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『moon』私たちは、ゲームなんかやめて、早く寝るべきなのか?

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『moon』私たちは、ゲームなんかやめて、早く寝るべきなのか?

たった3作のゲームをリリースしたあとに解散した、異色のゲームデベロッパー“LOVEdeLIC(ラブデリック)”。そのラブデリックが手がけた初作品が、今回紹介する『moon』です。テレビゲームの世界に入り込んでしまった主人公が、傍若無人な勇者に殺されたアニマルたちを生き返らせていく“アンチRPG”という攻めたテーマは、モンスターを倒しつつレベルを上げて強大な敵を倒す王道のRPGに疑問を叩きつけました。これは、それまでに人気を博してきた多くのゲームに対する挑戦状だったのでしょうか? オリジナル版発売から22年経った今も根強いファンが存在する本作、その不思議な魅力については前回の記事でゲーム内容とともに触れました。今回は主人公がプレイしていたゲームのなかの世界“ラブデガルド”に暮らす個性豊かなキャラクターたちなどに焦点を当て、主人公が集める“ラブ”の正体についても考えてみたいと思います。記事中ではイベントの内容にも少し触れるので、完全にネタバレなしで本作を楽しみたい方はどうかご注意を。

文 / 内藤ハサミ

突き抜けたキャラクターが導く物語の本質

本作にはただ“個性的”というだけでは言葉不足に感じるほどの、一度出会ったら忘れられないキャラクターたちが多数登場します。ここでは、筆者が個人的に印象に残っているラブデガルドの住人たちをピックアップして紹介しましょう。彼らはプレイヤーに本作の主張を伝える演者です。彼らに注目することで、はっきりとした言葉で語られることのない『moon』の核心にも迫ることができます。じっくりと向き合い、彼らの超個性を味わってみてください。まずは、とある小屋のまえで出会うニッカとポッカから。ポッカは大工だったのですが、何のきっかけなのか縛られることに喜びを見出すようになり、小屋のまえに立てた杭に自らを縛り通りがかりの人に道案内をしてくれます。……ちょっと情報が多すぎる説明だったと筆者も思いますが、すべて真実なのでツッコミを入れる手をどうぞしまってください。前回の記事では住人たちにも生活のリズムがあり、働いたり寝たりという行動をゲーム内時間に合わせて実際に行っていることを書きましたが、ポッカに限っては一日中休憩もなしに縛られているようです。

▲人の目など一切気にせず、自分の道に全力投球する姿はどこか気高さすら感じさせます

▲小屋のなかには、ニッカとポッカが一緒に大工をしていた頃の写真がありました

彼にはニッカという大工の師がいます。自らを解き放ち、縛られ続ける道を選んだポッカの姿を見て、ニッカはポッカの元を去ることに決めるのです。その理由については旅立つまえのニッカ本人から聞くことができるのですが、自分には理解できない行動に悩みながらも相手を否定せず、自分の未来につなげていくニッカの潔い姿に痺れます。詳しくはゲーム内のイベントで体験すべきと思うので書きませんが、そこにはポッカへの深いリスペクトがあるのです。決して多くない彼らのセリフから、ニッカとポッカの間にある確かな愛を感じられるイベントはとても印象に残りました。ニッカは「愛ってなんだろうな?」と主人公に問います。何気なく発せられるこの言葉は、まさに主人公の使命を表しているのでしょう。このゲームは、物質的にも精神的にも“ラブ”を探す旅なのですから。
さて次は、アメリカンハウスに住んでいるダイアを紹介。彼女は、人気コミック作家の父・パパスと、家事が嫌いで娘思いの母・ママスの3人で暮らしています。ダイアは年齢のわりに大人びた考えをする子どもで、ママスからは「冷めたところがある」と言われています。

▲喋りかたも大人っぽさがあるダイア

実はスランプで新作のアイデアがずっと出ずに悩んでいるパパスや、家族に気を遣っているママスのことを敏感に察しているからこそ、ダイアは物わかりがよくて大人びた振る舞いをしているところがあるようで、なんともけなげな子供なのです。しかし、ダイアのキャラクターをひときわ強烈にしているのが、彼女のペットのペロゴンの存在。ペロゴンは、ギガーという種類のアニマルで、青い体に舌をベロンと出した姿が特徴です。ダイアはどうも、このペロゴンに男性としての魅力を感じ、真剣に恋をしているようなのです。

▲ペロゴンの魅力的なヒップを評するダイア。一日中ペロゴンのことを考えているくらい熱を上げています

ところが、ゲーム中に見ることができるアニマル図鑑でギガーのページを見ると、「オスにはトゲがない」と書いてあるではないですか。つまり、トゲのあるダイアのペロゴンは……。ダイアはこのことを知らないのかもしれません。このほかにも新作を描けないパパスの焦り、ママスの秘密、ダイアが両親へ持つ気持ちなども家族に関わっていくうちに見えてきます。明るく爽やかに見える家庭でも家族たちの考えはそれぞれで、お互いへの認識も少しずつずれているし、言っていないことだってあるという状況の絶妙な不安感。これをよくぞここまで表現できるものだと舌を巻きました。家族であってもお互いを100パーセント知ることはできないけれど、それでも確かに彼らは愛でつながっているのです。ゲーム中のイベントは、淡々と進んでいきます。アメリカンハウスで発生する一連のイベントをコンプリートしなくてもゲームのクリア自体には影響がないはずですが、個人的には本作のなかで見届けてほしいポイントのひとつです。最初に紹介したニッカも同じことを言っていました。形はさまざまで掴みどころがないもの、それがラブなのかも……。
最後に紹介するのは、MD(ムーンディスク)屋店員のバーン。理屈っぽくて、音楽のことになるとすぐムキになり早口でまくし立てる。でも実は寂しがり屋で、親友が欲しいと思っている……。いわゆる、ステロタイプなオタクの記号をさらにデフォルメしたようなキャラクターなのです。

