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映画のラストシーンに隠された秘密とは? 点と点が線になって記憶に残っていく『ねこねこ日本史』河村監督インタビュー

ダ・ヴィンチNEWS

「9分の短編をはたして長編映画にすることができるのか!?」。監督自ら「まさかの映画化」とコメントした映画『ねこねこ日本史』。現代っ子ねこ・フクと、坂本龍馬が、カラス型タイムマシンのヤッちゃんに乗って「ねこねこ日本」の歴史を旅する映画はいかにして生まれたのか。笑いと感動の渦を巻き起こす同作の制作背景を河村友宏監督にうかがった。

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■点と点が線になる驚きで、歴史が好きになっていく。映画『ねこねこ日本史』で描きたかったもの

――映画化は「未知への挑戦」とコメントを寄せていらっしゃいましたが、完成した今、お気持ちはいかがですか。

河村友宏監督(以下、河村) こんなものができちゃった、って感じですね(笑)。観ていただいた方がどう感じるかはわかりませんが、フクという歴史とは関係ないキャラクターが登場しようと、SF的展開になろうと、これは『ねこねこ日本史』なのだといえる作品になったと思います。テレビシリーズの9分という短い尺ではできない冒険が、物語上でもぼくたちの仕事としてもできましたし、スペシャル版にふさわしい膨らませ方ができたのではないかと。

――ひとつの時代を深掘りするのではなく、タイムスリップという形式をとったのはなぜだったんでしょう?

河村 タイムスリップさせたかったというよりは、歴史をひとつの流れとして描きたかったんですよ。はじめてマンガ『ねこねこ日本史』を読んだとき、感銘を受けたのが1巻で描かれた徳川綱吉のエピソードなんですが、彼が「生類憐れみの令」を出したことはもちろん知っていたけど、“赤穂浪士の討ち入り”が同時代という認識はなかった。お犬様を大事にする彼の政権下で、吉良上野介(きらこうずけのすけ)がねこではなく犬だったという設定にすることで、浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)のほうが不当に処刑されてしまったという説得力が生まれる。個別のエピソードとして認識していたものが、ちゃんとつながりをもって記憶に残る。しかもお勉強感はまるでなく、キャラクターたちの生きた物語として。点と点が結ばれて線になっていく驚きを映画で表現したいと思ったとき、視聴者の子どもたちにいちばん近い視点の現代っ子が時空を旅するのが最もいいんじゃないかなと思いました。

――フクくんだけでなく、坂本龍馬が相棒となって一緒に旅をしますね。

河村 そにしけんじ先生の描く龍馬は、かなりのトラブルメーカーでお話をかきまわす役なんだけど、まるっきりのオリジナルではなく、実在した坂本龍馬という人間からいろんなものを削ぎ落してデフォルメした姿。彼は志半ばで斬られてしまうわけだけど、「みんな仲良くしてほしい」「新しい時代を築きたい」と未来に抱いていた希望を、フクとの交流を通じて描くことで、なにか心に残るものになるんじゃないかなと思いました。

――めちゃくちゃ残りました。無邪気でかわいいだけかと思いきや、後半に行くにつれて龍馬の真剣な思いもだんだん浮き彫りになってきて……。

河村 ぼくもそうだったけど、記憶に残る歴史マンガって、描かれる人物に感情移入できるかどうかにかかっているんですよ。事件の羅列ではなく、このときこの人はどんな思いでどう行動したんだろう、という積み重ねが歴史になっていく。もしかしたら史実とはちがうかもしれないけれど、納得せざるをえない描写があるから、起きた出来事も印象に残る。『ねこねこ日本史』は、それをねこでやりつつ、歴史の重要なポイントは決して外さないのがすごいんです。

――ちゃんと史実に沿っているから、切なさが募ることもあります。フクくんと義経の友情や、弁慶の義経への想いが描かれる場面では、「ああーこのあとアレが起きるのかーー」とかなりつらかったです。

河村 大人にはそういう楽しみ方もありますよね。子どもたちも、最初はわからなくても、興味をもって自分で歴史を調べてみたら「あのシーンはもしかして……」と気づくときがくるかもしれない。「知る」ことで物語の見え方が変わっていく楽しみを得られるのも、この作品の魅力だなと思います。

■映画ラストシーンに隠された秘密とは!?

――監督のお気に入りキャラクターは誰ですか?

河村 ぼくと同じ静岡出身の今川義元は好きですね。「桶狭間の戦い」で彼が織田軍に敗れたのは、時代の流れを見てもそういう運命だったんだろうと思うけど、彼の人生をちゃんと調べてみると、けっこうな功績を残しているんですよ。でも、歴史というのは勝者の記録だから、負けてしまった彼についてはあまり語られることがない。ぼくはそういう、歴史のちょっとした陰の部分に惹かれるんです。だから、アニメシリーズでオリジナルストーリーを考えなきゃいけないときは、北条氏とか、負けた側の武将をとりあげることが多いですね。

