「初見の投手は追い込まれたら対応しきれない難しさがある」
勝負は1球目から始まっている。
「世界野球プレミア12」に出場している侍ジャパンがスーパーラウンド第3戦を戦い、3−1でメキシコを下した。先発の今永昇太が完璧な立ち上がりを見せれば、打線も4本のヒットを集めて2点を先行、2回にも1点を追加。この3点を守りきっての会心の勝利だった。
両チームの対決で注目したのは、投手対打者における「カウント作り」だ。
当然のことだが、投手にも、打者にもそれぞれ腕を振りやすい、フルスイングしやすいカウントというものがある。
2ストライクナッシングだったら、投手は気持ちよく振れるし、打者のスイングは小さくなる。逆もまた然りで、カウント3ボールナッシングだったら、打者は甘い球だけを狙ってフルスイングすることができるが、投手は腕の振りを少し緩めなければならない。
投手対打者には、常に、そうしたせめぎあいの勝負がある。
稲葉監督は言う。
「国際大会ではストライクゾーンが国際審判というのがありますし、また、初見の投手は追い込まれたら対応しきれない難しさがある。ですから、どんどん積極的に、振りながら対応していくことが大事なのかなと思います」
追い込まれる前に打つ。
言葉では簡単だが、これが難しい。低めのギリギリいっぱいに初球から投げ込んで来られれば、打ち返すのは容易ではない。カウントをいかに有利な状態で勝負できるかのせめぎ合いを制するかが大事だということだ。
積極的な姿勢が初回の2得点を生む
初球から挑んでいくのか、そうではないのか、打者のスタイルによるところもあるが、本人たちの力を発揮していくには、カウントをいかに作るかの勝負がある。
試合を振り返る。
1回、メキシコの攻撃を三者凡退で抑えたあと、侍ジャパンはこの日、2番に入った坂本勇人が初球をフルスイングして左翼前安打で出塁した。坂本は1死からだったが、ボールを見ていくという姿勢はなく、好球必打を選んだ。
坂本はいう。
「マイナスに考えて打席に立たないようにしていた。あまり特徴がわからない投手を見ていくのはよくないかなと思って、早めに仕掛けました。ファールや空振りにならなかったのが良かったです。振りに行ったら、前に飛んだというところで、いいあたりではなかったんですけど、得点につながってくれたのは良かった」
坂本は3番・浅村栄斗の打席で盗塁を成功。2死二塁となって4番・鈴木誠也は1ボールからの2球目をスイングすると、中前に落ちる適時打となった。
初球から勝負した坂本、ボール1からの鈴木と積極的な姿勢からの先制攻撃だった。その後、外崎修汰が続いて、2死一、二塁とすると、6番の近藤健介がコンタクトしたのも初球だった。センター前へはじき返す適時打だった。
「チャンスだったんで積極的に行こうと思った」
近藤はそう振り返っている。
初回からの2得点はチームを前に向かせるものだった。前日のアメリカ戦では、相手投手に翻弄されていたところもあったから、機先を制するような攻撃だった。
カウント勝負をいかに有利に持っていくか
ただ、この攻撃は「ファーストストライクを狙う」「積極性を前面に出す」ことをチームとしてかなり意図的にしたからではない。
金子誠ヘッドコーチは課題として言われ続けている「動くボール」に対してのアジャストメントをこう語る。
「あたりが出ていなかった選手にヒットが出たことも良かったんですけど、スイングの動きが出てきたことが良かったです。ただ、それはファーストストライクから積極的に狙いに行こうという指示を出したわけじゃないです。
外国人投手の強くて動くボールが課題と言われますけど、こういう国際大会でよくないのは、相手の投手のボールに対してタイミングが取りにくいだろうと思いすぎてしまって、打者の体が固まってしまうこと。
ですから、動こうと、打席の中でリズムをとって体を動かしていく。相手投手の球筋ばかりを気にするのではなくて、自分がバッターボックスでどういうタイミングの取り方をするかに立ち返る。甘いボールにたいして、反応していける準備ができていた」
迷いなくスイングしやすいカウントが打者それぞれにあって、ファーストストライクだと考えるのが大方のバッターだ。そして、ボール1やボール2、2ボール1ストライクなど打者有利なカウントも振っていきやすい。つまり、前日の敗戦や、これまで相手投手を打ち崩しきれなかった背景には、打席のなかでの勝負に迷いがあったからとも言えたのだ。
カウント勝負をいかに有利に持っていくか。
その中でコンタクトしていく必要があったわけだ。
もちろん、「カウント勝負」といっても、2ストライクに追い込まれてしまったからといって絶望になるわけではない。カウント2ストライクナッシングはフルスイングしにくいカウントではあるが、1−2、2−2、3−2と粘りながら食らいついていくと、投打の両者の腕の振りは投手有利から次第に互角になっていく。両者の心理が少しずつ変化していくところに狙い目も生まれる。
2回にも追加点を挙げた。8番會澤翼の四球から1死一、二塁のチャンスを掴むと、坂本が2ボールからの3球目をスイングして適時打にしたものだ。打者有利なカウントから振りにいき、坂本らしいスイングでの適時打だった。
投手陣もカウント作りを制圧した
一方、投手の方も、「カウント作り」は重要だ。
いかに投手有利のカウントに持ち込んでいくかで勝負は変わる。前日は初球ストライク率が下がり、痛打を浴びた。この日の先発、今永昇太は初球のストライク率がそれほど良かったわけではないが、カウントが悪くなってからのカットボールがとにかく冴えた。
ボール1、ボール2、2ボール1ストライク。
いわば、打者が迷いなくスイングしてくるカウントからカットボールやチェンジアップでカウントを整えるのがうまかった。早いカウントで投手有利を作るか、それができなくても、カットボールをコントロール良く投げて状況を打開することで打者との間合いを制していった。
4回に1番のジョーンズに一発を浴びたが、6回1安打1失点は見事なピッチングだった。
今永の後を受け継いだ7回からの救援陣は、カウント作りを完全制圧していた。
ボール先行になったケースが1度しかなく、強いボールと鋭い変化をストライクゾーンに投げ込んでいた。2番手の甲斐野央は2三振、3番手の山本由伸が3三振で、クローザーの山崎康晃は2三振を奪った。救援陣はカウントを自分たちが腕を振りやすい方へ持っていくことで圧巻の火消しを見せたのだった。
前日、建山ピッチングコーチがこんな話をしていた。
「個々の特色を前面に出してもらうことに変わりない。その中で困った時に相手の弱点をつけるピッチングができればなと」
初黒星を喫して苦しい立場にあった中、3−1の勝利は次戦以降の明るい兆しだ。
投手対打者のカウント作りを制したことが大きな勝因だった。
氏原英明