朝井リョウ | 「専業」の現実、「虚業」の重圧

朝井リョウ | 「専業」の現実、「虚業」の重圧
13年、SNS世代の就活の裏側で繰り広げられる心理戦を抉った『何者』で、弱冠23歳の直木賞作家となった朝井リョウさん。大学在学中は学業と並行して、社会人になってからは勤務の合間を縫って、小説を書き続けてきました。この春、会社を退職することを決意しましたが、専業作家になると決めたわけではないとのこと。 若き文壇の嗣子が漏らす、日々の本音と葛藤と。
朝井リョウ
人間って置かれた場所で最大限怠けちゃう

――その朝井さんご自身も、現代の文壇においては、まさに「アイドル」的存在といえますよね。

朝井リョウ (以下、朝井)いやいや。バカにしてますか?

朝井リョウ

――いや、本当に。彗星のように登場し、学生から社会人になる人生の激動期に、5年で10冊の本を書かれて、しかも、若くして直木賞を受賞して……。文壇の未来を背負っていく存在であることは間違いないと思いますが。

朝井いやいやいやいや……。でも、5年で10冊というペースは、これが続けば……と思いますね。10年で20冊出て、15周年で30冊出せていれば、胸張っていいのかなと。

――そしてこの春、会社を退職して専業作家になられたと。

朝井専業は一時的のつもりです。来年から、時間と労力をこれまで以上に費やすことになるであろう仕事が始まることになっていて。東京から離れたところに仕事場を構えるつもりなので、現実的に勤務ができなくなるんです。だけどそれが終わったら、また兼業に戻りたいんですよね。

――せっかく創作に専念できる環境になったのに?

朝井逆に、集中力が途切れがちになってしまって、いま、すごくペースが落ちてるんです。兼業していたときは、常に時間がなくて、赤信号でひっかかるとか、そういうすごく小さなことにも常にイライラしていたんですが、いまはそのタイムリミットがなくなったせいか、2時間でできていたことに、4時間くらいかかるようになってしまいました。
 だからいま、何がしたいかっていうと、内職! 「バラの造花を作る」みたいなやつ。タイムカードとか作って、集中力を取り戻したい。タイムリミットが発生するような状況を自主的に設けないと……人間って、「置かれた場所で咲きなさい」じゃないですけど、きっと、置かれた場所で最大限怠けちゃうんだと思います。

――職業を持って、社会人としてのベースを保っておきたいということでしょうか。

朝井そうですね。作家という仕事は本当に虚業というか、何か、詐欺師のようなところがあって……それがすごく辛いんです。精神的に。そのことが、いちばん大きい理由かもしれないですね。

「落ちる」のは、アイドルの宿命?

――直木賞まで獲られたいまでも「虚業」と?

朝井はい。というか、むしろその感覚は増大しています。作家で集まると、みな、言ってますよ。家で超ダラダラしていても、「今、プロットに苦戦中です」とか言えば、何か深く思案しているように見えるじゃないですか。ほんと詐欺師ですよ。 『何者』の中に、「就活がうまくいくと、まるでその人間まるごと超すげえみたいに言われる。就活以外のことだって何でもこなせる、みたいにさ」(P248)という一節を書いたことがあるんです。この会社に内定が出たんだから、あれもできる、これもできるみたいに思われている気がするんだけど、本当はそうではないと。それはまさにいまの僕の気持ちで、直木賞を獲ったからといって、何もかもできるわけではないんだという感覚が、ずっとあって。
 思えば、会社という場所は、そういう気持ちを普通に許してくれる場所だったんですよね。会社の中では、バカみたいなミスとかもガンガンしましたけど、誰も驚かない。「新入社員だから、そりゃそうだよ」とか、「〇年目じゃ、まだわかんないよね」みたいに、すごく自然に受け止めてくれる。
 それが、出版業界の中だけにいると……。直木賞作家って、やっぱり、何でもできそうな感じがするじゃないですか。

朝井リョウ

――どっぷり浸かって生きていくことも、世間的にはできる立場だと思います。

朝井いやー、それは嫌なんですよね。講演会の依頼が来るときとか、本当、思います。「うわぁ、直木賞作家だから講演会もできると思われてるんだ」って。

――逆に、アイドルでいうなら「魅力も実力もありすぎて、可愛くない」という感じかもしれません。落ちていくところを見たい、と思われるような。

朝井そうですよね。上重(聡・日本テレビ)アナへの周囲の反応とか見ていると、みな、人間が落ちていく姿が見たいんだな、と思ってしまいますよね。下に網を張って、そこで待ち受けてる。
 だから僕も、必ず一度は落ちますよ。

朝井リョウ

――いやいや、そんなことは。

朝井いいえ、必ず。もう見えてるんです、その未来が。僕は、必ずこの先のどこかで、たぶん7000万円くらいの借金を背負うんですよ。

――えらく具体的ですね。

朝井自分の借金じゃなくて、たぶん、肩代わりするかたちで。そのくらいのことが、絶対にいつか起こるはずです。たぶん、人生は、そういうふうにできていると思うんですよ。どこかでちゃんと辻褄が合うというか、「おまえ、そんな人間じゃなかったよな?」と思い知らされるようなことが、時間差できちんと発生して、プラスマイナスゼロになるはずなんです。
 いまはきっと、「大江戸温泉物語」※の中にいるような状態なんです。いろんなことがピッ、ピッ、って積算されていって、出るときに「わーっ!」って。「こんなに身の丈に合わないようなことしてたんかい!」っていうのが、どこかで来ます。絶対に。
※東京都江東区にある温泉アミューズメントパーク。中では、お金を払わずにサービスを受けられ、退出時に精算となる。

――じゃあ、今から備えを。

朝井はい。今は、作家界への留学中だと思っています。だから、出た雑誌の記事とかは、全部とってあります。留学が終わったとき、あの世界にホントにいたんだなあ、と思い出せるように。

構成:大谷道子、撮影:喜多村みか

更新日:2016年1月8日

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