藤野涼子 | 撮影から半年経っても、いまだ“涼子”が抜けません。

藤野涼子 | 撮影から半年経っても、いまだ“涼子”が抜けません。
ベストセラー作家・宮部みゆきのミステリー巨編『ソロモンの偽証』。成島出監督による映画化で、1万人のオーディションから主役の藤野涼子に抜擢されたのは、本格的な演技は今回が初めてとなる少女でした。男子生徒の謎の転落死をきっかけに、次々と不可解な出来事が起こる〈前篇・事件〉。そして4月11日に公開される〈後篇・裁判〉では、前代未聞の中学生による校内裁判が開廷。役名でデビューした藤野涼子さんに、前篇が公開された現在の心境や、白熱の裁判シーンの撮影エピソードについてお聞きしました。
藤野涼子
泣きたくないのに、どうしても涙を流してしまう

――役名でデビューされるのは、珍しいパターンですよね。

藤野涼子 (以下、藤野)そうらしいですね。『ソロモンの偽証』で出会ったみんなのことを忘れたくないのと、ここで学んだことは私の原点になると思ったので、名前をいただきました。

――原作者の宮部みゆきさんも快諾してくれたそうですね。

藤野最初にお会いしたとき、「あ、涼子ちゃんがいる」と言ってくださったんです。それがきっかけで、涼子として生きたいという感情が芽生えた気がします。

藤野涼子

――『ソロモンの偽証 前篇・事件』が公開された3月7日を、まずはどのような気持ちで迎えましたか?

藤野もちろんうれしかったのですが、後篇が公開されたら私も『ソロモンの偽証』を卒業しなければいけないんだってことを考えて、ちょっとさみしい気持ちになりました。

――前篇を観た人の反応で、うれしかったことや意外だったことは?

藤野友だちの感想は、怖かったっていうのが一番多かったです。それと、あまりにも気になるところで終わるので、早く後篇が観たいとも言われました。

――後篇は、事件の真実を自分たちなりに暴くために、学校内裁判が開廷されます。みなさんの意気込みがスクリーンを通して伝わってきましたが、裁判シーンの撮影に臨むにあたって、特別に準備をしたり、監督と話し合ったりしたことはありますか?

藤野裁判シーンは体育館を再現した広いセットで行われるので、大きな声を出すトレーニングをするように言われていました。

――たしかに、検事を務める藤野さんが大人とやり合うシーンは、大人がたじろぐほど迫力がありました。

藤野監督は声を大切にしている方で、「とにかく声で大人を圧倒しろ」と言われ、いつも細かく注意されていました。「トーンが違うからもう少し低くしろ」とか「今のは行きすぎだ」とか。

――成島監督は、役を「演じる」のではなく「生きる」ことに重点を置かれていたそうですが、撮影中、それを強く感じたことはありましたか?

藤野私が涼子になれるのは、心が無の状態になっているときだと監督から言われていたのですが、たしかに撮影中の記憶が飛んでいることが結構ありました。自分でもうまく説明できないんですけど……。今もまだ涼子が抜けずにいるのも、涼子として日々生きていたからなんだろうなって思っています。

――撮影が終わって半年経っても、まだ抜けていない感じなんですか?

藤野最近はちょっと抜けてきた感じもあるんですけど(笑)。学校でも、この作品に関わる前は、担任の先生や友だちにすごく活発な女の子だねって言われていたのですが、撮影が終わってから、みんなに変わったと言われます。

藤野涼子

――どんなふうに変わったのでしょう。

藤野そこまでは聞いてはいないのですが、たぶん落ち着きのある子になったねっていう意味だと思います。

――涼子は正義感が強くて、勇気のある少女でしたが、自分が涼子と似ていると思うのはどんなところですか?

藤野泣きたくないんだけど、どうしても涙を流してしまうところですね。役が決まる前に、2カ月ほど演技のワークショップがあったのですが、そのときもよく泣いていました。

――それは悔しかったから?

藤野そうですね。演技経験の豊富な子もたくさんいたので、自分はなんでこんなにできないんだろうって、毎日のように泣いていましたね。

――泣くのは家に帰ってからですか?

藤野本当は帰ってから泣きたかったんですけど、すぐに溜まってしまって、人前でも泣いてました。

藤野涼子

――撮影に入ってからは、感情のコントロールはうまくできましたか?

藤野やっぱり泣いてましたね(笑)。監督から言われていることはわかるのですが、それを表現できなくて悔しくて。涼子自身も前篇は泣き虫なのですが、後篇では徐々に強くなっていくので、撮影が進むにつれて悔しくて泣くことも少なくなっていった気がします。といっても裁判シーンでは、台本に書かれていないところでポロッと涙がこぼれてしまったんですけど。

――ああ、あのシーンは印象的でした。

藤野私が感じたままに涙を流してしまったので、今のは違うと思ったのですが、結果的にOKになりました。

――今お話したような、目で訴えるシーンも何度かありましたが、セリフのあるシーンとは違う難しさがあったのでは?

藤野私はまだひとりでは何もできないので、相手の感情を受け取ってキャッチボールするような感覚でした。

――同世代の子たちと演技をするのと、大人の俳優さんたちと演技をするとでは、感覚的に違うものですか?

