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池田エライザは田川市で青春映画を作った

キネマ旬報WEB

連載 「地域映画」は、本当に地域のためになるのか? その4

有田匡広さん(たがわフィルムコミッション/田川市職員)インタビュー

池田エライザ監督と演技ワークショップに参加した田川のみなさん

「食」や「高校生」とのコラボレーションを核に、映画24区が進める地域発の青春映画制作プロジェクト『ぼくらのレシピ図鑑』は2017年、兵庫県加古川市を舞台に安田真奈監督・脚本の「36.8℃ サンジュウロクドハチブ」でスタートした。自治体や市民が企画の段階から参加。脚本作りやロケハンにも協力した映画では、地域の食材や風景が物語とともに記憶された。

 

そんな『ぼくらのレシピ図鑑』第2弾「夏、至るころ」は、福岡県田川市を舞台に、女優・池田エライザさんが原案・監督、テレビドラマ『文学処女』『青と僕』などの下田悠子さんが脚本を手掛けた。田川市ではプロジェクトの成功のために、実働部隊となる実行委員会を組織したという。「夏、至るころ」のプロジェクトについて、田川市建築経済部たがわ魅力向上課の有田匡広さんにうかがった。

取材・文=関口裕子

田川市のソウルフードとは?

映画「夏、至るころ」の食卓に並んだ「ホルジャガ」

 

――まさにこの夏、「夏、至るころ」の撮影が行われたそうですが、現在の状況は?

有田 おかげさまで映画が完成して、市民にお披露目をしまして、今後の展開に向けた準備をしている状況です。この映画は作って終わりではなく、これからまちづくりに活かしていきますので。

――作品の内容は、次回のインタビューで登場される池田エライザ監督に存分に語っていただくとして、まずは映画をきっかけに、地域振興やシティプロモーションをしようと決めた経緯を教えてください。

有田 平成27年5月に二場公人(ふたば・きみと)田川市長が就任し、翌年4月に観光振興やシティプロモーションを行う「たがわ魅力向上課」ができました。いろいろ検討するなかで、映画やドラマの誘致がロケ地巡りなどの観光振興に結びつくことを期待して、平成29年4月にフィルムコミッションを立ち上げました。ちょうどその設立準備をしているときに映画24区の『ぼくらのレシピ図鑑』のリリースを手にしたんです。

当時はまだ第1弾が完成しておらず、未知数なところがあったため、最初は市の内部で企画が通りませんでした。でも、その間もやりとりをしていたら、福岡県出身の池田エライザさんが『ぼくらのレシピ図鑑』シリーズに興味を持っていて、田川市でやることにも積極的だという情報をいただいた。それで、再度企画内容を整理して上げたところ、承認を得ることができました。池田エライザさんというビッグネームがついたことで、少しだけ完成図を想像できる状態になったのだと思います。ただし、できるだけ市の負担が減るよう、国やその他の助成金を獲得するという条件が付きました。その後、助成金も得て、本決まりになったという流れです。

――なぜ『ぼくらのレシピ図鑑』を選ばれたのでしょう?

有田 理由の一つは「食」です。田川は7年前から「田川ホルモン鍋」をB1グランプリに出展していましたが、グランプリを獲得していません。おいしいホルモン鍋のお店も複数ありますが、田川に行ってこれを食べようというほど知られていないし、「これだ!」というお土産もないんです。田川に来たなら、あれを食べて、帰りにこれを買ってと勧められるような商品を育てたい。劇中に登場する料理を地域の飲食店で提供し、地域のお土産品として販売して、「あの映画に出た、あのメニューを食べよう」というふうになるといいなと。

――どんなものを商品化される予定ですか?

有田 劇中に登場するパプリカのピクルスとホルモンとジャガイモの煮込み料理「ホルジャガ」です。パプリカは、ラベルやネーミングを実行委員会や事業者と作り上げて、道の駅やネットサイトで販売したいと思っています。

パプリカのピクルスは「母の味」

 

――「夏、至るころ」が始動する前に、第1弾「36.8℃ サンジュウロクドハチブ」を作った加古川市に足を運び、ヒアリングされたとうかがいました。

有田 企画を練り直すにあたり、8つのメリットを挙げました。その中のいくつかは、加古川市さんをモデルにしたものもありますが、挙げますね。

1 「オリジナルメニュー(レシピ)の開発」。住民ワークショップを開催し、地域の方と一緒に映画をきっかけとしたメニュー開発をしました。行政主導ではなく、映画作りに関わってもらうことをきっかけに地域住民の方と一緒にメニューを考えました。

