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【田崎健太×村瀬秀信対談】 ノンフィクションの書き手がプロ野球ドラフトをテーマに語り尽くす

ベースボールチャンネル

ノンフィクションには書き手の生き様が反映される

田崎健太(以下田崎) 村瀬さんは、ドラフトのどこに興味を持っていますか?
 
村瀬秀信(以下村瀬) 理不尽というか、おかしいじゃないですか。人に、「お前は1位だ」「お前は何位だ」って、順番をつけられる。
 
田崎 「ドラヨン」の中で、ぼくは〈ドラフトとは、ある時点で若者に順位をつけることだ〉と書きました。そのつけられた順位の中でも、今回の本で「最下位」を選んだというのが村瀬さんらしいなと思ったんですよね。
 
村瀬 王道を歩んできた人生よりも、一番下から這い上がろうと志向する人生が気になってしまうんです。
 
田崎 正統派ではないかもしれないですけれど、そこが面白い。何をテーマに選ぶかって、書き手の生き様が反映されるじゃないですか。例えば僕たち書き手にもドラフト順位があるとしたら、例えば、新聞社や出版社を辞めた段階から期待されて、連載だったり、大きな記事を任される人は「ドラフト一位」みたいなものです。
 
村瀬 そういう意味で僕は正統派ではない、いわば最下位からのスタートです(笑) 
僕のキャリアのスタートは、この『ドラフト最下位』を出した出版社KADOKAWAのくらーい地下室で郵便物を仕分けるアルバイトですからね。
 
田崎 ええっ、最下位のスタートがそこ!? 地下から這い上がったんですね。
 
村瀬 這い上がったかどうかはわからないですが、アルバイトをしていた時に、求人誌にライター募集の広告があるのを見つけて応募して、編集プロダクションの「デストロン」にドラフト1位で入社しました(笑) でも本当にまさに最下位のショッカー的な戦闘員からのライター人生スタートだったと思います。田崎さんは正統派ですよね?
 
田崎 正統派かどうかは別にして、小学館という出版社を辞めて、物書きの世界に入った。その後、割とすんなり単行本を出したりしているので、順位でいうと、まさに「ドラヨン」くらいじゃないでしょうか。
 

ドラフト順位にあらわれる人間のドラマ

村瀬 田崎さんは取材対象のジャンルが広いじゃないですか。サッカー、野球、芸能、プロレス……。そんなにたくさんあるなかでドラフトをテーマに選んだ理由は何だったんですか?
 
田崎 実はこの「“ドラ”シリーズ」は、ずっと前から書きたかったテーマだったんです。僕の場合、サッカーやプロレスのイメージが強いかもしれませんが、子どもの頃から自分でやるのはサッカー、観るのは野球。(地元京都の)西京極(球場)や西宮球場に試合を見に行っていました。ドラフトは一年に一度のお祭りじゃないですか。毎年、楽しみにしてましたね。それで当時、「拒否」っていうのがあったのを覚えてますか?
 
村瀬 ありました。頻繁にありましたね。
 
田崎 あれが、子供心にすごく面白くて。
 
村瀬 拒否はドラマがあって、面白かったですね。
 
田崎 球団によっては拒否ばかりされていたりして、僕なんかは「指名された球団に入ってもいいんじゃないかな」と思うんだけど、「辞めた後を考えれば巨人がいいんだ」としたり顔で解説する大人がいたり。その後も、年度ごとのドラフト指名選手の表を眺めているのが好きでした。この選手は成功、この選手は失敗、でも移籍して活躍しているとか、数字から人生が見えてくるような気がして面白かったですね。
ずいぶん以前から「ドラフトをテーマに書きたい」と言ってはいたんですが、他の企画が通っても、ドラフト関係についてはスルーされていた。ようやく実現したのがこのシリーズです。

取材で感じた4位と最下位の差

村瀬 そしてこれまで『ドライチ』『ドラガイ』ときて、次が『ドラヨン』。そこに来るのか! と、うなるような思いでした。
 
田崎 これも前から狙っていたんです。『ドライチ』を出した後に、次を『ドラガイ』にするか『ドラヨン』にするか悩みました。順番を考えて、結局先に『ドラガイ』を出したんですが、ドラフト4位指名選手で活躍している方ってたくさんいるなと。でも、取材を始めてみると、ドラフト4位という順位に複雑な思いを抱えている選手も多いということがわかりました。取材を受けてくださった方は皆さんポジティブにとらえていたんですが、本にも書いたように取材を受けてもらえなかった方もいて、想像していた以上に大変でした。
 
村瀬 4位ですら屈辱という感じがあるんですか?
 