藤野やっぱり大人の方だと、自分の演技力のなさが改めてわかってしまいます。真似することさえできないのですが、見て感じて、勉強していました。中学生キャストもほとんどの子は演技経験があったので、お互いを刺激し合っていたように思います。

もっともっとみんなと一緒に遊んでいたかったな

――藤野さんに勝るとも劣らないほど、一緒に裁判を進めていく中学生キャストの演技に凄みがありました。オーディションのときから長い時間を共に過ごしてきた仲間であり、ライバルでもあると思うのですが、それぞれの印象や、刺激を受けたことなどを教えてください。まず弁護人を務めた神原くん(板垣瑞生)について。

ソロモンの偽証
右:板垣瑞生(神原和彦役)

藤野普段の会話でも難しい言葉をよく使っているので、勉強や本を詠むのが好きな人なのだと思います。カメラの前に立つと集中して、本当に神原くんって感じなんですけど、休み時間になるとみんなを楽しませてくれるんです。現場ではどうしてもみんな緊張しちゃうんですけど、そんなに緊張しなくていいんだよって感じで笑わせてくれたりするので、心優しい人だと思います。

――藤野さんも神原くんも、眼力も強かったですよね。ふたりの間に火花が見えそうなほどでした(笑)。相手と感情のキャッチボールをするとおっしゃっていましたが、負けてしまうかも、とひるんでしまうことはありませんでしたか?

藤野みんな同世代ということもあって、この人には負けたくないというライバル心をそれぞれが持っていたと思います。私もやっぱり神原くんには負けたくないという気持ちがありました。

――弁護人と検事で対立する関係でもありますしね。

藤野そうなんです。神原くんが監督に褒められているのを見ると、「どうして? 私も褒められたいのに!」と思ったりして。

――前篇の冒頭で謎の死を遂げてしまう、柏木くん(望月歩)は、いかがでしたか?

ソロモンの偽証
望月歩(柏木卓也役)

藤野柏木くんとのシーンは、2つくらいしかないんですけど、彼が中心となってこの物語はできているので、頑張らなければという思いを人一倍持っていたように思います。柏木くんが演技をすると、みんなが引き込まれるような感覚でした。

――その柏木くんを殺したのではないかと疑いが持たれている大出くん(清水尋也)は?

ソロモンの偽証
清水尋也(大出俊次役)

藤野大出くんは神原くんと仲が良かったですね。ふたりが言い合いをするシーンをきっかけに、本当に仲良くなっていった気がします。私は大出くんと直接セリフを交わすシーンがあまりなかったというのもありますが、暴力的な男の子の役だったので、正直なことを言うとあまり近づきたくなかったんです。撮影の合間に話しかけてくれたりもしたのですが、「ああ、そうなんだ」ってくらいにしか返せなかったりして……。役になりきるために体を鍛えていたそうですが、私には大出くんにしか見えなくて、だからこそ近づけなかったのだと思います。

――その大出くんにいじめられていた、三宅樹里さん(石井杏奈)はどうでしたか?

ソロモンの偽証
石井杏奈(三宅樹里役)

藤野樹里ちゃんも、ライバルみたいな感じでした。樹里ちゃんの親友の松子ちゃんが裁判シーンの見学に来ていたのですが、私と樹里ちゃんがやり取りをするシーンが終わったとき、松子ちゃんが樹里ちゃんのところへ駆け寄って「頑張ったね」って抱きしめていたんです。それを遠目に見ていて、なんだか少し悲しくなってしまいました。一瞬でもいいから、松子ちゃんにこっちを振り向いてほしかったなあって。

――聞けば聞くほど、本当に役を生きていたんだなあというのが伝わってきます。三宅さんとふたりだけで演技をするシーンもありましたが、そのときはどんな感じだったのでしょう。

藤野樹里ちゃんに負けたくないという思いが空回りしてうまくできず、結果的に私のせいで撮影が長引いてしまって、悔しい思いをしたこともありました。ライバル心があるからこそ、樹里ちゃんと演じたくないと思うこともありましたし……。だけど樹里ちゃんと演技をすることで、自分自身が成長できる気もしていました。いつもみんなで集まってご飯を食べていたのですが、樹里ちゃんとふたりだけのシーンの前は、別々の部屋で食べたりして、ふたりなりに工夫をしていたと思います。

藤野涼子

――かなり刺激を受け合っていたんですね。撮影を重ねていくにつれて、本当のクラスメートのように結束が強まっていく感覚はありましたか?

藤野そうですね。監督が先生で、私たちが生徒みたいな感じでした。撮影が終わって間もない頃は、みんなで集まったりしていたのですが、6カ月も経つと、それぞれに次の撮影が決まっていくわけじゃないですか。『ソロモンの偽証』をまだ卒業できていない私としては、みんなが白鳥となって旅立っていくのを見ていると、ちょっと悲しい気持ちになります。もっともっとみんなと一緒に、湖で遊んでいたかったなって。

――自分も早く卒業して次へ行きたい、という思いもありますか?

藤野ありますけど……自分が旅立ってしまうと、みんなが集まらなくなってしまうんじゃないかって不安もあります。どちらにしても後篇公開とともに卒業しなければいけないので、舞台挨拶では泣かないようにしたいと思っているんですけど(笑)。

構成:兵藤育子、写真:加藤麻希

更新日:2016年1月8日

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