2 「特産品の販路拡大」。できたメニューやお土産品を販売することで農家さんの所得向上にもなります。

3 「新たな観光客の誘客」。地域振興のために地元で上映するときは無料で上映できるので、上映会とロケ地巡りと劇中に登場する食事を楽しむツアーを開発したいと思っています。

4 「シティプロモーションの推進」。3によって、炭坑節発祥の地だけじゃない、チャンネルができる。映画を通じて全国の人に今の田川を見てもらう。

5 「地域のにぎわいづくり」。フィルムコミッションでも言っていることですが、ロケが行われればまちがざわつく。上映や舞台挨拶があればさらにざわつくわけです。

6 「高校生の創造力の養成」。「高校生応援隊」は加古川市さんへのヒアリングの結果、導入したものです。高校生が映画の現場を見ることは貴重な体験となるだけでなく、視野も広がります。

7 「地域住民のまちづくりへの興味・関心の向上」。「食」と「脚本開発」のワークショップは、映画がきっかけだったので積極的に参加していただくことができたと思います。映画作りをきっかけで、まちづくりへ関心を持ってもらえました。

8 「シビックプライドの醸成」。今後行われる上映などで郷土愛を醸成してもらえることを期待しています。

――加古川市さんのアドバイスはプラスになりましたか?

有田 ものすごく助かりました。田川市にとっては初めてで、分からないことだらけ。映画の業界のことも詳しいわけではないので、地域の方々とどのように関わりを作っていくのか、加古川市さんもたぶん手探りで作られた成功事例を借りつつ、アレンジを加えて、田川モデルを作りました。

 

高校生応援隊と実行委員会

田川市の高校生応援隊

 

――プロジェクトの流れとしては?

有田 市の内部で企画が通ってからすぐに実行委員会を立ち上げました。メンバーは、行政と企業関係者とまちづくり団体や文化団体の方々です。各団体のトップが集まった意思決定の実行委員会ではなく、実働部隊の実行委員会を作りました。田川市モデルとして挙げるとしたら、これかなと思っています。青年会議所の現役やOBの方々が多数参加してくれました。意思決定も実行委員会で行うので、スピーディに進めることができました。皆さんの協力がなかったら成功させるのは困難だったと思います。これからも新メニューの展開や商品の開発など協力タッグで進めていきたいです。

――12月には呼びかけを始め、それぞれのプロジェクトが動き出したわけですね。

有田 はい。実行委員会の設立が1月。設立会議をやって、2月に「高校生応援隊」を募集。3月上旬に池田エライザ監督の映画を田川市が作ることをリリースしました。監督は池田エライザさんだと2月にはほぼ決まっていましたが、高校生応援隊を募集するにあたり、監督名でなく、純粋にプロジェクトに賛同した生徒を選びたかったので名前を伏せました。

田川市の人口は、約4万8千人。高校生の募集は、田川市とその周辺の町村を含む生活圏に呼びかけました。田川は三方を山に囲まれた盆地で、生活圏も一体なので高校の通学区も市郡一緒。田川市郡に在住、在校という条件に、新1年生となる中学3年生から高校2年生を対象としました。結果、30人が参加してくれました。

SNSを見ていると、田川市が池田エライザ監督の映画を作ったことを肯定的に書いてくださるものや、「田川市民、ずるい」「なんで田川市民だけ?」という書き込みもあったりして、「田川市民でよかった」と思ってくださる方もいたのかなとか思いました。

――高校生応援隊の活動は?

有田 まずリアルな高校生の声を聞きたいと要望された、脚本家の下田悠子さんを、シナハンも兼ねてお招きする形でワークショップを行いました。高校生と直接お話しいただき、会話のスピード感や方言、今の田川の高校生が抱えている思いを聞いていただきました。

撮影中は、制作部としてお手伝いもしてもらいました。高校での撮影の際には、実行委員会が用意したお昼のまかないづくりを手伝ってもらいました。

先日は、映画のフードコーディネーターさんをお招きして、「ホルジャガ」を一緒に作って試食を兼ねた「中打ち上げ」を行ったところです。今後の関係者試写会や、2月の地元住民向けの有料試写の際は、高校生応援隊にPRを手伝ってもらおうと思っています。年度が変わると卒業生も出てくるので、そこまでが高校生応援隊の活動の一区切りかなと考えています。

――住民の方向けには、どんなワークショップを行ったのでしょう?

有田 脚本ワークショップと演技ワークショップです。安田真奈監督に来ていただき、お題をもらって脚本を書いてみるという作業をしました。「脚本」と「食」のワークショップと、映画作りセミナーは、同じ日に一気に行いました。演技ワークショップは別の日程で、さらに別の日に地元の出演者オーディションを行いました。その全てに参加してくださった方もいれば、オーディションだけ受けた方、ワークショップだけの方もいます。参加者のアンケートには、「楽しかった」「すごく期待しています」「楽しみにしています」など肯定的なものが多く、常日頃、明るい話題を求めていることを実感しました。そういう意味では数字化できないまでも「にぎわいづくり」や「シビックプライドの醸成」は達成できたかなと思います。

 

映画に映った田川らしさ

石炭記念公園の2本煙突

 

――ロケ地選びで気をつけたポイントは?

