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藤子・F・不二雄の試行錯誤を追体験! 大全集持ちのファンも大満足な『ドラえもん 0巻』レビュー

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藤子・F・不二雄の試行錯誤を追体験! 大全集持ちのファンも大満足な『ドラえもん 0巻』レビュー

小学館「てんとう虫コミックス」から、23年ぶりの新刊として発売された『ドラえもん 0巻』。刊行が明らかになるやいなや、全国の書店に問い合わせが殺到。発売前に2度の緊急重版が行われるなど、大きな話題を呼んでいます。

そんなプレミアムな一冊を、ライター&イラストレーターの北村ヂン(@punxjk)がレビュー。コアファンも大満足の一冊の魅力を、たっぷりと解説します。

てんとう虫コミックス『ドラえもん0巻』表紙

『ドラえもん 0巻』からF先生の息吹を感じる!

ドラえもん50周年記念として刊行された、てんとう虫コミックス『ドラえもん 0巻』が、発売前から重版がかかるなど大好評。一部書店などで入手困難となっていたようだ。

連載開始当初、複数の雑誌で描かれた6種類の第1話が収録されている今回の『0巻』。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎて、自分で描くイラストの絵柄もどんどんF先生に寄っていってしまっている筆者としては、当然、買うのは確定なわけだが、実際に手に取るまでは若干モヤモヤした思いを抱えてもいた。

……だって、「藤子・F・不二雄大全集」持ってるんだもん。

これまで単行本未収録だったエピソードもすべて収録された、決定版というべき「藤子・F・不二雄大全集」の『ドラえもん』。もちろん、今回『0巻』に収録されているエピソードも全部載っている。改めて『0巻』を買う必要があるのか!?

しかし「大全集」ではモノクロでの収録だったエピソードも、『0巻』にはカラーで収録されるという。……ズルイ! だったら、多少高くなってもいいから、「大全集」もカラーにしといてくれよ!

そんな気持ちを抱きつつ購入した今回の『ドラえもん 0巻』だが、結果的には紙の単行本だけでなく、いつもでどこでも読めるように電子版まで購入してしまうほど大満足な内容だった。

「小学二年生」版 第1話 トビラ絵

カラフルでありながら、上品な色彩感覚でまとめられたカラーページの魅力はもちろん(藤子不二雄Ⓐ先生のドギツイ極彩色のカラーページも好きだけど)。なにより、『ドラえもん』連載開始当時の藤子・F・不二雄先生の息吹を感じられるような生々しい構成になっているのが嬉しかったのだ。

これまで出た単行本と比べた『0巻』の位置づけは

てんとう虫コミックス『ドラえもん 第1巻』表紙

普通、漫画の単行本は、全巻買いそろえれば第1話から最終話まですべて読めるのが当たり前。しかし『ドラえもん』は少し事情が違う。

もっともスタンダードな『ドラえもん』の単行本「てんとう虫コミックス」は、全45巻で821話収録。しかし雑誌に掲載された『ドラえもん』は全1,345話あり、500話以上も未収録なのだ。

これには、複数の学年誌で同時に連載されていたという『ドラえもん』の特殊性が絡んでいる。

小学館の学年誌「小学一年生」~「小学六年生」「よいこ」「幼稚園」などで連載されていた『ドラえもん』は、毎月、掲載誌の数だけエピソード生み出されていた。たとえば12月号だったら、「冬」をテーマにした複数のエピソードが各雑誌に掲載されるのだ。

しかも雑誌の読者に合わせて、登場人物の年齢も描き分けられており、のび太たちの身長や等身も微妙に異なっているのだ。

これをそのまま雑誌掲載された順で単行本に収録してしまうと、ある巻では冬の話ばかり、またある巻では夏の話ばかり。のび太が急速に成長したと思ったら、いきなり幼稚園児に戻ったりと、読みづらいことこの上ないだろう。

……ということで「てんとう虫コミックス」は、話のクオリティに納得がいかなかったり、設定にブレがあるエピソードなどが省かれた上で、季節の移り変わりなども考慮して、自然に読み進めていけるように構成されているのだ。

『藤子・F・不二雄大全集 ドラえもん 第1巻』表紙

一方、「完全収録」をうたっていた「藤子・F・不二雄大全集」では、「学年繰り上がり方式」という特徴的な編集方針がとられている。

これは、○○年に生まれた人が小1~小6にかけて学年誌で読んでいた『ドラえもん』を時系列で読めるように並べた構成。

たとえば「大全集」5巻では、1965年生まれの人が読んでいた1972年~1978年に連載されたエピソード。6巻は1966年生まれが読んでいた1973年~1979年……といった形だ。

