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傑作かつ“豊作”だった二枚組の『KAMAKURA』(前編)

エンタメステーション

傑作かつ“豊作”だった二枚組の『KAMAKURA』(前編)

今年デビュー40周年を迎えたサザンオールスターズのバンド・ヒストリーを、彼らが生み出した数々の作品から改めて見つめていく。音楽評論家・小貫信昭が独自に紐解く、サザンオールスターズの魅力──。

1985年。筆者はある雑誌にこんな文章を書いた。

「今年の夏は、なにか物足りなかった。サザンオールスターズがアルバムを出してくれなかったからだ」。

思えば彼らは81年の『ステレオ太陽族』から、4年連続で7月にアルバムをリリースしてきた。しかしこの年、遂にスケジュールが崩れた。とはいえ、次のアルバム『KAMAKURA』が届けられたのは、少し遅れた9月のことだったのだが…。

今回の原稿は、当時、桑田佳祐から聞いたことを中心に書かせていただく。レコーディングが終った直後、彼に取材した。季節は8月の終わり。場所は現在もサザンオールスターズが使用しているビクターのスタジオである。

約束の日、1階のカフェ/レストランで待っていると、桑田は上階から降りてきてくれた。そして、着席するなりブラインド越しに外の景色を眺め、眩しそうな目をした。「もう9月。秋だよなぁ…」。

レコーディングがスタートしたのは、雪がちらつく3月であった。そして、延べ1,800時間にもおよぶ作業を経て、ついに新作は完成した。インタビューの終了間際、この質問をした。「なぜこのアルバムは“KAMAKURA”ってタイトルなんですか?」。すると桑田の答はこうであった。

撮影で1日だけ鎌倉に行って泊まった時、「自分はひとまわりして帰ってきた」という気分になったの。ものすごいインスピレーションが湧いて、勇気が出てきてさ。“そうだ、『KAMAKURA』でいいんじゃないかな”って思った。
(雑誌『FMステーション』1985年9月23日号)

この発言のなかで重要なのは、“ひとまわりして帰ってきた”という部分だろう。そのあたりは、おいおい書いていくことにする。

『KAMAKURA』は、作っていくうちにどんどん作品が生まれていって、「気づけば2枚組になっていた」という説もあるが、僕が桑田から聞いたところに拠ると、当初からそれは、メンバーの構想として何となくあったものだという。

その際、具体的な“中身”というより、「2枚組を作る」という行為そのものが、自分達にもたらしてくれる“効果”に期待したのだ。ではそれは何なのだろう?

順を追って説明したい。

アーティストというのは、いろいろ作っていくうちに、得意技も分かってくる。得意技とは、作曲面や演奏面における、メンバー個々の“手癖”が集積したものだろう。でもこのアルバムにおいて、当初はそれらを封印し、新たなサウンド作りに挑戦していったという。ともかく、「自分達自身が新鮮に感じられること」を探したのだ。

結果、オケを聞くぶんにはどのバンドの演奏なのか判断つかないようなものも生まれた(もちろん最終的に桑田のボーカルが入れば、「あ、これはサザンだ!」と分かるわけだが…)。しかしこれこそが、今回のレコーディングが開始された頃の、彼らのモチベーションにもなった。

ただ、20曲もの新曲を、短い期間に用意するとなると、やがて様子が違ってくる。気づけばメンバー個々の“手癖”が素直に反映された楽曲・演奏も生まれていたのだ。つまり先ほどの、“ひとまわりして帰ってきた”という言葉と、ここでつながるわけである。

もし通常のアルバムで、10曲なら10曲を厳選しようというなら、新鮮味を感じるものを優先し、それらは除外されていたかもしれない。でも、それも含めて構成することが可能だったのが、そもそも2枚組として思い浮かべていた本作なのだった。ビートルズを愛好する桑田だけに、インタビューのなかで『ホワイト・アルバム』に準える場面もあった(あのアルバムがビートルズのどういう歴史的局面を飾ったか、とかではなく、単に物量に関して)。

そもそも2枚組のアルバムというのは、ビジネスがどうの、といったことを離れ、「音楽として自立している」ものなのだと、当時の桑田は言ったのである(引用は前出と同じ)。いま、『KAMAKURA』というアルバムから伝わってくるのは、サザンオールスターズの「表現者としての凄み」や「アーティスティックの極み」だったりするが、それは当時のメンバーが、まさに目指したものでもあったろう。

60~70年代のロックに影響されてきた彼らにとって、2枚組のオリジナル・アルバムは、ひとつの夢でもあった。創作意欲が炸裂し、気づけばそうなっていたという英米の先人達の作品集は、ビートルズ以外にも様々、のちに名作と呼ばれたものが多数あったのである。さて次週は、『KAMAKURA』をじっくり聴き直してみることにしたい。

文 / 小貫信昭

リリース情報

サザンオールスターズ
ALBUM『KAMAKURA』

1985年9月14日発売
VICL-63308〜9 ¥3,048+税
ALBUM『KAMAKURA』 その他のサザンオールスターズの作品はこちら

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