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音楽が禁じられた世界「サラバ静寂」 宇賀那監督が本作を撮った3つの理由とは。

キネマ旬報WEB

音楽が禁じられた世界で、音に魅了された若者たちの運命を描く青春SFロードムービー

映画「サラバ静寂

 

映画が作れない苦悩の日々と、扉を開けた吉村界人との出会い

―狂気の警察官を盤面に映したCDは、彼の手で真っ二つに割られる。その鋭利な切り口は、所持者=犯罪者の喉元を切り裂くだろう―。音楽の禁じられた世界を描く「サラバ静寂」を宇賀那健一監督が撮った理由は、3つあった。

宇賀那:「1つ目は僕自身、『黒い暴動』(16)以前に撮れない時期が長く続き、それでも会社勤めをしながら脚本を書き続けまして……。僕にとって映画は欠かせないので、そういう思いを映画にしたかった。ただ題材が〈映画〉だと近すぎるので、〈音楽〉に変えました。2つ目はその頃に風営法改正がクラブなどに打撃を与えまして、音楽業界の今後について映画に託してみたいと思ったこと。3つ目は吉村界人との出会いです」

―吉村演じるミズトは、ネジ工場で単調な労働に従事する日々の中、偶然にも音源や楽器など音楽資材で埋まった廃屋を見つけ、通い詰めるうちに音楽に魅せられてゆく。

宇賀那:「吉村の良さは、自分が感じた通りに突っ走れることですね。ドラマの俳優は、悪い意味ではないですが、テクニックに長けていて感情の沸点などをコントロールできてしまう。それとは対照的な吉村の直感的な良さを活かすため、あまりカットを割らず、テイクも重ねていません。あとこれは僕のスタイルですが、事前の本読みもしていません。こうやればいいんでしょ、と前もって固まるのが嫌なので。そうすると現場で俳優の負荷は高まりますが、それは俳優キャリアもある僕が、俳優を信頼しているからこそです」

 

若葉竜也の卓越した演技、SUMIREという期待の新星

―ミズトと行動を共にするのは、同僚のトキオ。自ら音楽を紡いでゆくが、その運命に残酷な終止符が打たれる。若葉竜也が演じる。

宇賀那:「若葉はやはり上手いですね。子役出身でキャリアは長く、映画の知識も豊富で、物事を俯瞰して見ることができる。吉村とは違うタイプの良さを持った俳優だと思います。トキオは愛されキャラだったので、死ぬシーンを撮る前夜、スタッフたちに『トキオを殺さないでくれ』って言われました。まだ見ていたいからって」

―さらに加わるのが、音楽所持罪(遊楽法)で父を殺されたヒカリ。演じるモデルのSUMIREは、これが映画初出演。

宇賀那:「ビジュアルイメージと裏腹に、彼女はすごく頑張り屋なんです。部活の後輩みたいなキャラで、何回でもやりますというタイプ。技術ではない部分で惹きつける魅力があって、この時期の彼女だからこそできたことは多いはずです」

 

 

斎藤工という頼もしい刺激的存在

―秘密の音楽イベント「サノバノイズ」を目指して彷徨するミズトとヒカリ。だが前述した狂気の警察官・杉村が、音楽への憎しみを募らせていよいよ迫る。斎藤工の怪演が炸裂する。

宇賀那:「工さんのアドリブはかなりありますね。小道具からセリフ、動き方に至るまで、数々の提案をしてくれました。群馬で撮影しましたが、こちらで用意した衣装や小道具とは別に、トランク2個持ってきてくれて。それ以外にも気づくとコンビニとかで買っているんです。こういうのどうですか、と色々投げていただいたおかげで、僕の中でも作品の目指すところが明確化され、刺激的でした」

―ちなみに却下された案は……。

宇賀那:「工さんは銀髪にしたがり、物語的に不具合が生じるのでお断りしたんです。それでも染料を現場に持ってきて『どうですか?』って。再びごめんなさいと言ったら、一応メイクさんに預けておきますねって(笑)。よほど染めたかったんですね」

 

 

4つの構成で音を紡いだ物語、または3+1の必然的構成

―ようやく辿り着いたライブハウスは、音楽の熱で沸き返っていた。

宇賀那:「まず扉を開けた時の高揚感を出したくて、ステージ序盤にハードコアバンドのASSFORTを持ってきました。続いてフリースタイルラッパーのGOMESSが登場し、音楽とは何かということを叫ぶ。その次には、メジャーなジャンルであるロックやEDM系とは違う、もっと古典的かつ日本的な音楽として、和太鼓バンドの切腹ピストルズが演奏します。音楽の多様性とミュージシャンならではの説得力が出せました」

―音楽に関わらず、全篇で音にこだわった。4つの構成で音を紡ぐ。

宇賀那:「1幕目はトキオが殺されるところまでで、ネジ工場の音。2幕目はミズトとヒカリの彷徨シーンで、あえて電気ノイズを入れることで、街の落ち着かない雰囲気を作っています。3幕目は森のシーンで、雑音を一切消して動物の鳴き声を持ち上げました。4幕目はライブハウスで、音楽が一種のアンビエントであるような設計です」

―思えば「黒い暴動」は黒ギャルのパラパラ映画だったから、今回の「サラバ静寂」と合わせて2つの音楽映画。そして「サラバ静寂」を撮った3つの理由。音をめぐる4つの構成。数字で変奏してゆくならば、最後にもう1つ。

宇賀那:「僕は題材に応じてやり方を変えるので決まった作風はありませんが、『黒い暴動』に出演した柳英里紗から『3人の構成が好きだよね』と言われまして。もっと言えば3+1ですね。今回だと吉村と若葉とSUMIREがいて、工さんがいて。確かに次回以降も同様の構成が多く、僕はそういうのが好きなのかも……」

 

 

宇賀那健一

うがな けんいち:1984年生まれ、神奈川県出身。青山学院大学経営学部経営学科卒業。2016年に、ガングロギャルの青春を切り取った『黒い暴動』で長篇映画を初監督する。次作『魔法少年☆ワイルドバージン』がこの12月6日公開、NYLON JAPAN15周年企画映画『転がるビー玉』が2020年2月7日に公開を控えている。

文=広岡歩/制作:キネマ旬報社(キネマ旬報12月上旬号より転載)

 

 

「サラバ静寂」

●11月22日発売
●DVD 3800円+税
●監督・企画・脚本/宇賀那健一
●出演/吉村界人、SUMIRE、若葉竜也、森本のぶ、仲野茂、大貫憲章(特別出演)、灰野敬二、斎藤工
●2018年・日本・カラー・16:9LB(スコープサイズ)・音声・日本語(ドルビーデジタル5.1chサラウンド)・本篇85分
●音声・映像特典/オーディオ・コメンタリー(吉村界人、斎藤工、宇賀那健一監督)/メイキング(48分)(『少女邂逅』の枝優花が監督)/予告篇集
●発売・販売元/ギャガ
(C) 「サラバ静寂」製作委員会

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