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Pet Shop Boysの完璧なショーを体感した!【ライブレポート】

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Pet Shop Boys 日本武道館 2019.04.01

ライブツアーというものは大きく分けると、セットリストと呼ばれる曲順を夜ごとに変えていくツアーと、セットリストの変更なしに同じ曲順で演奏するタイプのツアーと2種類ある。前者はその場でしか起こりえないスリリングさを楽しめるライブ感の強いものとすると、後者は緻密に作り上げられてきた完璧なる世界観=ショーを楽しむものといってもいいかもしれない。どちらが優れているということではなく、そのアーティストの個性をより発揮しうるライブの形態がそれぞれにあるのだと思う。

4月1日に咲き誇る桜に囲まれた武道館で観たPet Shop Boysの武道館公演は、芸術の域まで達した緻密なショーを味わうライブの極致と言っていいものだった。フェスへの参加を挟んだとは言え、19年という長き歳月を経てやっと実現したこの武道館は、幅広い年齢層の観客で埋め尽くされた。

世界基準のパッケージ・ショーというものをここ日本で見られる機会は、実はあまり多くない。洋楽アーティストのメインの市場である欧米から物理的に離れているということもあり、舞台セットをすべて運べないことも多いため、日本へのツアーはセットや演出が端折られてしまうことも多々あるのだが、今回は世界を回ってきた公演がセットも含めほぼ完璧な形で再現されるものであるとの事前情報に、期待は高まっていた。


Photo by 土居政則



今回の公演は、現段階では最新アルバムとなる『SUPER』をサポートするツアー「The Super Tour」の一環として実現したもので、このツアーはアルバム『SUPER』が発表された2016年からずっと続いているものだ。既に25カ国で100本近い公演を行っているこのツアーのアジア・レグとして実現したこの日本公演は、シンガポールと香港での公演を経て、武道館までたどり着いたものだ(日本公演の後にはバンコク公演も予定されていたが、事情によりキャンセルされている)。そこまでには、演出の数々はさらに磨き込まれ、ショーとしての完成度はより高まっているはずだ。


Photo by 土居政則



このツアーには、当然のごとく超一流のスタッフが名を連ねており、舞台美術を担当するエズ・デヴリン(Es Devlin)は、彼らの前のツアーである「Electric」ツアーに引き続きチームに参加している。エズは、マイリー・サイラスの「Bangerz」 ツアー、カニエ・ウェストの「Touch the Sky」 ツアー、レディ・ガガの「Monster Ball」ツアー、ビヨンセの「フォーメーション・ワールド・ツアー」、U2の「Innocence+Experience」ツアーなど数多くの話題のショーを手掛ける、現在の舞台美術の最高峰の一人であり天才舞台美術家の名をほしいままにしている存在。


Photo by 土居政則



照明は、映画『ボヘミアン・ラプソディ』の成功を受け、この夏に「ラプソディ」と題したツアーを行うクイーン+アダム・ランバートを手掛けるロブ・シンクレア(Rob Sinclair)が担当。ロブはその他にもデヴィッド・バーン、LCD Soundsystem、カイリー・ミノーグ、ピーター・ガブリエル、ロードなどとの仕事で知られるこちらも第一線で活躍中の注目の実力者だ。

そして、Take That、カニエ・ウエスト、Museなどのツアーや、多くのミュージカルの振付師として名を馳せているリン・ペイジ(Lynne Page)が振付と演出も担当。

各分野のトッププロが組んで練り上げられたショーは何十回と上演されることでよりシャープになり緻密な舞台芸術の域にまで達するのだが、この日に見たステージはまさにトータル・パッケージのショーとしての魅力を最大限に高めることに成功していたといっていいだろう。