――そにし先生も、スポットライトの当たらない人物に惹かれるとおっしゃっていました。定説をくつがえすような描き方をしたい、と。

河村 それが、歴史という誰も詳細を知らないコンテンツを扱う醍醐味ですよね。ぼくがオリジナル要素を足すことも多いのですが、とはいえ、基本的にそにし先生のつくりあげた世界観を壊さないように気をつけています。ぼくが描きたいのは、あくまで原作の魅力の増幅。たとえば静御前(しずかごぜん)のエピソードは、のちのち凄惨な運命をたどる彼女の義経への想いはしっかり描きつつ、烏帽子に興味があるだけの義経のかわいらしさとギャグっぽさは損なわない、必ずそにし先生がつくったオチをつけるというように。

――映画でも義経は烏帽子を奪いまくってましたね(笑)。

河村 やっぱり、義経といえば烏帽子なので(笑)。テレビアニメは作画枚数が少なめで、紙芝居のようなアニメーションになっているんですけど、映画では思う存分作画できたので、「関ヶ原の合戦」など迫力あるシーンが数多く描けたのも嬉しかったです。それにしても、そにし先生のねこギャグは、本当に発明だと思います。「ねこしっぽぐるぐる」なんて最高ですよね。あれが天下布武につながるってどういうことだよって思うけど、妙な説得力があるのがいい。なので今回の映画でも、物語をつなげていくうえでのカギとさせていただきました。

――聖徳太子の「和を以て貴しとなす」とか、実はいろんなところに伏線が張られていて、緻密な構成にうなりました。

河村 それでいうと、ラストシーンにも仕掛けがあって。実はアニメ第1話「卑弥呼」のエンディングと演出を同じにしているんですよ。ねこはすぐいろんなことを忘れちゃうけど、すべてはあの第1話に帰結していく。それはぼくたちが初心を……この作品を愛して、自由に楽しくつくることで視聴者にも笑いと学びを届けていくという気持ちを忘れてはいけない、という意味もこめて。ぜひ映画を観たあと、第1話と見比べてみてください。

■千変万化の小林ゆうと、七色の声をもつ山寺宏一! 最高のスタッフで愛をもってお届けする映画『ねこねこ日本史』

――映画では、小林ゆうさんの19役兼任もみどころです。

河村 さすがにどうかとぼくたちも思ったんですよ(笑)。でもやっぱり『ねこねこ日本史』は、ゆうさんがすべての主人公を演じるというのがコンセプトのひとつだし、龍馬以外にほかの人をあてることもできるけど、これまで培ってきたキャラクター像に違和感が出て子どもたちも戸惑うのではないかと思いまして。スタッフと話し合った結果、ゆうさんに肚くくってもらうしかないかなということになりました。

――映画を観て、あまりに千変万化なので驚きました。

河村 いやあ、彼女はほんとうにすごいですよ。テレビシリーズでも毎回、演じる武将のことをちゃんと下調べして、言いそうなことをアドリブで入れてくれる。テスト演技は毎回、あまりに振り切ってやってくれるから、こちらも「ちょっと抑えて」とお願いすることがあるんだけれど、そうするとふつうはおもしろさが半減しちゃう。テストがいちばん笑えたね、なんてことはよくある話なんですが、ゆうさんはちがう。そこからもう一段階レベルをあげてくるんです。毎回、ブースで聴いているスタッフも他の声優さんも笑いをこらえっぱなしですよ。これぞ、プロ。しかも謙虚で、いつでも一生懸命だから、みんなそれに引っ張られて相乗効果で現場がもりあがっていく。その雰囲気の良さが作品にもあらわれているなあと思いますよ。

――いつもはナレーションを担当している山寺さんに、キャラクターを演じていただくことは最初から決めていたんですか。

河村 そうですね……。アニメにおけるナレーションは、講談師のような存在というか、物語を動かす黒子のようなものだとぼくは思っていて。七色の声をおもちの山寺さんだからこそできる役割だと思っていたし、そこに徹していただいています。山寺さん自身、黒子としての意識はお強いんじゃないかなと思いますが、映画も同様にナレーション進行するというのが、なんとなくピンとこなくて。そこで生まれたのが、メカでカラスのヤッちゃんですが、彼は実は物語をとても俯瞰的に見る役割を担っていて、ナレーション的な発言をすることもあれば、フクとキャラクター的に掛け合いをしなきゃいけない場面もあり、かつメカとしての存在感を示さないといけない。この役を担えるのもまた、山寺さんしかいないと思いました。

――そのヤッちゃんの、とある機能をつかって描き出されるエンドロールが、とてもとても素敵でした。スタッフみなさんの深い愛を感じましたし、視聴者はみんな、じーんとすると思います。

河村 あれね、ぼくは全体的な構想だけ話して、細かい指示をしていないんです。でも、スタッフが描いた絵はすべて、物語を集約するにふさわしいものばかりだった。そにし先生にはじめてお会いしたとき、とにかく自由にやってください、と言われたのがぼくはとても嬉しかったんですが、同じようにスタッフにも自由に楽しくやってほしいと思っている。なぜなら、先ほども言いましたが『ねこねこ日本史』という作品の魅力をあますところなく表現するには、作り手であるぼくら自身が楽しんでいないとだめだと思うから。それが視聴者に伝わって、長く愛される作品になってくれるといいなあと思いますね。機会をいただけたら映画第2弾もチャレンジしたいと思いますので、まずはぜひ劇場に足をお運びいただけると嬉しいです。

取材・文=立花もも

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