新国立劇場『かもめ』稽古場レポート~全キャストオーディションによる新たな試み 

新国立劇場『かもめ』稽古場レポート~全キャストオーディションによる新たな試み 
新国立劇場の演劇芸術監督・小川絵梨子が柱の一つとして掲げる、全キャストオーディションにより上演す...


新国立劇場の演劇芸術監督・小川絵梨子が柱の一つとして掲げる、全キャストオーディションにより上演する企画の第一弾である『かもめ』が、鈴木裕美の演出で2019年4月11日(木)に開幕する。チェーホフの四大戯曲の一つである『かもめ』は、これまで国内でも様々なカンパニーで何度も上演されており、錚々たる俳優たちが演じてきた。それをオーディションにより選ばれた俳優たちが演じるという、俳優の名前や人気ありきではない挑戦的な舞台になることが期待できる。そんな作品の本番まであと3週間強の某日、稽古場を取材した。


『かもめ』稽古場写真



この日の稽古場には、出演者が全員そろっていた。13人いると、さすがに大所帯に感じられる。稽古が始まる前に、ウォームアップを兼ねたゲームが行われた。俳優が二人一組になって行われるチーム対抗のゲームだったが、ゲームを通して俳優同士の距離が近くなり、和気あいあいとした雰囲気が生まれていた。『かもめ』といえば、重たい空気が全体を覆っているイメージもあるが、ゲームを楽しむ俳優たちの様子からは、そんな空気はみじんも感じられない。若手もベテランも入り乱れ、今にもにぎやかな群像劇が始まりそうだ。

しかしゲームが終わり稽古が始まると、俳優たちのテンションの高まりはそのままに、どこかピリッとした空気に変わった。それは『かもめ』という作品の持つ空気そのものでもあり、それと同時に決してなれ合いではない、オーディションで選ばれたメンバーだからこその空気なのかもしれない。


『かもめ』稽古場写真



第三幕の通し稽古が始まった。モスクワに発つことに決めたアルカージナ(朝海ひかる)、後ろ髪を引かれながらもアルカージナと共にこの地を去ることにしたトリゴーリン(須賀貴匡)、母に対する愛憎とトリゴーリンに対する嫉妬に苦しむトレープレフ(渡邊りょう)、妹と甥のことを心配するソーリン(佐藤正宏)など……登場人物が入れ替わり立ち代わり現れる。

チェーホフが「喜劇 四幕」としているこの戯曲は、ほとんどの登場人物が「愛」にまつわる何かしらのドラマをそれぞれに背負っている。しかもその愛は大体が一方通行で、それに翻弄される人間の様が淡々と描かれている。

確かに稽古を見ていると、本人たちは至って真剣に、必死に生きているのだが、その様からは人間の滑稽さが感じられる。物語自体は閉塞感に包まれているのに、思わず笑ってしまうシーンがいくつもあった。


『かもめ』稽古場写真



プライドの高い大女優・アルカージナを演じる朝海は、持ち前の美しい清潔感からその雰囲気を醸し出すが、すぐ感情的になる場面では一転して卑俗的になるところが喜劇的で痛快だ。須賀が演じるトリゴーリンからは、名声はあるが尊大ではなく、基本的には自分自身にしか興味のない身勝手さがむしろ女性の心を引き付け翻弄してしまう魅力が伝わってくる。家族思いだが気の弱いソーリンは、哀愁の中にも佐藤らしいユーモラスさをにじませる。渡邊は内にこもった気難しさと繊細さを身にまとい、今にも壊れそうなトレープレフの危うさを感じさせて目が離せない。


『かもめ』稽古場写真



演出の鈴木は、自分の演出意図をいかにして伝えようかと、じっくり考えて言葉を選びながら俳優たちと話をしていた。「ここはどういう気持ちになっていると思う?」とまずは俳優自身に投げかけ、その答えを聞き、意見を取り入れながら共に方向性を探っていく。俳優の演技において、見せ方のテクニックに頼るのではなく、その役の心の動きに重きを置いていることが伝わってきた。また、ともすると観客は見ていない、見ていたとしてもそれほど気に留めないような細かい部分でも、鈴木はきっちりと演出をつける。これまで大小様々な規模の舞台を数多く演出してきた鈴木だからこそ、細かいところを丁寧にやることで作品全体の質が変わってくることを熟知している。


『かもめ』稽古場写真



『かもめ』は悲劇的な筋書きと、喜劇的な描写が同居する難しい戯曲だ。細部にまでこだわる鈴木の演出、そしてオーディションにより選ばれた適材適所の俳優たちの演技で、この戯曲の面白さを最大限に引き出し、悲劇性と喜劇性のバランスがとれた舞台になることがうかがえる稽古場だった。物語の切なさや、そのメッセージを受け取りながらも、大いに笑える舞台が見られるのが今から楽しみだ。

取材・文・写真撮影=久田絢子

(更新日:2019年4月3日)

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