田崎 ドラフトに指名されるような選手はみんな自分の力量に自信がある。それなのに上位とされる3位以内に入れなかったことは屈辱、人生の染みのようなものなのかもしれません。そういう意味で、「ドラヨン」と「最下位指名選手」との間には、実は数字よりももっと大きな差があるのかもしれません。
 
村瀬 最下位指名の選手たちの中には、「自分がドラフトにかかるとは思っていなかった」という人もいますからね。プロに入った後で、またそこに大きな壁があるんでしょうね。
例えば『ドラフト最下位』で取り上げた高橋顕法さんなんて、高校時代一度も登板してないでドラフトにかかってます。
 
田崎 そういう人の取材って大変じゃないですか? 取材もそうですけれど、無名の選手をどう描くかは腕が問われる。
 
村瀬 そうですね。みんなが知らない選手を取り上げるというのは、イチから説明しなきゃいけないという意味での大変さはありますが、逆に掘られていない分、自由に構築できるというやりがいはありましたね。
 

野球が好きですか?

田崎 村瀬さんって野球がやっぱり本当に好きなんですか?
 
村瀬 どうですかね……田崎さんはどうですか?
 
田崎 僕は好きかどうかよりも、全ての事象を「作品になるか、どうか」「この人をこう書いたら面白いんじゃないか」でという目でみている。本当に純粋にファンとして追いかけているのは、MOTOGP(オートバイレース)くらいかもしれません。
 
村瀬 僕は……“ベイスターズを嫌いになれたらどれだけ楽だろう”って……。
 
田崎 えぇっ(笑)!?
 
村瀬 もう、ダメなんです。あの球団に関しては僕の中でベースボールなジャーナリズムは死に絶えています。冷静な第三者の視点とか考えても、ぐわぁぁってなるんですよ。『4522敗の記憶』を書いたときには、これを書いてもう横浜の仕事を一切やめようと思ったんです。横浜への遺書にしようと思って。でもなんやかんやでやめられない。結局仕事も、ファンも続けています。
 
田崎 『4522敗の記憶』、愛情が詰まってましたもんね。ただ、焦点を当てているのは「負けた数」です。村瀬さんのベクトルが下に下に向かうのが面白いです。私的ノンフィクションというか、純文学の私小説、太宰(治)の系譜にあるといってもいい(笑)
 
村瀬 太宰!? 『すぐ自殺しそう』という意味ならわかりますけど……ありがとうございます。

ふたりが紡ぐこれからのノンフィクション

村瀬 この「“ドラ”シリーズ」、次は構想されているんですか?
 
田崎 続けていくつもりです。2位に興味があります。あるいはまた「ドライチ」をやるかもしれません。村瀬さんは、次回作の構想はありますか?
 
村瀬 あります……けど、やっぱり勝てない人の話ですね。
 
田崎 やっぱり村瀬さんだ(笑)! 興味の対象が下に向かってますよ。
 
村瀬 本当ですよね。田崎さんの興味の対象は?
 
田崎 僕は村瀬さんと対照的で、ヤクザの喧嘩じゃないですけれど、「頭」を取ることを意識してます。FIFA(国際サッカー連盟)を取材しようとしたときは、会長だったアベランジェに会いに行きました。長州力さんや初代タイガーマスクの佐山サトルさんも、「頭」ですよね。小学館を辞めたばかりのころ、得意分野は何か、とか、スポーツライターを名乗った方が仕事が増えるんじゃ、とか良く言われました。でも、取材対象は自分の作家性と関わってくる。どうして「○○ライター」という枠に閉じ込めるのかなと思っていました。ジャンルにはとらわれず、僕は自分が面白いと思うことを追求していきたいです。
 
村瀬 王道、というのとも違うのかもしれません。独立した、田崎さんというジャンルですよね。
 
田崎 そうありたいと思っていますね。
 
 
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おふたりが書かれたドラフト本はこちら。
読んで視点の違い、書き方の違いを比べてみるのも面白そうです。
 

 
『ドラヨン』
 
https://www.amazon.co.jp/dp/4862555292
 

 
 
『ドラフト最下位』村瀬秀信(KADOKAWA)
 
https://www.kadokawa.co.jp/product/321905000086/
 

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