Photo by 土居政則



そのショーとしての演出の最たるものの一つが、鮮やかなオープニングシーンだった。開演を待つ会場に流れていたSEは、その音量が開演の19時に近づくにつれて少しずつ(そして、気づいていない人も多かったのではないかと思うぐらい自然に)大きくなり、そのSEの音量の高まりとともにほぼ定刻に客電が落ちた。客電が落ちてもSEは鳴り続け、そのまま1曲目である最新作からの「Inner Sanctum」のイントロへと突入するというシームレスな演出で、まるで開演を待つ時間までもがショーの一部であったかのような感覚にさせ、早くもこのショーへの期待が高まった。

フェス参加ではメンバーのみの2人編成だったが、今回はバンドという豪華な編成。ボーカルのニール・テナント、キーボードのクリス・ロウに加え、エレクトリック・ヴァイオリン、キーボード、ボーカルを担当するメンバーが一人に、パーカッションとボーカル担当がメンバーが2人の計5人編成。残念ながら、本国公演で話題になった大人数のスパー・ダンサーズの参加はなし(これに代わるものとして、ダンサーが躍る映像が巨大なスクリーンに映し出されるという演出になったがこちらも迫力は満点だった)。絶え間なくなり続ける四つ打ちのリズムの上に、2人のパーカッションやバイオリンが乗るこのバンド・サウンドは想像以上に緩急があり、非常にオーガニックに感じられるものだった。

ほとんどリズムを取ることもなく動かずにキーボードを弾くクリスは、おなじみのサングラスでその表情はうかがい知れないが、それ以上に、2段積みのキーボードの上にモニターまでも積んでいるという機材のセッティングの後ろに隠れて、その顔も姿もうまくは確認できない。その上、大歓声を受けて登場したメンバー二人は巨大なヘルメットのようなオブジェをかぶっており、クリスに至っては完全に頭部全体を覆ってしまっており、謎な物体と化していた。それはある種のシニカルさを感じさせ、思わず笑ってしまいそうになる。この種のユーモアともとれる演出はこのショーにはいたるところに感じられたが、そのシニカルなユーモアこそが彼らのデビュー当時からの持ち味であることを思い出させられた。この彼らの一貫した姿勢は、まさに痛快の一言に尽きる。


Photo by 土居政則



2曲目には懐かしいデビュー・アルバムから「Opportunities (Let's Make Lots of Money)」が披露され場内が一気に80’sの空気になるも、3曲目に最新作からの「The Pop Kids」が演奏されると最新アルバム『SUPER』で貫かれていたクールな世界観で武道館が染まった。このダンス・ミュージックのフォーマットを纏いながらもアートとしても機能しうる高次元な世界観は、4曲目に演奏された彼らのディープ・カッツとも言っていい初期の「In The Night」、そしてさらに最新作からの5曲目「Burn」にも一貫しており、その美しさに恍惚とし、序盤にして既に気持ちが高揚する場面だった。


Photo by 土居政則



続く「Love Is a Bourgeois Construct」はバイオリンがフューチャーされ、ライブならではのアレンジがとても印象的だ。スクリーンにはこのツアーを象徴するアイコンとしての円(サークル)が映し出され、神々しさを感じる場面が演出される。続いてダンサーの映像が楽しい7曲目「New York City Boy」、8曲目「Se A Vida É (That's The Way Life Is)」と懐かしの大ヒット曲が立て続けに披露され、「33年前に一気に戻るよ」というMCと共に9曲目としてデビュー・アルバムから「Love Comes Quickly」と続く。このヒット曲の連発に観客は一気にヒートアップするも、ここで非常に面白いことに気がついた。高揚していく観客をよそに、ステージ上の熱は決して上がっているとはいえない。どちらかというと平熱を保っているといった具合だ。踊るための音楽であるダンス・ミュージックというフォーマットを用いながらも、クールなポップ・ソングを生み出し続けてきた彼らのこのステージ上と観客の対比は、そのままPet Shop Boysの持つ二面性を象徴しているのではないかと強く感じられた。

