた観客は、そのまま、「The Great Gig in the Sky(邦題:虚空のスキャット)」での至極のスキャットに包まれた。ここは前半のハイライトと言っていい出来栄えで、ひときわ大きな拍手と歓声が客席から起った。


Brit Floyd



アルバム『The Wall』の再現かと思わせたセットリストは、そのまま名盤『狂気』の曲順を途中からではあるが再現していることに、ここで観客はまたハタと気づくことになる。曲順も重要な作品の要素であることは間違いないが、特にピンク・フロイドのアルバムはコンセプトに従い緻密なストーリーを紡ぐことで構成されているので、ライブで曲順通りに演奏されると、聴く側のカタルシスもさらに増していくことになる。

『狂気』から演奏される楽曲を聴きながら、ステージ上は『狂気』のジャケットで有名なプリズムと、そこから反射して7色に彩られる様をレーザーライトで再現して見せるという繊細な演出も見られ、度肝を抜かれる。また、後方にしつらえられたライトを周囲に拝している円形のスクリーンは、曲にシンクロしながら映像とライティングで緻密な世界観を見せつけていく。これらの演出と、ブリット・フロイドの再現度の高い演奏力、そして本家の魅力的な楽曲が交わる時、そこには本家とはまた違うが味わい深い感動が生まれることは確かだ。

また、スクリーンの映像は多彩な映像を映し出し全く観客を飽きさせないのだが、映し出されるものは、ピンク・フロイドのアルバムジャケットや、それを見たらフロイドとわかるアイコニックなモチーフが次から次へと映し出され、改めてフロイドのビジュアル戦略の巧みさを感じさせた。


Brit Floyd



「あれ、こんなところでこんな曲を挟むのか!」というサプライズな展開を見せながらも、ほぼ1時間ピッタリで第1部は終了。15分のインターミッションを挟んで第2部は打って変わって、アルバム『A Momentary Lapse of Reason』というフロイドの思想やコンセプトを一身に引き受けていたロジャー・ウォーターズが脱退した後のバンド後期の作品から「Yet Another Movie」で始まった。

これには驚かされたのだが、フロイドの頭脳であり思想的な役割を担っていたウォーターズ脱退後、デヴィッド・ギルモア体制として再出発したフロイドはより純粋に音楽的に楽しめるバンドとなり、そのライブも飛躍的に音楽と光の一大スペクタクルショーと化したが、この時代の楽曲はよりブリット・フロイドにハマるような気がする。ここではまるで本家と比べても遜色ないかのようなライブでの再現度合いに、非常に感銘を受けた。

そこから打って変わり、ライブは改めてアルバム『The Wall』へ。ここでも3曲ほどアルバムの曲順通りに楽曲が再現されたが、今度は、アルバム発売時の1980年に行われたツアーや、先述の2011年のロジャー・ウォーターズの完全再現ツアーで見られた、ちょっとしたお芝居のようなものを挟んだライブならではの演出をそのまま再現して見せた。アルバム『The Wall』はアルバムを通して一つのストーリーが展開されるコンセプトアルバムなのでそのストーリーが非常に重要になるのだが、それを掻い摘んだにせよちゃんと理解できるようにという演出がとても心憎い。


Brit Floyd



『The Wall』のパートを終えると、今度は聴きなれたキーボードのコードが響き、とてもよく粘るチョーキングが気持ちいいギターのフレーズがそれに続く。事前のライブの広告にも演奏曲として告知されていた「Shine On You Crazy Diamond」のもちろん Parts IからVまでの通しだ。キーボードとギターのみの静かな導入から、”マジックノート”といわれるあの有名な4音のギターの単音が響いた時、会場は割れんばかりの歓声に包まれ、ショウは再び山場を迎えた。この20分を超える大作に身をゆだねていると、もう既にトリビュート・バンドがどうの、ピンク・フロイドのコンセプトや思想がどうのということは関係なくなり、ただ、そのサウンドの孤高の美しさに恍惚とするばかり。

ここからは、フロイドいえばとこれという代表曲であり演奏予定曲として事前に発表されていた「Wish You Were Here」「Comfortably Numb」などが並び、有無を言わさぬ堂々たる演奏と、圧倒的な演出で大団円を迎えた。


Brit Floyd



そして、アンコールには、最後に再び『The Wall』から「Run Like Hell」が演奏された。このブリット・フロイドはトリビュート・バンドの中では珍しく見た目を似せてこないバンドなのだが(ビートルズのトリビュート・バンドはポール役がちゃんと左利きだったり等、髪型や服装も細かく似ていたりすることが多い)、最後のこの曲では、ベーシストがちゃんと(?)軍服にマントをつけサングラスをかけてロジャー・ウォーターズになりきっていたことがとても印象的だった。そして、イントロの終わりに一言「Help Yourself!(楽しんで!)」と叫んだのだが、この一言こそ、2011年のロジャー・ウォーターズが行った完全再現ライブでのMCと同じセリフなのだ(その後に発売された映像商品でも、この一言は確認できる)。

最後の最後で、同じセリフを同じ場面で同じ服装で叫ぶというまさにトリビュート・バンドという姿を見せられ、とてもうれしくなってしまった。なりきりで同じことをするのは最後の一コマだけ。それ以外は、愚直に音楽でピンク・フロイドという巨星に挑むという潔い姿勢。それが前面に出ているからこそ、単なる真似に成り下がらずに、胸を打つ音楽に昇華できるということなのかもしれない。

ピンク・フロイドが好きだった人、惜しくも本家のライブには間に合わなかった人、最近ピンク・フロイドに興味を持った人などなど、どんな人であれ、心の底から楽しませてくれるライブをブリット・フロイドは見せてくれる。

まずは細かいことはおいておいて、「Help Yourself!(楽しんで!)」。


Brit Floyd



 

PHOTO:旭 里奈

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