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緊張感漲る実際の精神科病棟の中で――映画「閉鎖病棟―それぞれの朝―」 平山秀幸監督インタビュー 全2回【後編】

キネマ旬報WEB

死刑執行が失敗して生きながらえている男
幻聴に苦しむ元サラリーマン
DVを受ける女子高生……
精神科病棟を舞台に、居場所をなくした人々が、
出会い、癒され、自らの人生へ旅立っていく人間ドラマを
やさしく描き出す渾身の一作
作品が生まれるまでの様々なエピソードを平山秀幸監督に語っていただいた。(全2回【後編】)

「ものを作る」エネルギーに年齢の差は関係ない

――本作のスタッフは平山一家勢揃いという感じですが、俳優さんはむしろ初めての方が多く、平山組常連は綾田俊樹さん、外波山文明さんくらいですね。

平山 初めての人が多いのは新鮮でしたね。

――時折見せる鶴瓶さんの笑顔が絶品でした。

平山 鶴瓶さんは、例えば、コミカルなシーンでも、表情を作ったり、具体的にコミカルなことをしなくても存在だけでそういうことが表現できる方です。逆に笑った顔に怖い音楽をかけたらホラーにもなる(笑)。その存在感はすごいと思います。いちいちこんな風にやってくださいなんて言わなくても、ちゃんと心得てやってくれる安心感がありました。

――綾野剛、小松菜奈のご両人も、鶴瓶さんの圧倒的存在感に拮抗する力を発揮していい味を出されていたように感じました。まずチュウさん役の綾野さんはいかがでしたか?

平山 原作ではチュウさんは還暦くらいの年齢なんです。映画ができてみたら皆「あっ、チュウさんがいた!」と。見事な綾野剛のチュウさんがいました。

――由紀役の小松菜奈さんは?

平山 小松さんは、年齢的にいうと僕からすると完璧に〝宇宙人〟なのです(笑)。由紀は10代の設定、彼女の実年齢は撮影時22歳でしたから、会話も通じないだろうし、彼女のことが理解できるだろうかと心配しながら入ったんですが、しっかり〝地球人〟でした(笑)。

――うまくコミュニケーションとられている感じは画面からも伝わってきます。

平山 〝ものを作る〟エネルギーをしっかり持っていて、若い俳優さんに「女優さん」と言うのをためらうことが多いのですが、この先、モノ凄く楽しみな「女優さん」です。

――小林聡美さんの婦長さんが印象的ですね。

平山 みなさん、ルイーズ・フレッチャー(「カッコーの巣の上で」1975)を思い出すと言われるんですが(笑)、出番少ないんだけど凛としていていいなあと思いました。「患者さんにやさしくしないでね」とは言いました。撮影したあの病院で一番使ってはいけないのは「大丈夫ですよ」という言葉だそうです。

――なぜ言ってはいけないのですか?

平山 例えば重度の入院患者につい「大丈夫だよ」とか言いがちじゃないですか。でも、気休めめいたことは一切言わない。そういうところはかなりハードボイルドな病院でしたね。

――実際に稼働している独立行政法人国立病院機構小諸高原病院の精神科病棟でロケをされたんですね。

平山 それが大きな力になりました。緊張感が並みじゃなかった。別の病棟には現実の患者さんがいらっしゃるのですから。「監督、よーい、スタートの掛け声は小さい声でね」なんてことも言われましたし、実際に患者さんとすれ違っても特別に意識をしないでくださいと注意されました。それは撮影のルールとして示されていたんです。

――実際にそういう病院で撮影すると、映像に反映される空気感が違いますか?

平山 間違いなく違います。セットだったら確実に別のものになったと思います。

「自己犠牲」という言葉を今は使いたくない

――今までと演出方法を変えた部分はありますか?