有田 もちろん脚本ありきですので、我々としては推したいところもいくつか提案しましたが、却下されたところも多いです(苦笑)。自治体としては、新しく作ったきれいな施設などを見て欲しいじゃないですか。でも地域映画だからこそ、新しくてどこにでもあるものを出すより田川らしいところを撮りたいと、制作サイドから希望が出たんです。だから、そんな場所を探しました。

とはいえ、ロケ地巡りでご紹介したい場所が2つあります。歴史遺産の「石炭記念公園」内にある「2本煙突」です。ただ、物語の重要なシーンを撮影したのは小学校の校庭なので、残念ながら一般の方にふらりと入っていただくわけにはいかず、これはぜひ我々が作るツアーパッケージに参加していただけると嬉しいなと思っています(苦笑)。

もうひとつは、「二鶴食堂」という食堂です。和風で透明なスープに蒸し麺のちゃんぽん。町の人がふだん食べている食堂ですが、懐かしい感じのお店でとてもおいしい! 観光パンフレットでも紹介しています。3時半くらいに閉めてしまう商売っ気のなさも魅力で、ここのちゃんぽんを食べてもらうだけでも経済効果はあると思っています(笑)。

――ホルモン屋さんは?

有田 あります。ただ、劇中の「ホルジャガ」ではなく、地元に昔からあるホルモンと野菜を鉄板で焼く「ホルモン鍋」という料理です。「ホルジャガ」はこれからですが、大鍋で作っておいて、お通しで出すとか、お皿に持って出すとか、いろいろな使い方ができそうです。

――まだプロジェクトの途中ですが、敢えて反省点をあげていただくとしたら?

有田 今回、「36.8℃ サンジュウロクドハチブ」の助監督だった向田優さんがアシスタント・プロデューサーとして入り、映画に登場する太鼓の団体の調整や、前乗りして太鼓の練習をするメインキャストに帯同して地元の人とキャストの繋ぎなどもやってくれました。向田さんは、加古川市で「地域プロデュース」の大切さを実感したそうで積極的に動いてくれましたが、もっと初期の段階で「実行委員会」や「高校生応援隊」が動く時にも映画制作サイドの見解が分かり、調整できる方がいたらよかったなとは思いました。

――加古川市でそのポジションを担当されたのが、松本裕一さんだったわけですね。向田さんは、松本さんの下についていたので、その重要性をよく理解して田川市に入られたそうですが。

有田 はい。とても助かりましたが、欲を言うともっと前からいてくれたら助かったなと(笑)。数を重ねることによって、いろいろなケースが蓄積されて、よりよく進められるノウハウが習得できると思います。『ぼくらのレシピ図鑑』シリーズ第3弾、第4弾が作られるなら、その自治体さんに包み隠さずお話しするつもりです。

 

撮影現場の有田匡広さん(左)

 

有田匡広 ありた・ただひろ

〇プロフィール

1973年福岡県生まれ。福岡県田川市職員。10年超の財務事務担当を経て2016年からシティプロモーションや観光業務に従事。2017年にたがわフィルムコミッションを設立し、映像作品を活用した地域振興に取り組んでいる。現在は田川市で撮影されたぼくらのレシピ図鑑シリーズ第2弾「夏、至るころ」にも登場し、その製作過程の住民ワークショップで出されたアイデアメニューを活用して、「映画」と「食」による新たな観光コンテンツづくりに奔走している。

 

☆連載 「地域映画」は、本当に地域のためになるのか?

プレ連載

https://www.kinejun.com/2019/10/03/post-945/

第1回 三谷一夫(映画24区代表)インタビュー

https://www.kinejun.com/2019/10/18/post-982/

第2回 安田真奈(映画監督・脚本家)インタビュー

https://www.kinejun.com/2019/11/07/post-1078/

第3回 松本裕一(兵庫県議会議員)インタビュー

https://www.kinejun.com/2019/12/13/post-1572/

●ぼくらのレシピ図鑑シリーズ

http://bokureci.eiga24ku.jp/

●映画『ぼくらのレシピ図鑑シリーズ』で学ぶ講座

【地域プロデューサー術クラス】と【脚本術クラス】来年春に第2期開講予定

●お問合せ

株式会社映画24区

TEL:03-3497-8824

HP:http://eiga24ku-training.jp/contact/

 

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