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「兼業フットボーラー」って可能なの? 都2部TOKYO CITY F.C.が発信する新しいキャリアのあり方

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「兼業フットボーラー」って可能なの? 都2部TOKYO CITY F.C.が発信する新しいキャリアのあり方

Jリーガーになれなかったらサッカーは終わるのか

 プロになれなかったらサッカー人生は終わり。そう考えている選手は多いのではないだろうか。社会人になったら仕事に専念するしかないのか? アスリートとしての価値を高めながら、働く選択肢はないのか? アマチュアクラブながら、東京都2部リーグ所属のTOKYO CITY F.C.は生涯かけて楽しめるサッカーの新しい価値を創出することに取り組んでいる。(取材・文:舩木渉)

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 日本サッカー界における冬の風物詩となっている、全国高校サッカー選手権は静岡学園高校の優勝で幕を閉じた。ただ、対戦相手だった青森山田高校も含め、決勝で激闘を演じた選手たちが全員プロの世界に進めるわけではない。

 ただ、彼らに限らず日本でサッカーに取り組む選手たちの多くは、将来Jリーグでプロ選手になることを目標にしているはずだ。では、高校や大学で頑張っていてもプロになれなかったらアスリートとしての「サッカー人生」は終わりなのだろうか。学生生活を終えたら社会人として仕事に専念し、サッカーを続けることは諦めなければならないのだろうか。

 J1、J2、J3、JFL…と続いた先にはアマチュアの各地域リーグがあり、ほとんどの選手が仕事とサッカーを掛け持ちしながらプレーを続けている。学生時代と同じモチベーションで競技に取り組むのは難しいのかもしれないが、いわゆる「社会人サッカー」で仕事にもサッカーにも全力で打ち込むという価値観があってもいいだろう。

 日本のトップから数えて8番目、「J8」にあたる東京都社会人リーグ2部に所属するTOKYO CITY F.C.は、クラブを挙げて仕事でもサッカーでも本気で上を目指す「兼業フットボーラー」という新しいモデル作りに取り組んでいる。

 同クラブの深澤佑介GM兼監督は、2019シーズンの新体制発表会見の中で「仕事をしながらでもサッカーに本気で取り組める環境があります。サッカーをすることで、仕事の面でもより自分を高め、プラスアルファの成長につながる。そうした『兼業フットボーラー』という考え方を広めたいと思っています。我々がその価値を、選手たちの新しい選択肢として提供したい」と述べた。

 日本サッカー協会が毎年公表しているデータを見ると、小学生(4種)から中学生(3種)、高校生(2種)までの競技者が年々増加傾向にあるのに対し、年齢制限のない「1種」として登録される競技者の人口は減少しつつある。つまりサッカーをプレーする大人が減っていっているということだ。

 学生時代まではサッカーをプレーすることが好きでも、社会人になったら諦めなければいけないのではもったいない。サッカーはどんな形であれ、生涯かけて楽しめるスポーツだ。仕事、恋愛、家族、趣味など多種多様な生き方がある中で、人生を豊かにする手段としてのサッカーの価値を広めていくことにTOKYO CITY F.C.は挑戦している。

「サッカーを離れてわかることもたくさんあった」

 市立船橋高校時代にインターハイ優勝の経験も持つ山之内裕太は、大学サッカーを経て2019年からTOKYO CITY F.C.でプレーしている。

「そもそも社会人になってもサッカーをやろうとは思っていませんでした。大学でやりきったと思って一線を引いていたので。とはいえ日常の中でもDAZNやスポーツ記事を何気なく見てしまうう習慣が染みついていて、社会人になっても『ピッチで表現したい』と潜在的に思う自分がどこかにいたんです。

サッカーを離れてからわかることもたくさんありました。学生時代は週5、6回練習して、月曜日がオフの繰り返しが普通でしたけど、それが社会人になってなくなった時になくなって、自分自身のモチベーションを維持するのが難しくなってしまっていました。

社会人は目標が常に変わり続けるというか、大きなビジョンがあるとはいえ、目の前の作業とか、『この仕事に何の意味があるんだろう?』というのを自分で探さないといけないんです。サッカーは優勝したい、プロになりたいなど目標が常に明確で、それに向かって突き進んでいけばいいんですけど、目標なくなっちゃった時にどうすればいいんだろうとは思いました。そこからやっぱりサッカーやりたいなと思い始めましたね」

 山之内のように一度サッカーを離れたものの、またプレーへの意欲が湧き上がってくる選手は多いのではないだろうか。ただ、仕事もある中でサッカーにも本気で打ち込める環境はまだまだ少ない。そこで社会人サッカークラブには「兼業フットボーラー」として仕事にもサッカーにも集中できる環境を提供できるポテンシャルがある。

 とはいえプロのようにクラブが設定した「優勝」や「昇格」という目標に対して、全員が同じモチベーションで全てを投げうって突き進むのは、アマチュアになるとどうしても難しくなる。サッカーを続ける理由や動機も人それぞれになってくるからだ。

 一方で多様な人材が1つのチームに集まってプレーするからこその魅力もある。流通経済大学付属柏高校や早稲田大学、ドイツでのプレーも経験し、2019年に関東1部リーグの東京ユナイテッドFCからTOKYO CITY F.C.に加わった野村良平は語る。

