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国立新美術館『トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美』レポート チューリップの花咲く帝国の至宝に圧倒される

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2019年3月20日(水)〜5月20日(月)まで、東京・六本木の国立新美術館で『トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美』が開催されている。イスタンブルのトプカプ宮殿博物館が所蔵する、16世紀から19世紀までの宝飾品や工芸品約170点が集結する本展は、出品作のほとんどが初来日という非常に貴重な展覧会だ。以下、目を奪われる至宝の数々を紹介する。

至宝を通して知る、オスマン帝国の豊かな宮廷生活

黒紙に金泥で描かれているのは、スルタン・アブデュル・ハミト2世の花押(トゥーラ)。オスマン帝国を支配する者の勲章で、一種の署名でもある花押は、帝国の建国時から終焉に至るまでにさまざまな機会で利用され、書道の一分野としても発達したという。複雑な文字の周囲に楕円や三日月、星の文様が配されたこの花押は、迫力と壮麗さを備えている。


エメラルド・ルビー・翡翠・真珠などが輝く、目もくらむような水筒は儀式で使用されたもの。宝石でびっしりと覆われ、精緻な装飾が施されていることから、16世紀中期にオスマン帝国の宮殿で製作されたものと推測されている。遊牧民を起源に持つトルコ民族は貴重な水資源を運ぶため、数百年にわたって革製の水筒を愛用した。水を貴ぶ精神を感じさせるこの宝飾水筒は、革ではなく純金でつくることにより、絶大な力を持つスルタンを象徴している。


燦然と輝く金の兜はトルコ石やルビーで飾られ、爽やかなブルーと濃い赤のコントラストが鮮やかだ。兜の中央の前立てはスプーンの形をしている。当時の兵士たちは、宮廷で食事が振る舞われた際、兜についたこのスプーンを使って食事をしたそうだ。随所にさまざまな書体で祈願文が書かれたこの兜は、スルタンが宗教祭や特別な儀式でかぶったものとされる。


オスマン帝国を象徴する花はチューリップだが、預言者ムハンマドの肌の匂いはバラの香りであるとされていることから、バラも非常に好まれた花である。本展では、香水瓶の一種である「バラ水入れ」が複数出展されており、いずれも金・銀・ガラスや陶磁器などさまざまな素材からつくられ、凝った装飾がなされている。オスマン帝国では、チューリップやバラのほかにカーネーションとヒヤシンスも人気があり、これら4種の花は「花の四天王」と呼ばれ、さまざまな装飾に登場した。


オスマン帝国の華、チューリップが彩る文化

展示を彩る民族衣装は、中央アジアに起源を有し、数百年にわたって形態が維持されたカフタンだ。スルタン・スレイマン1世のカフタンは、クリーム地に銀糸が折り込まれた服地に、色鮮やかなルビー色のチューリップが織り出され、持ち主の威厳とチューリップへの愛を感じさせる。オスマン帝国では細長く花弁が尖ったチューリップが好まれたそうで、このカフタンに描かれているのはまさに理想のチューリップだったと思われる。


カラフルな花瓶はチューリップ専用の一輪挿しだ。ほっそりとした形状は、花の部分が垂れるのを防ぐために工夫されたもの。これらの一輪挿しには色とりどりのチューリップが飾られ、スルタンや臣下の部屋に彩りを添えたのだろう。こちらで見られる花瓶は、いずれも18~19世紀のイスタンブルのべイコズ・ガラスを代表するものである。



オスマン帝国のチューリップ愛は、武器にすら影響を及ぼした。チューリップや花々が編み出され、一見かわいらしい家具のように見える円形の道具の正体は盾。柳で装飾された盾の中心部は鉄製で、オスマン帝国が愛したチューリップと中国に由来する雲文様が金象嵌で施されている。この盾は儀式用に使われたのか、実際の戦闘で登場したのか、戦場に持ち込まれた場合、どうやって使われたのか。さまざまな想像をかきたてる品である。


歴代のスルタンの中でも、スルタン・アフメト3世はとりわけチューリップに熱狂したという。会場でひときわ目立つ精巧な銀色の模型は、アフメト3世の治世によって作られた「広場の施水場」を20分の1に縮小したもの。トプカプ宮殿の主門である皇帝門の前に建設された「広場の施水場」は、壁面の一部をチューリップで装飾された壮麗な建物であり、人々に飲料水を供給したという。


オスマン帝国と日本の交流

オスマン帝国と日本の最初の公的な接触は、スルタン・アブデュル・ハミト2世と明治天皇の交流に始まるという。この指物道具は明治天皇からアブデュル・ハミト2世に個人的に贈られたもの。柄の部分に天皇家の象徴である菊の御紋や果物や花々、鳥やカタツムリが施され、高い技術と美意識を感じさせる。


トルコの軍艦・エルトゥールル号の海難事故の義捐金を渡すため、長い旅路を経てイスタンブルに渡り、オスマン帝国と日本の架け橋となった人物・山田寅次郎は、アブデュル・ハミト2世に甲冑や金太刀、絵画など、さまざまな献上品を贈った。その中には飾り棚や鏡枠など竹の素材で作られた家具もあり、空間に温もりを与える竹家具はとりわけハレムで好んで使われたという。



オスマン帝国ではチューリップが愛でられ、球根ひとつが家1軒分に相当する価値を持つこともあったという。一世を風靡したチューリップだが、現存する品種は残念ながら1割程度とのことだ。本展では、日本でなじみのあるかわいらしいチューリップとは一味違う、今は消えてしまった優美なチューリップの姿を存分に堪能することができる。また会場はトプカプ宮殿仕様になっており、アフメト3世の食堂である「フルーツの間」が転写された壁面のほか、オスマン帝国を象徴する色といえるブルーの内装や特徴的な装飾などが展示を盛り上げている。

かつて世界の過半を覆いつくし、栄華を誇ったオスマン帝国の、財力や権力・技巧や美意識が集結した至宝は、それぞれに歴史的背景と文化的意義を持っており、「もっと知りたい」という欲求を引き起こす力に満ちている。オスマン帝国の煌びやかな世界にどっぷりと浸ることができる『トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美』を、どうかお見逃しなく。




 

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