▲MDは、平成初期に流行した“ミニディスク”をモチーフにしたのでしょう。現在ほとんどのMD機器は生産終了となり、今でも使っている人は希少だと思われます。『moon』が発売された時代の空気を感じられますね

通りすがりの主人公にイヤミな台詞で音楽の知識勝負を持ちかけてくるなど、好きなものに関しては決して負けたくない負けん気がありながら、一度心を許すとめちゃくちゃデレてくるところだったり、実はあまり上手とは言えないギターをコソコソと練習していたり……。バーンは筆者も若いころに多少覚えのある、青春のちょっと恥ずかしい部分をプレイヤーに見せつけてくるのです。もしかしてオリジナル版をリアルタイムでプレイしていたら、「いやな奴!」と疎ましく思っていたかもしれませんが、そんな時代を遠くに見る年齢となった今は、バーンにただただ愛しさを感じます。

▲バーンの曲評。クールな文体です

ちなみに、このMDショップでは実際に曲を買うことができます。買った曲はゲーム中のBGMとして好きなものを設定できる……というか、ここで曲を買わないと、おばあちゃんの家など一部の場所以外では環境音のみが流れる仕様です。お気に入りの曲を流して冒険をするか、終始無音で通すかの選択はプレイヤーに委ねられていますが、バーンの曲評はとても面白いので、筆者としては曲とともに味わってみてほしいところです。彼の音楽に対する情熱もラブですよね。
……とこんな感じで、熱く何人かのキャラクターについて語りましたが、もちろん彼らは出てくる住人たちのほんの一部。掲載しなかったキャラクターたちも、強烈で忘れられない個性の持ち主です。ただ、その個性も知っていくほどどこかシンパシーを感じたり、身近にいる人をデフォルメしたような姿だったりして、リアルに感じられることが多くありました。そんな人間臭さを凝縮させたような彼らと触れ合ううちに、「もしかして、この愛着もラブなのでは?」と筆者は思いました。しかし、目的はラブを集めることですが、このゲームが言いたいことは「さまざまな形のラブを見つけて嬉しいな」ではないはず。なぜ、このゲームのCMキャッチコピーは“もう、勇者しない”だったのか。なぜ、テーマは“アンチRPG”だったのか。なぜ、ゲームの冒頭で主人公の母親は「ゲームなんかやめて、早く寝なさい」と言うのか。業界への挑発ともとれるこれらの内容には、意味があるはずなのです。エンディングを見るまで、プレイヤーはずっと考え続けることになるでしょう。

物語は佳境へ……

エンディングに向かう鍵となるイベントをこなしていれば、すべてのラブを回収しきらなくてもクリアはできます。エンディングを見るのに難しいアクションは一切必要ありません。ラブを回収する条件はヒントが少なくかなり難しいものもありますが、操作はゲームの経験がない人にも簡単です。しかし、プレイヤーに突きつけられる最後の選択に関しては、多くの人が悩むことになるに違いありません。このゲームが何を言いたかったのか、筆者はそのときまだまだつかみきれず思ったような結果に導けませんでした。エンディングに近いセーブデータからリトライし、二度目に正しい選択をしてエンディングの映像を見たとき、全てのことに「そういうことだったのか!」と納得できました。

▲序盤からゲーム内にたびたび出てきたキーワード、“扉を開ける”とは具体的にどういうことなのか。これは中盤、主人公が見た夢のなかでのシーン

▲「…それもラブ …これもラブ」 語感の面白さがお気に入りの台詞でしたが、まさかエンディングでこの言葉を思い出し、泣くことになろうとは!

結局のところ、この作品が指し示す“ラブ”とは何だったのでしょう。単純に“勇者に倒されたアニマルたちを憐れみ、助けてあげる”ということではないと、エンディングを見るまでプレイすればおのずと判るはずです。

『moon』というゲームとは、そして“ラブ”とは何だったのか、ということをずっと大事に考え続けていくこと。他人も自分も全員がどこかしら“歪んでいる”存在だと知ること。これこそが“ラブ”を見つける道なのではないか、とプレイを終えた筆者は思うのです。22年まえに発売されたゲームの完全移植ということで、Nintendo Switch対応に最適化されているものの今風の遊びやすさではなく、イベントを発生させるためなどで“待つ”ことを求められるシーンが多々あります。テンポよく結果を受け取れるゲームに慣れた今の私たちにはまどろっこしく感じることもありますが、難しいテーマに挑み、開発者自身が悩みながらもプレイヤーと一緒に答えを探した名作なのだと筆者は言い切ります。
子供の頃にプレイした経験のある人も大人になった今、もう一度この世界を体験してみてはいかがでしょうか。あのときとは違う何かが見つかるかもしれません。このヘンテコな世界に、ヘンテコな人たちが生きている。ワタシもアナタもどこかヘンテコ。ラブデガルドのなかで奔走し、それを知ったあとにはきっとそこにラブのかけらが転がっているのではないかと思うのです。

フォトギャラリー

■タイトル:moon
■メーカー:Onion Games
■対応ハード:Nintendo Switch™
■ジャンル:Remix RPGアドベンチャー
■対象年齢:全年齢
■発売日:発売中(2019年10月10日)
■価格:ダウンロード版 1,980円(税込)
ダウンロードサイトはこちら

『moon』オフィシャルサイト

Published by Onion Games
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