そういう意味では今回の『0巻』は、同じ月に複数の雑誌に掲載されたエピソードを一冊にまとめた、はじめての単行本。

「てんとう虫コミックス」がベスト盤的構成、「大全集」が読者の思い出を追体験できる構成だとすると、『0巻』は藤子・F・不二雄先生が『ドラえもん』を作り上げる過程を感じることのできる構成と言えるのではないだろうか。

試行錯誤の痕跡が生々しく残っている

「幼稚園」版 第1話 トビラ絵

『ドラえもん』が連載開始されたのは、各雑誌の1970年1月号から。「めばえ」「幼稚園」「小学一年生」~「小学四年生」の6誌で同時にスタートしている。

すでに『0巻』を読んだ人たちからは、現在のドラえもんのイメージとは異なる設定や、デザインの違いが指摘されているが、今回収録された6種類の「第1話」の中だけでも微妙に設定のブレが見られる。

ここから読み取れるのが、新連載をはじめるに当たっての試行錯誤の痕跡だ。

もちろん、ある程度設定を固めてから執筆をはじめてはいるのだろうけど、6本も描いていると途中で「やっぱりこういう設定の方がいいんじゃ……」なんて考え直すこともあるだろう。

「よいこ」の第1話では、ネコ型ロボットらしく四足で走っていたり、「小学一年生」の第1話ではヘリトンボ(現在のタケコプター)を使わず、セワシくんを背中に乗せたドラえもんが自力で空を飛んでいたり。

ところが「てんとう虫コミックス」1巻の第1話「未来の国からはるばると」の原型となっている「小学四年生」の第1話では、四足で走ることもないし、ちゃんとヘリトンボを使って空を飛んでいる(ただし、背中や尻にくっつけているけど)。

完全に想像でしかないが、自力で飛ぶドラえもんを描いた後で、「主人公だけが飛行能力を持っていて、人を背中に乗せて飛ぶという設定は『オバケのQ太郎』とかぶるな」……なんて思ったんじゃないだろうか。

そこでヘリトンボを登場させることによって、のび太たちも“ドラえもんという乗り物”に頼ることなく、空を自由に飛べるようになったのだ。

『0巻』のシリーズ化を期待!

F先生の作品は、「てんとう虫コミックス」に収録されるタイミングなどで、たびたび描き直しが行われることも知られている。とことんクオリティを求めてこだわるF先生らしいが、今回の『0巻』ではあえて修正前の、雑誌に掲載された当時のバージョンを極力再現するという方向で編集されている。

前述の設定のブレはもちろん、のび太のメガネを描き忘れているため、もはや誰なのかよく分からなくなっている(直前まで連載していた『ウメ星デンカ』の太郎くんと書き間違えたのでは!?)コマもそのまま収録されているのだ。

色の塗り忘れなどもチョコチョコ見受けられ、F先生らしからぬ「粗さ」を感じるが、それが逆に当時の切羽詰まった状況を追体験させてもくれる。

「ドラえもん誕生」トビラ絵

この『0巻』には『ドラえもん』の大ブレイク後、1978年に描かれた「ドラえもん誕生」も収録されている。F先生自身を主人公に、『ドラえもん』が生み出されるまでの苦労を描いた短編だ。

主人公の名前もデザインも決まっていないまま予告を出してしまい、締切ギリギリになっても何もアイデアが思いつかず七転八倒。本当にアウトとなる寸前にようやくアイデアが固まり、意気揚々とスタジオに向かうところで終わっている。

予告ページ

こんなギリギリまで引っ張った状態で、ようやく連載の方向性が決まって、そこから一気に6種類の「第1話」の原稿を描き上げたかと思うと頭がクラクラしてくる。そりゃあ多少の塗り忘れや描き間違えも出てくるってもんだ。

ドラえもんが未来からやって来るシーンが6回も出てくるため、はじめて『ドラえもん』に触れる子どもが読んだら混乱してしまいそうだが、幼少期から『ドラえもん』に慣れ親しんできた大人にとっては、新しい発見の多い『ドラえもん 0巻』。

何度も読み倒したエピソードたちも、並べ方が変わることによって、こんなに読後感が変わるとは……。

この調子で、全エピソードを雑誌掲載時のバージョンで、執筆された時系列で並べた『完全版・ドラえもん』みたいなシリーズを出してくれたら……お財布の耐えうる限り、買います!

文 / 北村ヂン

『ドラえもん』0巻(てんとう虫コミックス)

著者:藤子・F・不二雄
定価:本体700円+税
ISBN:978-4-09-143156-1
出版社:小学館
発売中

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