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“腫れ物”扱いのイチロー。致命的な低打率も日本のファンが期待してしまう「何か」

ベースボールチャンネル

「このチャンスをいただいたことを大変感謝しています」

 やはり、日本のファンは彼の「何か」に期待をしてしまうのだろう。
 
 グラウンドに一歩足を踏み入れただけで歓声が上がり、メンバー発表で名前が読み上げられると、カリスマ的なリーダーを迎えたかのような雰囲気に包まれる。独壇場だった来日してすぐの記者会見も……全てが彼のものだった。
 
「イチローはこういう舞台をたくさん踏んできました。キャンプ中もいい成果でした。そして、チームメイトとともにお互い学びあって、クラブハウスでも楽しく先導をしてくれた」。
 
 シアトル・マリナーズの指揮官・スコット・サービスはそういってイチローを高く評価した。スプリングトレーニングからここに至るまでも「問題ない」と話したほどである。
 
 しかし、当のイチローは冷静にユーモアを交えて現状を語る。
 
「監督は僕のことに関しては嘘をついていますね。まず、マイナー契約で始まって、(その立場から)東京ドームのフィールドに立つことは簡単なことではなかった。その中でこのチャンスをいただいたことを大変感謝しています。(この開幕)シリーズが終わった1週間後は、振り返ることになるわけですから、今はどの一瞬も大切にして、一瞬一瞬を刻み込みたいと思っています」

現実を受け止めようとする模範的姿勢と反骨心

 イチローが45歳になっても現役を退かない姿勢をすべての人間が好意的に見ているわけではない。特にアメリカのメディアは厳しく「引退の時期はいつか」という質問を投げかけるくらいだ。日本のファンからしてみれば、イチローが現役を退くかもしれないという事実を信じたくないが、マイナー契約という立場上、いつ、その身が追われてもおかしくはない。
 
 イチローはそうした現状をしっかりと受け止めている。
 
 来日会見では次のように話している。
 
「当たり前のように答えを出して当たり前のようにここにいる状態を作りたかったんですけど、実際はそうはならずに、たいへん、苦しみました。僕は2012年にシアトルからニューヨークにトレードで移籍しました。そのあとから、毎日、その日を懸命に生きてきた。それを繰り返し重ねてきました。それはマイアミにいってからも同じだった。メジャーは厳しい世界ですから、いつチーム通達が来るかわからない。そういう日々を過ごしてきて、今日ここにいる」
 
 メディアを含めたイチローに対しての日本人の見方は腫れ物に触るかのようだ。それでもしっかり現実を受け止めようとするイチローの姿勢は、トップアスリートの模範とも言えるだろう。だが、そうした現状を受け止めつつも、やはり、このままで終わるつもりもないという気持ちも、イチローならでは、だ。
 
「ここまでは自分の思うような結果が出せていないんですけど、過去の経験から2004年の後、262安打を打った翌年の2005年のキャンプでは、出場した試合で毎試合のようにヒットを打ちました。しかし、シーズンが始まってみると大変苦しみました。一方で、春から20数打数ノーヒットで迎えた時があった。しかし、この年は200本安打を達成して、自分としてはいい年になったという経験もあります。春に起こることというのは、いろんなことがある。場所が変わって、大好きな日本でプレーする。今の自分の持てる技術を見せたいと思っています」

ファンが思い描く不死鳥の残像

 我々が彼に、「何か」を期待してしまうのは周囲の目線を簡単に裏切ってしまうからだ。こんなところではできないであろう場面で最高のパフォーマンスを発揮する。そうは言わないだろうというようなことを口にする。裏切りとは、絶望を意味しない。新たなる世界への誘いだ。それをイチローはやってしまうのである。
 
 周囲の目線、固定観念や先入観とは異なる世界で生きてきた。我々が残像として思い描くのは、彼がこれまで窮地から蘇ってきた姿ばかりだ。それほど、彼が残してきたものは大きい。
 
 レギュラーシーズンを前に、24打席連続無安打、打率.065は致命的な数字と言えるだろう。いつ、契約が打ち切られても不思議ではない
 
 でも、レギュラーシーズンが始まれば、また変わるのではないかと思ってしまうものがイチローにはある。
 
 20日から始まるオークランド・アスレチックスとの開幕シリーズ2連戦。
  
 「何か」が起こる。
 
 そう信じて我々日本人は東京ドームへ向かう。
 
 We really expect him(私たちはどうしても彼に期待してしまうのだ)。
 
 
氏原英明

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