平山 今回、初めて脚本(ホン)読みをやりました。昨年暮れに患者さん役の人に集まってもらい、台本の中で言うと、重宗(渋川清彦)が暴れたあとに「あいつは何者だ」とか語り合うシーンをやってみたんです。精神科病院の先生にも来ていただき見てもらったんですが、こちらから指示せず自由にやってもらったんです。そうしたらみんな間を取りながら演じるんです。ワンシーンがとんでもなく長くなって頭を抱えたなぁ…。そういうところからスタートしました。

――それと、その重宗が病院内で暴虐を重ねるんですが、覚醒剤中毒で犯罪を重ねてきた彼がなぜこういう病院にいるのかを、原作では精神鑑定でひっかかって罪に問えず病院送りにされたということの説明がありましたが、映画ではなかったですね。

平山 実際に、そういう人専用の病棟があるのですが、映画の長さも含め、あまり複雑にしない方がいいなと思いました。重宗のような人物像を徹底的に掘り下げる作品は面白そうですが…。こうした施設には「カッコーの巣の上で」(1975)や「まぼろしの市街戦」(67)のようなイメージがあるのかしれません。常に檻の中に閉じ込められているのではと思っている方が多いのですが、違います。そうではありませんでした。

――主人公の秀丸さんには、死刑執行が失敗して生きながらえている背景がありますが、そういうことは実際にあり得るんですか?

平山 いろいろ調べました。実際に死刑執行が失敗したのは今までに2件あって、そのうちの1件は四国の愛媛県ですが、その時は一度執行されたということで無罪放免になったんです。大阪の刑務所にいた副看守長をやった方に取材するチャンスがあり、訊きましたら、「現在では絶対ないです。今のシステムの中で死刑が失敗することはあり得ない」と。あれは首の骨を折るんです。「もしあったら?」としつこく聞いたら、「国家は生かしておきません」と言われました。その言葉がとても怖かったです。

――本誌の撮影ルポ(7月下旬号)で語られていましたが、確かにクリント・イーストウッド監督の名作「グラン・トリノ」(2008)を想起します。そこで〝自己犠牲〟という言葉を使われていますが、この映画のキーワードは〝自己犠牲〟ですか。

平山 「グラン・トリノ」は主人公の老人がモン族の少年と姉を救うために命を投げ出すということを乾いたタッチで描いていますが、本当は自分の為の行為だったのではないでしょうか。「自己犠牲」と言う言葉が独り歩きしてしまっている気がします。

――「グラン・トリノ」は、当時イーストウッドの遺言と言われ、あとに生きる者への最後のメッセージとまで言われましたが、平山監督にもそういう思いはありますか?

平山 ない、ない。ないですよ(笑)。

 平山監督とは2016年に『呑むか撮るか 平山秀幸映画屋(カツドウヤ)街道』(ワイズ出版)という本を出した。今回はあのインタビュー本の延長のような感じでやらせていただいた。

平山監督の最新作「閉鎖病棟―それぞれの朝―」には、今を生きる人々への力強い励ましが込められ、清冽で濃厚な残像を残す逸品となったが、決して声高に叫んだりせず、押しつけがましくもない。これこそが、職人監督として長年第一線で撮り続けてきた平山監督の矜持だと思えるのだ。

取材・文=鈴村たけし/制作=キネマ旬報社

 

平山秀幸(ひらやま・ひでゆき)

1950年生まれ、福岡県出身。1990年「マリアの胃袋」で監督デビュー。主な作品に「ザ・中学教師」(1992)、「学校の怪談」シリーズ(1995・1996・1999)、「愛を乞うひと」(1998/キネマ旬報ベスト。テン監督賞受賞)、「笑う蛙」(2002)、「ОUT」(2002)、「レディ・ジョーカー」(2004)、「しゃべれども しゃべれども」(2007)、「必死剣鳥刺し」(2010)、「エヴェレスト 神々の山嶺」(2016)など多数。

映画「閉鎖病棟―それぞれの朝―」

2019年・日本・1時間57分 監督・脚本:平山秀幸 原作:帚木蓬生 撮影:柴崎幸三 照明:上田なりゆき 美術:中澤克巳 録音:小松将人 編集:洲崎千恵子 音楽=安川午朗

出演:笑福亭鶴瓶、綾野剛、小松菜奈、坂東龍汰、平岩紙、綾田俊樹、森下能幸、水澤紳吾、駒木根隆介、大窪人衛、北村早樹子、大方斐紗子、村木仁、片岡礼子、山中崇、根岸季衣、ベンガル、高橋和也、木野花、渋川清彦、小林聡美 配東映
◎全国にて公開中
(C)2019「閉鎖病棟」製作委員会

 

 

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