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ブラッシュアップを繰り返すことで作品を研ぎ澄ませていきたい イキウメ『獣の柱』作・演出の前川知大にインタビュー

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今や演劇界のみならず、映画やテレビなど、多岐に渡ってその作品世界が人気を集めている劇作家であり演出家の前川知大。彼が率いる人気劇団「イキウメ」の公演が、2019年5月から6月にかけて、東京と大阪で上演される。演目は、2013年に初演された『獣の柱』の再演だ。初演から6年の時を経た再演にかける思いを、前川に聞いた。

人間は物語を求める存在だから「なぜ?」と考える

ーー今作は6年ぶりの再演ですが、このタイミングでやろうと思った理由を教えてください。

公演としては前回すごく好評だったのですが、僕個人としては、まだ納得できないというのがあって、いつか書き直さなきゃな、と思っていました。結構改訂します。この作品は2008年に上演された『図書館的人生 Vol.2』のうちの1篇『瞬きさせない宇宙の幸福』という短編が元になっているのですが、見ると幸福になって意識を失う隕石と、キリスト教終末論をくっつけたい、というアイディアから生まれたものです。前回の公演でも、まだこの作品の伝えたいメッセージやテーマを詰め切れなかった感じがあるので、今回はしっかり探って、より前進したいと思っています。


2019 イキウメ『獣の柱』



ーー短編の上演からもう10年以上経つので、やはり前川さんの興味や、社会の状況も変わってきていると思いますが、そのあたりも今回反映されてくるのでしょうか。

当初は、宇宙人侵略物みたいな感じのパニックSFのイメージで考えていたんですけど、前回の公演が2013年だったので、やはり柱が降ってくるという状況を、震災と結び付けて見る人が多かったと思います。人間は物語を求める存在だから、震災や天変地異といった大状況的なものに直面したときに「なぜこんなことが起きるのか?」と考えます。その「なぜ?」に答えを出すのが、一つは宗教で、一つは科学です。だからこの物語でも、宗教によってこの状況を解釈しようとする人と、科学によって解釈しようとする人たちが登場します。その両極の真ん中にいるのが農家のおじさんで、この人はあえて解釈をしないで進む、つまりなぜ柱が落ちてくるかはどうでもいい、とりあえず今は食料を作って人が住む場所を作って、生き延びるための対処法だけを考えて前に進むんです。このように、ある一つの出来事に対しての解釈や、どう行動するか、ということをめぐる物語なので、そう考えるとやっぱり「その後」の話だな、という感じがすごくしますね。

「自分たちの面白いもの」を突き詰める

ーー人間たちを破滅に追い込んでいく方法として、幸福を与えることにしたのはなぜですか。

人間だけを殺すことができるから、ですね。話が進むにつれて、この柱は人間の脳の報酬系を支配してしまうことがわかってきます。動物にも報酬系はあるんですけど、人間の報酬系だけに作用することによって、人間に残った獣の部分が支配されてしまい、結果人間だけが駆除される、というイメージです。これは一番最初の短編からあったアイディアで、地球環境を破壊せずに人間だけを駆除できる方法は何だろう、と考えたのが発想のスタート地点でした。


2013舞台写真『獣の柱』



ーー初演では、笑いの要素が多かった印象があります。再演に際して、そのあたりのバランスはいかがですか。

シリアスなものやスケールの大きいものは、まじめに言えば言うほど陳腐になっていくという部分はあるので、ある種の茶化しを入れていった方がお客さんが受け取りやすいと思っています。初演時は陳腐化を恐れていたところもあったので、今回はそのバランスをもうちょっと冷静に見られると思います。それは俳優たちが任せられるところまでレベルアップしているというのもあります。

ーー劇団員の皆さんの成長は大きいですよね。

舞台での居方というかたたずまいが堂々としてきた感じがあります。たぶん、作品創りを楽しめるようになってからじゃないでしょうか。劇団が注目されるようになってきた頃は、失敗できない怖さみたいなものもあったけれど、今は、「俺たちは俺たちの面白いものをどれだけ面白くやっていけるか」という姿勢が稽古場で現れているから、それが舞台上にも反映されているのかな、という気がしますね。

「平成」という時代の閉塞感

ーーまもなく平成という一つの時代が終わりますが、前川さんから見て平成とはどんな時代だったと思いますか。

インターネットで世の中がいろいろ変わるんだ、ITであらゆるものがよくなるんだ、と思われて平成が始まったけれども、より殺伐として、全然よくなってない、と感じています。30年でじわじわと、気づいたら結構取り返しのつかないところまで来ていて、まさに平成の終わりという閉塞感がありますね。SFで言ったらディストピア化しているんだけど、やんわりと変わっているから、なんとなくまあいいか、という空気になってしまっているんですよね。

ーーそのあたりのことは、作品にも影響してくるのでしょうか。

あくまで物語の中で語りたいという思いがあるので、あまり現実に寄せようとは思っていませんが、最終的に社会が崩壊して、それをどうやって立て直していくのか、ということを見つめる話なので、やはり現代のそういった空気感というのは入って来ますね。外圧みたいなものや、何か大きなものが来ないと変われない社会だな、ということはすごく感じています。


前川知大



短編を長編化した前回の公演時、2011年の東日本大震災からわずか2年後だったこともあり、降り注ぐ柱から自然と震災を想起してしまい、あまり冷静に舞台を見ることができなかった。前川自身は震災のことを「そんなに意識していなかった」と言いながらも、やはり観客は結び付けて見るだろう、という思いも持っていたという。そして「初演よりは落ち着いて、視野を広く持って書けてる感じはしている」と今の心境を語ってくれた。もしかしたら、前川自身も前回は、私たち観客同様に決して冷静ではなかったのかもしれない、と思った。前川も私たち観客も、あの頃よりは冷静な気持ちでこの作品と向き合える時が来た。「上演される今、を作品に込めてブラッシュアップを繰り返すことで作品を研ぎ澄ませていきたい」と前川は言った。短編上演の2008年、初演の2013年、そして再演の今年、それぞれの「今」が込められて重層化した『獣の柱』がどのような作品になるのか期待したい。

取材・文=久田絢子

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