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「食の趣味」が合うアラフォー独身女性と同居を開始した男性の結末は…!? 京都を舞台に繰り広げられる三角関係未満の男女の物語

ダ・ヴィンチNEWS

『さんかく』(千早茜/祥伝社)

 食の趣味が合うって大切だ。好きな食べ物をひとりきりで堪能するのも幸せだが、誰かと美味しさを共有できた時、幸せは何倍にも膨らむ気がする。私事で恐縮だが、結婚当初、夫と食の好みがことごとく合わないことに愕然とした記憶がある。特に好物の甘いものを食べる時に、美味しさを共有できない事実に寂しさを抱いた。結婚して4年経った今ではもう、そんなやるせなさを上手く乗り切る術は、すっかり身についてしまったのだが。

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 千早茜さんの『さんかく』(祥伝社)は、ただ「食の趣味が合う」という理由で、古い京町屋で暮らす40手前の夕香と同居することになった正和、そしてその事実を知らされていない正和の恋人・華の3人の物語だ。

 本書は、三角関係未満の揺れ動く大人の男女関係が、たくさんの食べ物と共に、それぞれの目線で語られる。物語は、会社を辞めて東京にいる理由もなくなり、美大の頃の友人がいる京都に戻ってきたアラフォーで独身の女性・デザイナーとしてフリーランスで働く夕香の語りで幕を開ける。夕香は、「恋はもういらない」と言いながら、欲しいものに手を伸ばすより、持っているものを大切にする生き方をしていた。

 そんなある日、彼女は偶然、10年以上前に京都のカフェでバイトしていた時の6つ年下の後輩・正和と再会し、月に一・二度飲みに行く関係になる。30すぎで営業として働く正和には、大学で動物の研究をしており、日夜問わず解体や論文に忙しい、可愛らしい雰囲気の彼女・華がいる。だが、彼女とは中々会えず、連絡もまばら。内心不満を抱えていた時に、昔、バイト先で食材を持ち込んでまで美味しい「まかない」を振舞ってくれた夕香と再会し、アパートの更新をきっかけに、夕香の住む京町屋へと転がり込むのだが――!?

「食の趣味が合うから」という理由だけで彼女に黙って夕香と同居を始めた正和。夕香とは、親しい友人でもなく、異性として恋焦がれているわけでもない。お互い、一歩引いた距離感を保ちつつも、毎朝、土鍋で炊いたご飯のおにぎりを作ってもらい、会社へお弁当として持って行く。だが、いつの間にか、温かくて栄養満点のご飯が用意されることが日常となり、恋人でも家族でもない責任のない関係に、無意識に甘え始めた彼に、読んでいて苛立ちが募った。しかしながら、夕香も実は、不倫の彼から離れられないでいる。そして正和の彼女・華も、自分の研究が正和よりも大切で、フライドチキンを食べている時に、養鶏場の話を平然と始めるような女性なのだ。

 本書には、人参のすりおろしを入れた炊き込みご飯「あけぼのご飯」や「蒸しトウモロコシ」「いちごパフェ」など、いつも美味しいものに囲まれながらも、大切な人と正面から向き合うことが苦手な、ずるくて不器用な大人たちが、自分の本当に欲しいものを見つけるまでの葛藤が描かれる。人は、ふとした瞬間に、孤独や寂しさに耐えられなくなり、良くないとわかっていても、楽な関係に逃げてしまうことがある。そんな人生の一時的な「寄り道」が、淡々と、しかしとても人情味のある温かいまなざしで描かれている。

 迷える大人たちが見つけたものは一体何なのか。ぜひ期待して読んでみてほしい。

文=さゆ

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