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フェンシング躍進の立役者・太田雄貴が語る、“旧態依然”を突き破るカギとは

ダ・ヴィンチNEWS

『CHANGE 僕たちは変われる』(太田雄貴/文藝春秋)

 今年日本でラグビーワールドカップが開催されたことによって、私たちはスポーツが持つ多様なポテンシャルを再認識する機会を与えられた。そして、数あるスポーツ種目の中でもベンチャースポーツという位置づけで体制革新が図られているのが、『CHANGE 僕たちは変われる』(太田雄貴/文藝春秋)のトピックである「フェンシング」だ。2017年に31歳という若さでフェンシング協会会長に就任した著者について、そして本書で紹介されている弛みなき挑戦の一部を以下にご紹介しよう。

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■フェンシングを一躍「観戦しておもしろい」スポーツに

 著者は2008年の北京五輪、2012年のロンドン五輪で連続して銀メダルを獲得した後、2016年のリオ・デ・ジャネイロ五輪の直後に現役を引退した。現役引退直後に会長就任が決まったことになるが、ロンドン五輪以降頃からオリンピックのメダリストという「名刺」をいかして個人的なネットワークを広げていたのだという。そして、会長に就任すると、フェンシングのおもしろさを広めることに全力を注ぎはじめた。

 競技の普及のためには既存のスポーツの見かたを疑うことを厭わない姿勢は、著者の幅広い知見に由来するようだ。たとえば、バイシクルモトクロスの大会を見に行った際には、難しい技に挑戦した選手に対して拍手を送る会場の一体感に感銘を受けたことを例にとって、選手の言動やゲーム運びに対して嘆くような観戦文化についてはこう述べる。 

“そうではなくて、自分が声を上げたいときには自由に叫び、シュートを打ったことやチャレンジしたこと、勝利や成功といった結果だけではなくプロセスを評価してあげられる文化を、スポーツ界から日本全体に広げていくことができれば、どんなにいいことか、と思います。”

 現在、日本フェンシング協会のホームページを開くと、写真家の蜷川実花氏が撮影した色鮮やかな写真がトップを飾る。また、選手と審判の心拍数が大型ディスプレイに表示されるようにしたり、フェンシングの剣先の軌跡を可視化するフェンシング・ビジュアライズドを考案したりするなど、斬新な試みを次々に実現してきた。大小さまざまなトライ&エラーを繰り返した結果、著者が会長就任してから、フェンシングの観客数は2年で9倍以上になったという。

■スポーツを変革することができる人材とは?

 では、著者のどのような特性がその躍進に貢献したのだろうか。本書には転職サイト・ビズリーチの南壮一郎社長と著者の対談が転載されており、そのヒントが書かれている。それによると、「強い人」ではなく「変わり続けられる人」が現代社会では必要で、著者はその後者に該当する人物だという。

 スポーツ選手はツイッターなどのSNSを通じてファンと直接コミュニケーションがとりやすくなり、現役選手の兼業や、引退後のパラレルキャリアも盛んになりつつある。そうした時代の流れの中で、著者はフェンシングという競技に最大限の可能性を見出している。

“フェンシングは、アスリートの未来にしっかりとコミットしていきたい。そして、その姿勢をみなさんにご覧いただくことで、“選ばれる”競技になっていきたい。
何より、スポーツのあり方自体が変わってきているのです。選手が試合で勝っていればいいだけの時代は終わったと感じています。”

 本書では、スポーツ競技団体に関連して起こる不祥事について、しっかりと言及していることも好印象だ。著者の主張によると、競技によってはいわゆる「体育会主義」がいまだにはびこっているが、権力関係やマネジメント体制の見直しが必要だという。

 また、選手が自らスポンサーを獲得し、そのスポンサーロゴをユニフォームにつけるべきだと推奨している視点は、フェンシングだけでなく他競技、そしてスポーツというカテゴリを越えて企業やフリーランスにおける働き方にも大いに参考になるだろう。

「突け、心を。」という協会理念を掲げる著者の言葉は、まさに読者の心を突き、揺さぶるものになっている。

文=神保慶政

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