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桑田佳祐が改めて歌詞と格闘していた痕跡。サザンオールスターズの5thアルバム『NUDE MAN』

エンタメステーション

桑田佳祐が改めて歌詞と格闘していた痕跡。サザンオールスターズの5thアルバム『NUDE MAN』

今年デビュー40周年を迎えたサザンオールスターズのバンド・ヒストリーを、彼らが生み出した数々の作品から改めて見つめていく。音楽評論家・小貫信昭が独自に紐解く、サザンオールスターズの魅力──。

前作『ステレオ太陽族』から1年後の1982年7月にリリースされたのが、5枚目のオリジナル・アルバム『NUDE MAN』だ。前作に引き続きシュールなジャケット・デザインであり、見た感じ、海で沐浴する男性の姿と思われる。

彼は何も身につけていない“NUDE MAN”だが、このアルバムには1分強の演奏時間のタイトル曲(10曲目に収録)があり、どうやら歌詞に関しては、「ロッキード事件」を題材にしているようだ。

あの事件に関しては、その後、様々な見解があるものの、時の最高権力者がその権威を身ぐるみ剥がされた(=“NUDE MAN”になった?)瞬間だったのは動かしようのない事実だろう。そのことも頭に入れつつ再びアルバム・タイトルに接すれば、違ったイメージで捉えることができるかもしれない。

本作は、今紹介した『NUDE MAN』を含め、サザンオールスターズが社会性あるテーマのオリジナル曲を発表し始めた作品である。その意味で忘れられないのが、原 由子がボーカルをとる「流れる雲を追いかけて」だ。『文藝春秋』2018年10月号で、彼女はこの歌に関してこう述べている。

(前略)中国残留孤児のことがすごく社会問題になっていた時にできた曲でした。桑田の父は戦前に日本から満州にわたって、戦後に帰国したんですが、もし自分の父が日本に帰ってきていなかったら自分は生まれていなかったのかな、とかいろんなことを考えて作った曲だったと思うんです。

小説家・角田光代との対談記事での発言だが、原自身もこの曲を、バンドのひとつの分岐点だったと記憶しているようだ。また、重たくなりがちなテーマも、彼女が歌うとニュートラルな響きになるというか、そこからは普遍の人間愛が伝わるのだった。

ソング・ライターである桑田佳祐は、この時期、“歌を書く”という意味において、これまで以上の興味でもって、「流れる雲を追いかけて」を書き上げた。ただ、彼のソングライティングが、ここで一気に、社会性あるものへと傾いたわけではない。『NUDE MAN』には、ほかにも様々な楽曲が収められているし、今現在、サザンオールスターズの名曲として親しまれているものも多い。

紹介するまでもなく有名なのが、「夏をあきらめて」だろう。桑田の地元の茅ヶ崎が舞台。ひと夏のアバンチュールのはずが、それを荒天が邪魔をする。だから夏の歌なのに、ギラギラ太陽、とはいかず、歌の中では〈熱めのお茶〉という小道具が、実に効いている。

ところでこの歌。避暑地を訪ねた他府県の男女が主役だろうけど、地元の人間にしか書けない描写がある。〈潮風が騒げば〉〈雨の合図〉というあたりである。この土地の気候の特徴を熟知している人間の視点だ。

新たな挑戦を感じさせるのが「逢いたさ見たさ 病める My Mind」ではなかろうか。言葉の乗せ方に挑戦が伺える。一音一文字のごとく“よ・ご・と・か・の・じょ・の”、“な・み・だ・な・が・ら・に”とスタッカートを効かせて歌っていく。母音を伸ばして歌う場面はこのコーラスの終わりの“No no no”の最後の“no”まで訪れない。

そこで思い出したのが、この時期、改めて桑田が歌詞と格闘していたという事実だ。何度も参考にして恐縮だが、『ロックの子』(153ページ / 講談社文庫 刊)の中で、洋楽に影響されつつ作曲し、そこに日本語で詞を書く際の弱点として、「いちばんケツに母音を持ってくると、なんか弱くて」と発言しているのだ。もしかして「逢いたさ見たさ 病める My Mind」の言葉の乗せ方は、それを回避するための方策だったかもしれない。「来いなジャマイカ」には、韻の踏み方で様々な工夫が伺える。頭韻と脚韻の合わせ技であり、語尾を“tion”で揃える試みのみならず、〈マーレイさん〉〈マイタイで〉〈Night & Day〉といった頭韻もある。

さらに桑田は、いっそ母国語を離れ、全編英語詞というトライもしている。ラストの「Just A Little Bit」である。しかし現在、我々が聴けるものは英語と日本語が混ざったスタイルである。いったん英語で完成させたものの、最終的にはこの形にしたのだ。ただ、この経緯を知ってから「Just A Little Bit」を聴いても、英語と日本語が違和感なく同居していることに気づく。最初に書いた英語詞の一部を日本語化しただけでは得られない広がりが伝わるのである。

文 / 小貫信昭

リリース情報

サザンオールスターズ
ALBUM『NUDE MAN』

1982年7月21日発売
VICL-63305 ¥2,381(税別)
ALBUM『NUDE MAN』 その他のサザンオールスターズの作品はこちら

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