また、ダンス・ミュージックにありがちな冗長になる場面はほとんどなく、新たなアレンジを施されたものも含め楽曲のほとんどが5分程度に収められており、非常に優れたコンパクトなポップ・ソングとして機能していた。彼らは常に矛盾しそうな二面性を持ち、そのどちらの顔も彼らであるという多少の分かりにくさを宿している気がするが、あらゆる場面で露呈する二面性がぎりぎりのバランスで成り立っている、それが彼らの最大の魅力のような気がする。


Photo by 土居政則



10曲目には2009年のアルバム『Yes』から「Love Etc.」、11曲目は最新作から「The Dictator Decides」、12曲目は2013年のアルバム『Electric』から「Inside A Dream」と2000年代の比較的最近の内相的な曲が続くが、客席を照らすことの多いフラッシュライトやレーザーが多用された照明の作り出す光景と相まって、ただただ荘厳な世界が生み出されていく様は圧巻。また、このツアーはサウンドプロダクションも非常に素晴らしく、体の芯にまで響くローが常に強調されていながらも歌が埋もれないというバランスが成立していて、非常に聴きやすい。


Photo by 土居政則



13曲目には彼らの代表曲である「West End Girls」が披露され、場内はヒートアップするとともに大合唱が巻き起こりショーの流れも再び天井を打った。そして、バックメンバー3人が楽器を離れてニールを囲み4声の素晴らしいコーラスで聴かせた14曲目の「Home And Dry」では、観客が自然発生的に携帯のフラッシュライトを使ってペンライトのようにかざし、武道館中がそのライトで浮かび上がるという光景を生んだ。これはこの日のハイライトと言っていい、感動的なシーンだった。

その柔らかな空気を一蹴するかのようなインスト曲「The Enigma」はレーザーが多用され、一大スペクタクルショーのクライマックスの始まりを告げるかの様。この場面転換のような展開は、計算されつくしたショーとしての醍醐味を強く感じることができる。


Photo by 土居政則



そして、ここからは16曲目「Vocal」、17曲目「The Sodom and Gomorrah Show」と2000年代のアッパーな曲に続いて、18曲目「It’s A Sin」、19曲目「Left to My Own Devices」と80年代の大ヒット曲が演奏され会場のボルテージも最高潮に達するも、さらに彼らの代表曲の1つである「Go West」が新たなアレンジで披露されるという怒涛のヒット曲の連打で本編は終了。

ほとんど間を置かずに始まったアンコールはサビで大合唱が起こった「Domino Dancing」と「Always On My Mind」が披露され、哀愁をおびたニールの唯一無二の歌声が一層際立つ。そして、序盤で演奏された「The Pop Kids」のリプライズという粋な流れで、この一大スペクタクル・ショーは大団円を迎えた。ここまでの23曲でショーの長さは1時間45分。密度が濃いせいもあるが、体感としては本当にあっという間に終わってしまったというのが正直なところだ。

実を言うと、このライブの直前のタイミングで、新しい4曲入りEP『Agenda』が発表されているのだが、その存在はこの完璧なパッケージ・ショーの前には全く顧みられることはなく、もちろんそこから曲が演奏されることもなかった。その潔さは気持ちいいくらいだ。


Photo by 土居政則



また5月22日には2018年7月27日、28日にロンドン、ロイヤル・オペラ・ハウスで行われた公演を収録したCD2枚組ライヴ・アルバム『インナー・サンクタム』の日本盤の発売が決定している。本国では4月12日にDVD、ブルーレイの映像商品の発売も決定している。ここに収録されているロイヤル・オペラ・ハウスでの公演は、今回の日本公演と比べると1曲多いのみで、基本的なセットリストや演出は同じものだ。この作品を手にして、今回の来日公演を追体験するのもいいかもしれない。

今回のPet Shop Boysの武道館公演は、とにもかくにも緻密に練り上げられた世界レベルのトータル・パッケージ・ショーをここ日本でも見られる喜びを、久々に感じられるライブだったといっていいだろう。そして、このような機会がさらに増えていってほしいとの思いを強く持った夜だった。

 

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