村上春樹×蜷川幸雄の舞台『海辺のカフカ』稽古場レポート パリ公演を経て、5月に東京凱旋公演

村上春樹×蜷川幸雄の舞台『海辺のカフカ』稽古場レポート パリ公演を経て、5月に東京凱旋公演
2002年に刊行された村上春樹の長編小説を蜷川幸雄が舞台化した『海辺のカフカ』は、2012年に初演、再演...

2002年に刊行された村上春樹の長編小説を蜷川幸雄が舞台化した『海辺のカフカ』は、2012年に初演、再演時は2014年6~7月に国内4か所公演、そして2015年に蜷川幸雄生誕80周年を記念してロンドン・ニューヨーク・埼玉・シンガポール・ソウルの5都市を巡る世界ツアーを行った。
この村上春樹×蜷川幸雄によるコラボレーション舞台が、フランスで日仏友好160年を記念して開催された「ジャポニスム2018」の公式企画として、2019年2月15日~23日にパリの国立コリーヌ劇場で上演され、5月21日(火)からはTBS赤坂ACTシアターにて東京凱旋公演が行われる。

古畑新之、柿澤勇人、高橋努、鳥山昌克、木場勝己といった前回公演に参加したメンバーに、今回は寺島しのぶ、岡本健一、木南晴夏ら新たなキャストが加わった座組で行われている稽古を取材した。

演出の蜷川は2016年にこの世を去っている。しかし、この公演の演出は「蜷川幸雄」とクレジットされている。演出家が不在の中で、一体どのように稽古が行われているのだろうか? そう思う人が多いだろう。
稽古は、演出補の井上尊晶の仕切りで進められる。これは、蜷川が生きていた時代から何ら変わらない光景で、変わったのは蜷川の姿がいつもの演出席にないことだ。
この日は冒頭から、途中休憩を挟みながら最後まで通しで稽古が行われた。


「海辺のカフカ」稽古場写真



物語は、古畑演じるカフカ少年と、木場演じるナカタ老人をめぐる物語が同時進行する。古畑のまっすぐな瞳からは、カフカ少年の揺らぐ心と、その揺らぎに負けまいとする健気な強さがうかがえる。木場の飄々と伸びやかな演技が、猫と会話ができるなど不思議な能力を持った愛すべきナカタの存在感を立体的に浮かび上がらせる。


「海辺のカフカ」稽古場写真



カフカが訪れる高松の図書館を管理している女性(寺島しのぶ)、司書(岡本健一)、そしてカフカにアドバイスを与える人物・カラス(柿澤勇人)、とカフカを取り巻く人々はいずれも謎めいた存在だ。彼らキャストに共通しているのは、その謎めいた雰囲気を漂わせる透明感と同時に、村上の文体を見事に舞台化したと絶賛された蜷川演出を体現している、どこか儚さを感じさせる美しい演技とたたずまいだ。阿部海太郎による繊細な音楽が、この作品の透明度をさらに増幅させる。


「海辺のカフカ」稽古場写真



その中において、高橋努と鳥山昌克のクセの強い存在感がよいアクセントになっている。全体的に「あの世」と「この世」の間を漂うような能の幽玄美を思わせる世界観において、彼らの登場シーンは滑稽さや人間味で現世にとどまらせてくれる、さながら狂言のような役割を果たしている。


「海辺のカフカ」稽古場写真



稽古を見ながら、改めて蜷川の稽古でのキャスト・スタッフたちの精度の高さに驚かされる。明日本番を迎える、と言われても全く問題がないのではないか、と思えるクオリティだ。稽古の段階でこのレベルまで到達している現場は、決して多くはないだろう。 
蜷川の稽古場は、キャストもスタッフも稽古前までに各自ができる最大限の準備をしてから臨んでいる。それは一人ひとりに高度な技術、意識の高さ、創造性が備わっていないとできないことだ。蜷川が信頼するメンバーだからこそ、このクオリティを実現できるのだ。


「海辺のカフカ」稽古場写真



この稽古場には、蜷川がいたはずの場所にぽっかりと穴が開いていて、それによって大きな喪失感が引き起こされると同時に、その穴から風が吹き抜けてきている、そんな気がした。そしてキャストもスタッフも、穴と風の存在を認識しながら稽古にひたむきに取り組んでいる。その風を追い風にするのか、向かい風にするのか――。この稽古場にいる者は、風を味方に着ける術をわかっているはずだ。

蜷川が生み出した舞台『海辺のカフカ』という幽玄の森は、観客を異世界へといざなってくれる。稽古場見学を経て、そう確信することができた。パリ公演を終え、5月の東京凱旋公演で、彼らがどんな風に乗ってこの舞台を観客に届けてくれるのか、期待したい。

取材・文・撮影=久田絢子

(更新日:2019年4月19日)

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