石井裕也 | 指標なき時代に、どう生きていくべきなのか?

石井裕也 | 指標なき時代に、どう生きていくべきなのか?
映画『川の底からこんにちは』では史上最年少でブルーリボン賞を受賞。また、三浦しをん原作の映画『舟を編む』でも史上最年少でアカデミー賞最優秀作品賞を受賞するなど、まさに「気鋭の若手監督」という言葉がぴったりの石井裕也さん。その後も、妻夫木聡さん主演の『ぼくたちの家族』や『バンクーバーの朝日』など、話題作を撮り続けている気鋭の石井監督に、最新作の話はもちろん、映画監督として、そして一人の男性としての人生観について伺いました。
指標なき時代に、どう生きていくべきなのか?
石井裕也
20代の頃から日本を代表する若手監督として活躍してきた石井裕也監督。2014年12月から公開がスタートしている『バンクーバーの朝日』は、戦前のカナダ・バンクーバーを舞台に、日系二世の野球チームの軌跡を描いています。そんな彼らの時代を超えた生き様を描き切った石井監督に、作品のお話はもちろん「男の生き様」について伺いました。
描きたかったのは「最も中立な人」

――『バンクーバーの朝日』では、主演の妻夫木さんをはじめ、キャストがすごく豪華ですよね。しかも、役柄とご本人のイメージがぴったりあっているというか……。登場人物のキャラクターは、それぞれの俳優さんの人柄も想定して考えていかれたんですか?

石井そうですね。妻夫木さんと佐藤浩市さんと亀梨和也くんの3人に関してはアテ書きです。だから脚本の段階から演出に入ったというか、その人の良さを最も引き出せるであろう脚本にしようとしました。

――なかでも主演の妻夫木さんが演じる日系二世のレジー笠原は、朝日という万年最下位の弱小野球チームのキャプテンですよね。一見頼りなさ気で、ぐいぐい人を引っ張っていくようなタイプではないけれども、うまく全体をまとめていく。そこが全編通じてしみじみ「かっこいいなぁ」と思いました。

石井レジーに関していうと「静かに現実と向き合っている人」を描きたかったんですよね。どんな物事も中立的に見ていて、視野が広い。言葉では説明しづらいんですけれども、黒でも白でもなく、右でも左でもない。そういうイメージだったんですよね。

石井裕也

――白人だらけのバンクーバーの野球チームのなかで、移民として差別されながらも野球を続ける日本人野球チーム。根性論だけでは切り抜けられない外圧や力の差がありながら、なんとか勝ちたい。そんななか、妻夫木さんが演じるレジーは、とてもフラットな印象を持ちました。

石井胸の奥底には熱いものを秘めているんだけど、客観的に現実を認識して、自分の弱さを受け入れて、じっくりゆっくり考えて、自分の身の丈に合った方法で物事に立ち向かっていく、という人物にしたかったんです。妻夫木さんはそれに見事に応えてくれた。
 それにもうひとつ良かったのが、妻夫木さんがあまり「こういう芝居をやろう」とか「ああいう演技をしてやろう」ということよりも、むしろ「映画のなかでがむしゃらに生きる」ことを目指してくれたのが良かったですね。まぁ、実際、野球チームメンバーでも、妻夫木さんだけがあまり野球の経験がなかったので、いろいろ頑張らざるを得ない状況もあったんですけれども(笑)。

ベテラン俳優との仕事は、プレッシャーどころか「刺激」になる

――佐藤浩市さんをはじめとするベテラン俳優が居並ぶなか、ご自分が引っ張っていくのは大変ではなかったですか?

石井むしろ僕よりキャリアがある先輩たちとやるのはおもしろいですよ。勉強になりますからね。もちろん、若い人とやるのは別の意味でおもしろいですけど。

――現場では、教わることも多いんですね。

石井別に「教わりました」って顔はしないですけど(笑)。ただ、一緒にやっているとすごく刺激を受けます。

石井裕也

――若手では、妻夫木さんの妹さん役の高畑充希さんが印象的でした。彼女を起用したのはなんでなんですか?

石井あの役はオーディションで決めました。高畑さんは少し黒い部分を持っているような気がして。それが、おもしろいなって思って。あの役はただピュアなだけじゃできない役だったので、そんな高畑さんのちょっとだけいじわるでズルそうな部分に惹かれたんです。

わかりやすい指標がない時代に、カッコよく生きるということ

――作中、日系二世の現役野球メンバーやそれを周囲で見守る日系一世の親世代たちを通じて、「自分なりの戦い方」みたいなものがすごく描かれていたなという印象がありました。

石井背伸びして見栄を張っても、できることとできないことがあるので。「自分なりの戦い方」を身につけることが大切なんじゃないですかね。
 これは、過去に限ったことじゃない。いまの時代だって同じです。やたらめったら背伸びするんじゃなくて、身の程をわきまえるのは案外大事ですよね。それはネガティブに見えるけど、実はそうじゃない。

――『バンクーバーの朝日』はもちろん、石井監督はいろんな作品を通じて「かっこいい男の生き様」が描かれているような気がします。

石井今の時代って、「かっこいい生き方の指標」みたいなものがないですからね。だから、作品を通じてそれを描きたいという気持ちはあるのかもしれません。

――指標、ですか。

石井たとえば、かつてはマイカーを持って、マイホームを持って……っていうのがわかりやすい指標だったと思うんですが、そういう時代はもう終わった。だから、いまの時代は指標がないという意味では、生き方が難しい。
 そんな時代のなかで、「何かを探さなきゃいけない」っていう思いはあります。

石井裕也

――監督ご自身の生き方として、指標みたいなものはありますか?

石井あります。理想と現実はいつも乖離していますけど、その理想すらなくなると結構困っちゃうな、とは思ってます。

――監督の考える、その「理想」はどんなものですか?

石井一生懸命生きたいんですよね。言葉だと伝わらないかもしれないですけれども、一生懸命生きることってすごく重要だなと思うんです。僕なんかわりとダラダラしていることが多いんですけれど、映画を作るときだけは本気を出します。自分の中にあるものをすべて絞り尽くす。作品が出来た頃には、「もうなにも出ません!」っていうほどに全力を出し切る。本当は常にそういうふうに生きられるのが理想なんですが。

――でも、全力を出し尽くすって結構難しくないですか? 

石井本当に、映画に全部を捧げる感じなんですよね。いや、かっこいいもんじゃないんですよ。とにかく作っている間は、映画のことしか考えてないんです。映画のことばかり考えているから、撮影期間中の日常生活とかは人としてマズイですけど(笑)。でも、一生懸命になれるっていうのは、やっぱり幸せですよ。

聞き手:中島洋一 構成:藤村はるな 撮影:加藤麻希

更新日:2016年2月5日

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