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ヤクルト2017年ドラフト1位、村上宗隆。肥後のベーブ・ルースは打って走れる大型捕手(1)/野球太郎ストーリーズ

野球太郎

◎もうひとりの怪物  2年前の夏に甲子園を沸かせた「もうひとりの怪物1年生」が、まさかの3球団競合によるドラフト1位指名を受けた。

 九州学院・村上宗隆、捕手。高校通算52本塁打のパンチ力に加え、二塁送球1.84秒の強肩と187センチ、95キロという大きな体を苦とせず50メートルを6秒1で駆ける俊足の持ち主だ。「長打のある左打ちの捕手」という点では阿部慎之助(巨人)と通ずるところはあるが、村上には阿部や他の捕手が持ち合わせていないスピードがある。底が見えない将来性という点で、村上は中村奨成(広陵→広島1位)に勝るとも劣らぬ逸材といっていい。

 入学後すぐに強打線を誇る九州学院の4番を任され、4月末の九州大会で初打席適時打を放つと、5月に行なわれた早稲田実との練習試合では清宮幸太郎(日本ハム1位)に見せつけるかのような特大の高校1号を放ち、清宮の高校第4号を誘発する。この東西怪物によるアーチ合戦が話題を呼んだことから村上は「肥後のベーブ・ルース」という異名を戴き、甲子園でも特集番組で取り上げられるなど大きな注目を集める存在となったのだった。

 ところが、村上は2年前のその甲子園を最後に突如として表舞台から姿を消している。鍛治舍巧監督率いる秀岳館が瞬く間に全国屈指の強豪に登り詰めていく一方で、村上は完全に熊本の主役を奪われてしまうのである。

 2年夏の決勝は九鬼隆平(ソフトバンク)、松尾大河(DeNA)らを擁する秀岳館に力負け。3年夏も秀岳館の田浦文丸(ソフトバンク5位)、川端健斗の2枚看板に抑えられ、またもや決勝で涙を呑んだ。入学後は熊本県内の公式戦3大大会(春夏秋)でわずか5敗しかしていない村上だが、そのうちの4敗が秀岳館に喫したものだった。今夏まで4季連続で甲子園に出場し、今春のセンバツまで3季連続ベスト4入りを果たした秀岳館は、まさに「目の上のたんこぶ」だった。

「正直、どうして自分の高校3年間がこの代にはまってしまったのだろうと思っていました」

◎捕手へのコンバート

 熊本東シニアに所属した中学時代には、九州選抜に名を連ねたこともある。長崎シニアの増田珠(横浜→ソフトバンク3位)、熊本北シニアの西浦颯大(明徳義塾→オリックス6位)ら豪華な顔ぶれが並んだがメンバーの中で、強打のポイントゲッターとして3番を任されていたのが村上だった。4番で主将の増田とともに九州打線をけん引し、チーム内では増田に次ぐ高打率を残している。

「みんな甲子園で大活躍しましたからね。自分はたった1回の出場で無安打です。増田や西浦、何かと比較された清宮との勝負は、熊本で秀岳館を倒して甲子園に行ってからだと思っています」

 こう語っていたのは、高校2年のシーズンが終了して間もない頃だった。この時点で村上は32本塁打で「何かと比較された」清宮は倍以上の78本塁打(当時)を記録していた。大きく水を開けられてしまったことについては「キャッチャーとしてやるべきことを第一に考えているので、本数はそれほど気にしていません」と言い放っている。

 高校1年の甲子園の後、村上は捕手に転向した。中学時代に捕手の経験はあるが、中学と高校では投手のレベルがまったく違う。ストレートのスピード、変化球のキレ。これらに対してしっかりと音を立てて捕球することに苦労したと村上は語っていた。

 ここで参考としたのが、他でもないライバル秀岳館の司令塔・九鬼だった。試合前にチェックする映像や試合中のベンチから、九鬼の捕球姿勢、配球、間の取り方をじっくりと観察し続けていたのだという。

「一流のキャッチャーが身近にいるのだから、見ない手はない。感じることはたくさんありましたよ。一番はチームの大黒柱としての、存在感の大きさですよね。九鬼さんはどちらかというとピッチャーのよさを引き出すタイプのキャッチャー。だからピッチャーが安心しきっているんです。やっぱりすごいキャッチャーでした」

◎もうひとりの捕手コーチ

 捕球技術を上げるべく、村上は股関節の柔軟性を高めた。コーチ役を買って出てくれたのは、九州学院OBで捕手として3度の甲子園出場がある坂井宏志朗氏(現佐久長聖コーチ)だった。坂井氏は高校を卒業後、亜細亜大でプレーしていたが、休暇で帰省するたびにつきっきりで後輩捕手の指導にあたった。ちなみに坂井氏の父・宏安氏が九州学院の監督である。「股関節まわりを柔らかくすることで捕手スキル全体が向上しました。送球も安定感が増してシュート回転が少なくなったし、何よりも変化球に対する捕球ミスが少なくなってきましたね。追い込んでからも『どんとこい!』という気持ちでワンバウンドの変化球を要求できようになってきたので」

 3年春の試合解禁を迎えると、冬に取り組んだ捕手練習の成果はあらゆるところで表面化した。

 送球、捕球面はもちろん、試合中は以前にも増して投手に歩み寄り、声を掛ける姿が目につくようになった。かわす配球から投手の特徴を引き出す強気のリードに変化してきたようにも感じた。守備面を課題と見ていたスカウト陣からも「キャッチャーとしての守備力が向上している」という声が聞かれるようになったのも、ちょうどこの頃だった。

次回、「最後の夏」

(※本稿は2017年11月発売『野球太郎No.025 2017ドラフト総決算&2018大展望号』に掲載された「28選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・加来慶祐氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)

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