「僕は大人になってまで利害関係のない友達や仲間ができるのが、サッカーを続けているからならではの良さだなと思っています。例えば大学を卒業してから社会人になって出会う人って、どうしても何かしらの利害があっての関係になってしまうじゃないですか。『彼はこういう仕事をしている人だから仲良くしておこう』とか。そういうのが一切なく、本当にフラットに仲間になれるのはサッカーをやっているからこそだなと思いますね」

仕事とサッカーのバランスを見出せると…

 サッカーを通じてかけがえのない仲間ができ、日々のモチベーションを取り戻せたとしても、アスリートとしての競技力向上には限界があるのではないか。日中にフルタイムで仕事をして、練習に集まれる回数も限られ、フルサイズのピッチを使える機会も少ない。それでも成長できるのか。

「東京ユナイテッドにいた時に岩政(大樹=元日本代表)さんがきて、そこから『なぜ社会人としてサッカーをしているのか』ということの価値観が定まってきました。社会人でわざわざ休みの日や平日夜の時間を削るのって、普通に考えたらおかしいことじゃないですか。

だけどその中で自分はなぜサッカーを続けるのかと考えた時に、ただ練習時間を増やしたり、サッカーだけに集中したりするのではなく、他の空いた時間などにもよりサッカーについて考えたり、試合を見たり、本や記事を読んだりすることでサッカーはどんどん上手くなるという実感があって。逆にサッカーがうまくなったのは社会人になってからと感じることもありますね」(野村)

 野村にとって「仕事が第一優先というのはずっと変わらない」が、「練習する時間が限られてしまうので、体だけでなく、より頭を使うところがフィットしてきている」とも語る。仕事とサッカーを両立しながら、時間の使い方やエネルギーの注ぎ方を工夫することで双方でより良い成果を出すための、自分なりの基盤を作れていると実感しているのだ。

 チーム内では若手になる山之内も、仕事を続けながらサッカーにも取り組む中で「仕事中の休み時間とか、いかに空いている時間を使って最先端のサッカーがどこにあるのか常に自分の中で探して、それを自分の中でプレーとしてアウトプットできるように意識して」、野村のような先輩たちの背中も追いながら兼業アスリートとしてのバランスを見出しつつある。サッカーで最高のパフォーマンスを発揮するために、仕事でもいかに最大限の成果を残すか、突き詰められるようになった。

「兼業フットボーラー」は成り立つのか

 社会人サッカーのリーグ戦にも昇格や降格があり、先を見ればJリーグへの道もつながっている。だからこそ、ただプレーするだけでなく、常に勝利や成長を追求しなければならないのはプロと変わりない。

 その中でどうやって社会人としての価値を高めながら、サッカー選手、アスリートとしての価値も両立していくか。TOKYO CITY F.C.はクラブのビジョンに共感する選手たちとともに、ホームタウンである渋谷区から、近未来の大人とサッカーの関わり方のロールモデルとなるべく挑戦を続けていく。

「自分がなぜ社会人になってまでサッカーをするんだろう? というところを、それぞれが追求した方がいいチームになると思うんです。それが渋谷っぽいというか、渋谷のクラブである意味なのかなとも思っています。

もう1つは、もっと発信していくことですね。僕たちはサッカーの世界で生きてきたから、周りはサッカーのことを知っていて当たり前と思っているけど、実際はそんなこと全くなくて、サッカーやスポーツを全く知らない人の方がほとんど。

そういう世界の中で、『野村くんって平日夜や休日にサッカーをしていると聞いたけど、実際何どんなレベルなの?』などと、自分たちのような存在を知らない人たちのために、社会人サッカーのシステムやTOKYO CITY F.C.というクラブがどういうことしているか地道に発信していった方がいいのかなと思います」(野村)

 そして、志を共有する人間を増やしていくことも、「兼業フットボーラー」や「社会人サッカー」の魅力を発信していくうえで重要になる。大人になってからもサッカーで互いを高め合える仲間の存在は、人生においてかけがえのないものになるはずだ。

 TOKYO CITY F.C.には、徐々に社会人としてもサッカー選手としても、自分に秘められた可能性を追い求める人材が集まり始めている。クラブの活動を積極的に発信していく中で、SNSなどでの接触をきっかけに理念や魅力に共感し、加入を決めた選手も多い。

「自信を持っている選手ともっと一緒にプレーしたいなと思いますね。自分に自信を持っているということは、他の人より魅力的な部分があるからだと思っていて、そういう人間の方がイキイキしているし、面白いし、刺激も受けて、一緒にプレーしたいと感じます。自分に自信のない人は、何かを選択した時に環境のせいにしたり、文句や愚痴が多くなっちゃったりする。そういう選手が多いチームはうまくいかないと思うし、逆に自分が選んだ道に責任を持ってやっていける選手は、仕事でも周りにいろいろな価値や影響を与えられるのではないかと思います」(野村)

 人生の選択は人それぞれで、重要な分かれ道も、判断基準も人の数だけある。その中で、社会人になってもサッカーをプレーし続け、学生時代と同じように仲間たちと同じ目標を追いかける選択肢があってもいい。プロになれなかったらサッカー人生が終わりではないし、仕事にもサラリーマンとして働くだけでなく十人十色のキャリアの形がある。

 社会人サッカーには「兼業フットボーラー」という、人生を豊かにするかもしれない新しい価値が秘められているのだ。

(取材・文:舩木渉)

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