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「地域映画」は、本当に地域のためになるのか?

キネマ旬報WEB

「地域映画」は、本当に地域のためになるのか?

「夏、至るころ」クランク・イン
右から、実行委員会会長・山﨑拓也、田川市長・二場公人、映画24区プロデューサー・三谷一夫、池田エライザ監督、俳優の倉悠貴、石内呂依、大塚まさじ

女優の池田エライザが今夏、地元の福岡県に戻り、田川市で映画「夏、至るころ」を監督したニュースは、映画ファンを驚かせた。超多忙である女優が初監督を務めることはもちろん、九州出身のリリー・フランキー高良健吾など有名俳優が続々出演したからだ。楽しみという声があがる一方、本当に池田エライザが監督するのか? という懐疑的な声もあった。そこで、「夏、至るころ」の製作会社であり、地域とともに映画を作る『ぼくらのレシピ図鑑シリーズ』をプロデュースする映画24区を訪ね、実際のところをうかがった。「夏、至るころ」が製作された経緯や、映画撮影のこと、そもそも「地域映画」って何? というところから解き明かしたい。

取材・文=関口裕子

大ヒット映画のロケ地が観光客を呼んだ

映画は、簡単に作ることができるもの。どうやら、そう思われることが多いようだ。そのせいか地域振興のプロジェクトとして、地域で製作され、発信される映画が増えている。でも何年経っても、「完成した映画を上映するところがない」「市民のほとんどが完成した映画の存在を知らない」「地域映画プロジェクトのノウハウが受け継がれない」など完成後の不満はなくならない。特に「地域振興になっていない」という意見が出るに至っては、なんのために作ったのかさえ分からない。

確かに映画は、その地域の魅力を雄弁に語り続けるツールとなることも多い。

高倉健主演の「鉄道員(ぽっぽや)」(99)は、運行中のJR根室本線の無人駅「幾寅」のホームと駅舎、駅前広場を、ロケセットとして使用した。セットや小道具は、現在もそのまま残されており、休線になった現在も観光拠点になっている。

世界の中心で、愛をさけぶ」(04)では、撮影が行われた香川県高松市の堤防や写真館、島などを見に、多くのファンが訪れた。

君の名は。」(16)では、“聖地”として岐阜県飛騨古川や高山のロケーションを訪ねる観光客が増え、組紐など伝統工芸品も注目された。

どれも大ヒットし、多くの人に観られたことで効果をあげた成功例だ。地域振興という発想から始まったプロジェクトではなく、エモーショナルな内容がそのロケ地へと、観客の足を運ばせた。だが、地域発ではないため、「世界の中心で、愛をさけぶ」などは、映画の要素を使用する権利が地域になくロケセットを保存できなかった。つまり、地域振興にプラスとなる、さらなるスキームを構築するまでには至らなかったといえる。

「あの花」「ここさけ」「空青」の成功

フジテレビのノイタミナ枠で放送されたアニメーション『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(11)、「劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(13)は少し異なる。舞台となった秩父と東京をつなぐ西武鉄道、また秩父市観光課が中心となって組織した秩父アニメツーリズム実行委員会が作品とコラボし、約8万人の観光客から約3億2千万円の収益をあげ、経済的な観点から地域振興を成功させた。その効果は、「心が叫びたがってるんだ。」(15)、最新作「空の青さを知る人よ」(19)の3部作へとつながる。ここまで軽やかな企業や行政のフットワークは、あまり前例がなく、この状況について論文が書かれたほどだ。

しかし、これらは、たまたまうまくいったともいえる成功例。なぜうまくいかないのか。それは、映画を作るのはプロのスタッフであっても、受け入れる地域の側に知識がない、また目標点の設定がないからだ。そのため、作る時はお祭り騒ぎでも、完成後、誰もが口に出したくないお荷物になってしまうことも多い。

そうしないためには、ノウハウがいる。

地域が主役となって映画を作る

「36.8℃ サンジュウロクドハチブ」

そのノウハウを研究し、パッケージ化したのが、『ぼくらのレシピ図鑑シリーズ』だ。映画24区・代表の三谷一夫さんが考案した。

地域×食×高校生で構成されるこのシリーズ第1弾は2017年、兵庫県加古川市を舞台に、安田真奈監督の「36.8℃ サンジュウロクドハチブ」が製作された。関西を中心にお披露目されたあと、翌年には東京など全国7カ所で公開もされている。第2弾が池田エライザ監督の福岡県田川市を舞台にした「夏、至るころ」なわけだが、全国公開はもちろん、海外映画祭にも出品していきたいと意欲を見せる。

三谷氏は語る。「『ぼくらのレシピ図鑑シリーズ』のカギは“映画づくり”よりも“人づくり”なんですね。映画撮影も大切ですが、その前後がとても大事です。撮影前に地域でワークショップを丁寧に実施することや、人に見られて初めて映画になるわけですから、観客のことまで視野に入れないといけません。田川市でも、池田エライザさんは、ワークショップや地元でのオーディションに参加しました。“人づくり”のはじめの人は、“地域プロデュ―サー”なんです。『ぼくらのレシピ図鑑シリーズ』を使いこなしてやろうという、地域の知識と少し映画の知識をもっている人です。そこから地域に根ざしたオリジナルの脚本開発へと進みます。そのノウハウって、そんなに難しいものではなく、映画業界ではない人もチャレンジできると思うんです」

映画24区では、地域プロデューサーと脚本開発の講座を11月2日より開催する。地域振興映画の可能性を探る、または製作するという命題を得た、本気のフィルムコミッション担当者、観光課の担当者にこそ参加していただきたいワークショップだという。

地域映画には、いったい何が必要なのか。そして、映画を製作しただけで終わりではなく、映画として羽ばたくためにはどうすればよいのか。この連載では、『ぼくらのレシピ図鑑シリーズ』を生み出した三谷一夫プロデューサー、映画を製作した安田真奈監督、“地域プロデューサー”となった兵庫県加古川市の松本ゆういち氏と、田川市フィルムコミッションの有田匡広氏、「夏、至るころ」のスタッフにもお話をうかがっていく。


●ぼくらのレシピ図鑑シリーズ
http://bokureci.eiga24ku.jp/

●映画『ぼくらのレシピ図鑑シリーズ』で学ぶ
【地域プロデューサー術クラス】と【脚本術クラス】開催

★講座(全5回)11月2日(土)より毎週土曜日
http://eiga24ku-training.jp/news/20190909_237.html

★説明会実施 10月8日(火) 15:00~16:00/10月22日(火・祝)18:00~19:00
http://eiga24ku-training.jp/visit/

●お問合せ
株式会社映画24区
TEL 03-3497-8824
MAIL http://eiga24ku-training.jp/contact/

制作:キネマ旬報社

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