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花嫁は獄中にいる猟奇殺人犯…? 遺体のありかと事件の真相をめぐるアクリル板越しの駆け引きに背筋が凍るサイコサスペンス

ダ・ヴィンチNEWS

『夏目アラタの結婚』(乃木坂太郎/小学館)

 花嫁は猟奇殺人を犯した死刑囚…? 『夏目アラタの結婚』(乃木坂太郎/小学館)は獄中結婚を題材にしたサイコサスペンスだ。

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 ドラマ化もされメガヒットした医療漫画『医龍』。仏革命が舞台の『第3のギデオン』に続く乃木坂氏の最新作は、1巻で14万部を突破(※電子書籍含む)。すでに名作・大作の雰囲気を漂わせている。

 主人公・夏目アラタは“獄中結婚”を決意する。その相手は少なくとも3人をバラバラに切り刻んだとされる死刑囚だ。アラタはこの連続殺人犯・品川真珠(しんじゅ)と面会し、対話し、そして追い詰められていく…。本レビューは、読者が心惹かれるだろうポイントを紹介する。

■一線を越えられない面会室のアクリル板越しの結婚

 児童相談所に勤務する夏目アラタは、担当児童・卓斗から「父を手にかけたバラバラ殺人の犯人・品川ピエロに、自分の代わりに会って欲しい」という依頼を受ける。卓斗は、殺されたうえ“見つかっていない父親の頭部”のありかを、犯人から聞き出そうとしていたのだ。

 その方法は、関係者ということと子供であることを気づかれないよう、アラタの名前で手紙を書くことだった。

 品川ピエロこと品川真珠は、ピエロの扮装で猟奇的な殺人を行い、すでに1審で死刑が言い渡されていた。アラタは殺人鬼に多少緊張し、ほんの少し興奮を覚えつつ拘置所へ出向く。

 現れたのは、21歳という実年齢より若く見える美少女だった。その真珠はアラタを見て「思ってたのと、違う」と興味を失ったようで、面会を打ち切ろうとする。そこでアラタは思わず口にした。「品川真珠~~!! 俺と、結婚しよーぜ!!」

 死刑が確定すると面会や手紙の条件が厳しくなる。そのため支援者や、情報の欲しい記者が死刑囚と結婚することがあるのだ。これがいわゆる“獄中結婚”である。

 まずは会ってもらい、話してもらわなければ、糸口がつかめない。最初アラタはそう思っただけだった。このときまでは。死刑がくつがえることはまずない。アラタはそう確信しながら真珠に語り掛ける。

アラタ:俺の恋は、今日会うずっと前に
――始まってたのさ!
真珠:もし、万一ボクが外に出てきたら、ボクと一緒に暮らせる?
アラタ:もちろん!

 この日から、被害者の子供のために死刑囚と婚約者となったアラタと、猟奇殺人を犯したとされる真珠の、心理戦のような対話がはじまった。当然、面会室のアクリル板越しにだ。一線をけして越えられない結婚(まだ入籍はしていないが)である。

■熱血主人公は謎多きダークなヒロインに心惹かれていく?

 夏目アラタは血気盛んで子供想いである。虐待される彼らを救うためなら暴力もいとわない。にもかかわらず「児童相談所の職員は向いていない」「自分はヒーローじゃない、悪党だ」とうそぶく。

 そんなアラタだが、結婚(というか夫婦関係)には理想はなく、興味がないようだ。女性のことは好きでも、恋人とは長続きしない。だからこそ“獄中結婚”にもさほど躊躇(ちゅうちょ)がなかった。だがこれは児童相談所の業務範囲を超えた行為である。

 そこまでする目的は、被害者の頭部をみつけるため、だった。同僚に手をひけと言われるが、父親を失った哀れな子供のため、そう自分に楔を刺しているアラタはひくにひけない。

「誰も救われないままじゃ、寝覚めが悪いんで――」

 こう言ったアラタは、真珠のことを調べ、そして担当の弁護士・宮前から彼女の情報を得ていく。仕事で今まで出会ってきた子供たちと同じように、彼女と向き合っていった。自分が児童相談所職員として、ギリギリ(ほぼアウト)な行動をとってきたことなども真珠に話す。

 ある日、頭部のありかを聞き出す目的を通り越して、彼女に強い興味を抱き、心を惹かれている自分に気づき愕然とする。

 これは品川真珠の計算通りなのか…。彼女はアラタと読者に多くの謎を提示している。

 学校にも行かずIQも低かったはずなのに、異常なほど頭が切れるのはなぜか。

 状況証拠から死刑判決を受けているが、殺人は覚えていないと語り、黙秘を貫いているのはなぜか。

 人を見下し、その胸に抱く黒い望みとは何だったのか。

 そして彼女は、アラタが誰かの代理で面会をし、獄中結婚を提案していることに気づいているのである。にもかかわらずアラタと会い続けるその目的とは?

 息詰まる展開と、背筋が凍るようなアラタと真珠の結婚のゆくえを、ぜひ見届けてみてほしい。少しでも本作を読み始めたら、気になって仕方がなくなるかもしれない。

 まるでアラタが気がつかないうちに、真珠から離れられなくなったように。

文=古林恭

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