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「うわっ、リアル障害者!」――50歳で就職した脳性まひ者の日常とは?

ダ・ヴィンチNEWS

『障害マストゴーオン!』(福本千夏/イースト・プレス)

 脳性まひの男性にインタビューしたことがある。終始にこやかに対応してくれたが、後日、原稿を見せると激怒された。「僕が言いたいのはこんなことじゃない!」――。彼は重度の言語障害だった。インタビュー中、わたしは彼の言うことをほとんど聞き取ることができず、「きっとこういうことだろう」と勝手に解釈して原稿を書いたのだった。原稿はボツになった。【僕が言いたいのはこんなことじゃない!】――。彼が言いたかったのはどんなことだったのだろうかと、いまでも時折、想像しては胸が苦しくなる。

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 障害者と健常者の間には、大きな溝がある。その溝を少しでも埋めるにはどうすればよいのか。『障害マストゴーオン!』(福本千夏/イースト・プレス)に、そのヒントが書かれていた。著者の福本千夏さんは脳性まひアテトーゼ型。寝ている間以外、どこかしらの筋肉を緊張させている。

 結婚後すぐに身ごもり、子育てと同時の専業主婦生活を送っていた。息子も大学に進学し、少し広めのマンションも購入。そんな矢先、夫が腎細胞癌を発症する。悲しみに暮れる日々だったが、「父親と同じ教師になりたい」という息子の夢を叶えるため、地震などで被災した障害者を支援する団体「ゆめ風基金」に就職した。

 これまで企業で働いた経験は、大学卒業後の2年足らず。言語障害があり、電話応対もままならない。手足の動きがぎこちないので、書類整理や事務仕事も不向き。そんな福本さんが50歳にして、初めて世間の荒波に揉まれることになる。重度障害者が人の手を借りて働くことへの偏見――。「一人で通勤できないのになぜ働きに行くの?」「通勤や職場で介護をお願いしてまで働かなくても」……そんな顔なき声に、福本さんは「そもそも経済活動しなきゃ生きていけない社会じゃん。そこから障害者だけが外され続けるのはおかしいと思う」と主張する。

 本書は障害者が働くことの厳しさ、ヘルパーとの軋轢、障害を持つ子どもと親の複雑な関係など、重いテーマを扱っていながらも、福本さんは関西弁で明るく笑い飛ばしてみせる。中学生に「うわっ、リアル障害者!」と驚かれたときも、「バーチャルと違うでー。ホラー映画の貞子とも違う、ちなつやでー」と見事な切り返し。このユーモアと生来の人懐っこさで、福本さんは周りの人から愛され、支えられてきた。そうしたことに、障害者と健常者の溝はないはずだ。

 冒頭の脳性まひの男性が、インタビュー中はとても楽しそうに話をしてくれたことを思い出す。そしてその話を勝手に重苦しい美談にしてしまった自分を恥じる。彼が言いたかったこと。それはきっと、障害者と健常者の溝を超えた、ひとりの人間が織り成す物語に違いない。わたしたちはきっと、わかり合うことができる。寄り添うことができる。そんなことを、本書を読んで思った。

文=尾崎ムギ子

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