日本にものづくり精神が根付いたのは日本人が宗教家だから? ハーバード大学教授らが解き明かす「新たな日本人像」

日本にものづくり精神が根付いたのは日本人が宗教家だから? ハーバード大学教授らが解き明かす「新たな日本人像」
『ハーバードの日本人論』(佐藤智恵/中央公論新社)の冒頭の一文がとても目を引く。たしかにテレビでは「外国人は日本をどう見ているのか?」という趣旨の番組がいくつもあるし、国内で大きな出来事があれば「海外の反応」をまとめた報道が流れるし、様々な媒体で定期的に日本人のルーツを辿る企画を目にするし…。日本人は、日本人が大好きなようだ。
『ハーバードの日本人論』(佐藤智恵/中央公論新社)

日本人ほど「日本人論」が好きな国民はいない。

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『ハーバードの日本人論』(佐藤智恵/中央公論新社)の冒頭の一文がとても目を引く。たしかにテレビでは「外国人は日本をどう見ているのか?」という趣旨の番組がいくつもあるし、国内で大きな出来事があれば「海外の反応」をまとめた報道が流れるし、様々な媒体で定期的に日本人のルーツを辿る企画を目にするし…。日本人は、日本人が大好きなようだ。

 また日本には他の国にない特徴がある。日本はずっと不景気だが、同時になかなか企業が倒産しない世界一の長寿企業大国でもある。2018年のサッカーワールドカップでは、日本人選手とサポーターの清掃行為が世界中を驚かせた。

 このほかにも日本人はなぜ細部にこだわるのか、なぜ世襲が好きなのか、なぜ義理を重んじ周りの目を気にするのか、日本人たらしめる特徴がいくつも見え隠れする。日本人とはいったいどんな人物なのだろう。本書は、ハーバード大学の教授陣にその答えを求めた。社会学や宗教史、日本文学など、10人の専門家たちから見た「新たな日本人像」に迫っている。

■日本人はなぜ「場」を重んじるのか?

 そもそも場という概念は、東京大学の中根千枝名誉教授の著書『タテ社会の人間関係』で広く知られるようになった。日本人は集団組織とタテのつながりを重視し、個人の持つ資質よりも、その個人がどの「場」に所属しているかを見て、人を評価する傾向にある、と中根教授は指摘する。

 ではなぜ日本人はこれほど場を重んじるのか。ハーバード大学で社会学を専門とするメアリー・C・ブリントン教授は、「日本人は他者に対する警戒心が強いから」と本書で見解を述べる。日本人はアメリカ人に比べて「自分がよく知っている人」「同じグループに所属する人」を信頼し、グループの外にいる人を信頼しない傾向にあるのだ。

 さらに歴史的要因もある。戦後の復興期、若者が職を得るためには、国や学校などからの求人情報に頼るしかなかった。なにより会社に忠誠を誓うことで、会社は雇用を保障し、社宅、社食、制服を提供してきた。日本人の就職活動や経済的な安定に、「場」が大きな役割を果たしてきたのだ。

■日本人はなぜ周りの目を気にするのか?

 驚くべきことにハーバード大学の数ある授業の中で、「サムライから学ぶ人生論」がとても学生に人気なのだそうだ。その講師であるデイヴィッド・C・アサートン助教授は、本書で武士の「忠誠」に注目している。

 日本に武士が誕生して以来、彼らの忠誠心は時代と共に変遷してきた。忠誠を誓うことが美徳ではなかった平安時代の武士は、主君を裏切ってばかりだった。それから時代が流れ、織田信長を裏切った明智光秀に象徴される戦国時代が始まると、戦国大名は家臣に「忠義」を徹底した。家臣による下剋上を恐れたのだ。

 主君が家臣に忠誠心を強いる戦乱の時代が流れ、徳川家が日本を治める江戸時代になると、大きな騒乱が起きない代わりに、武士の戦う機会そのものが減った。そこで改められたのが「武士の役割」であり、「武士の第一の義務は忠義である」という考え方が定着する。特に江戸時代の武士には「常に周りに見られている」という意識や、「武士として世間に正しい行動を示さなくてはならない」という生き方が重んじられた。

 この考え方は明治時代になって、日本の国力を大きくするために明治政府が利用することになる。江戸時代の武士が主君に心身を尽くしたように、国民が日本のために身を粉にして働くよう、政府が「武士の忠義」を当時の国民に浸透させたのだ。これが現在の日本人のアイデンティティーとなる。

 日本人が周りの目や義理を重んじる傾向にあるのは、こういった武士の歴史を受け継いでいるからだ。刀を持たなくなった現代の日本人には、今も武士の心が脈々と流れているのである。

 場を重んじること。周囲の目を気にすること。これらは本書で2人の教授が別々に語っていることだが、両者に共通点を見つけることができる。なにより私たち日本人としての特徴を最も感じる部分だ。読んでいてどこか誇らしくなるのは、きっと私だけじゃないだろう。

■日本人はなぜものづくりを尊ぶのか?

 本書より最後にもう1つだけ、ジェームズ・ロブソン教授が説く宗教史をご紹介したい。日本人の大半は「私は無宗教だ」と思っている。しかし欧米の学者たちが日本を訪れると「とても宗教的な国だ!」と驚くのだそうだ。家の中には神棚と仏壇があり線香をあげてお祈りし、正月や七五三には神社に行き、誰かが亡くなれば仏式で葬式を行う。日本人の生活の至る所に宗教が自然と溶け込んでいるのだ。

 なにより私たちの生活に宗教が根差していることこそが、ものづくり精神を生み出してきた。ものづくりの起源は、自然の中にある素材で仏事や神事に使う器具を作ったこと。私たちは「ものには魂が宿る」と考え大切に扱い、使い終わった道具を供養する風習がある。日本人にとってものづくりは宗教的な儀式の一部であり、古くから受け継がれてきたアイデンティティーそのもの。一昔前、日本製品が世界中を席巻したのは、日本人の生活に宗教が自然と溶け込んでいたからといっても過言ではないだろう。

 このほかロブソン教授は、日本企業が神仏を敬う4つの理由、日本人経営者ができるだけ会社を存続させようとする日本的な考え方、私たちの生活に清掃が深く根付く神道の影響など、日本人と宗教の密接な関係に迫っている。

 本書を読んで強く感じるのは、私たちが日本人論にとても興味を引かれる理由は、日本人が日本人をとても誇らしく思っているからではないかということ。場を重んじ、周りの目を気にして、宗教によって自身を常に律してきた私たちは、それだけ毎日の行いに強い自信があるのかもしれない。

 とにかく本書を読むと、ハーバード大学という世界最高峰の知性が解き明かす日本人論を目にできる。普段の生活では意識しない「日本人たる特徴」をいくつも知れるので、日本人が好きな人は手に取って間違いないはずだ。

文=いのうえゆきひろ

更新日:2019年8月13日
提供元:ダ・ヴィンチNEWS

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