映画館で堪能するブロードウェイ・ミュージカルの傑作『シー・ラヴズ・ミー』、その尽きせぬ魅力に迫る

映画館で堪能するブロードウェイ・ミュージカルの傑作『シー・ラヴズ・ミー』、その尽きせぬ魅力に迫る
英国ナショナル・シアターの名作を収めた『NT Live』や、2月末に公開された『王様と私』のロンドン公演...


英国ナショナル・シアターの名作を収めた『NT Live』や、2月末に公開された『王様と私』のロンドン公演(ケリー・オハラ&渡辺謙主演)など、傑作舞台を収録し映画館で上映する、ライブ・ビューイングが人気を呼んでいる。ブロードウェイの舞台では、「松竹ブロードウェイシネマ」が4月に公開するのが『シー・ラヴズ・ミー』。2016年に限定上演され大好評を博した、ミュージカル・コメディーの秀作だ。


ジェーン・クラコウスキー(右)とベナンティ ©Joan Marcus



まずは何度観ても心洗われる、どこか懐かしいストーリーが心地良い。舞台は香水店。販売員のジョージとアマリアは、些細な事で衝突し喧嘩を繰り返している。実はこの2人、お互いの顔も知らぬまま、秘かに手紙の交際で愛を育んでいた。彼らの恋の顛末に店員たちの人間模様が絡む、正統派ミュージカルの王道を往く作品だ。最初にハリウッドで映画化され(邦題は「街角~桃色の店」)、そのミュージカル版が本作『シー・ラヴズ・ミー』。ちなみに、手紙をメールにアップデートして再映画化されたのが、日本でも大ヒットしたメグ・ライアンとトム・ハンクス主演の「ユー・ガット・メール」(1998年)だった。


ギャビン・クリール(左)とクラコウスキー ©Joan Marcus



実力と個性を兼ね備えた精鋭キャスト

ブロードウェイでは1963年に初演され、以降1993年と2016年にリバイバル。今回上映されるのは、2016年バージョンを収録したもので、特筆すべきは大充実のキャストだ。ジョージを演じるのが、TV「CHUCK/チャック」でおなじみのザカリー・リーヴァイ、アマリア役に、現在ブロードウェイの『マイ・フェア・レディ』再演で、ヒロインのイライザを演じているローラ・ベナンティ(彼女の出演は7月7日まで)。さらに、アマリアのセクシーな同僚イローナが、豊富な舞台経験に加え、TV「アリーmy Love」で名を上げたジェーン・クラコウスキー、そして色悪ジゴロ風のコダーイに扮するは、ブロードウェイが誇るソング&ダンスマン、ギャビン・クリール(5月18~19日に東急シアターオーブで上演される、『ザ・ブロードウェイ・ミュージカル・コンサート』で来日予定)。個性を存分に発揮して歌い踊る、実力派パフォーマーたちの群を抜く名演には、ただただ感嘆あるのみだ。


リーヴァイとベナンティ ©Joan Marcus



聴くほどに魅せられるミュージカル・ナンバー

そして、本作最大の魅力が楽曲だ。作詞作曲は、ジェリー・ボック(作曲)とシェルドン・ハーニック(作詞)。今なお世界中で再演を繰り返す、『屋根の上のヴァイオリン弾き』(1964年初演)で知られる名コンビで、地味ながらも心に染み入るナンバーを数多く放った。この作品も、キャラクターの個性が息づく、シンプルで口ずさみやすい佳曲が揃っているが、ハイライトはタイトル曲〈シー・ラヴズ・ミー〉だ。これは、アマリアが自分に恋心を抱いている事を知ったジョージが、「彼女は僕を愛している!」と感動と興奮を歌い上げるナンバー。感情が昂ぶり、とてもセリフだけではその気持ちを表現出来ずに歌い出すという、ミュージカルの真髄がここにある。身体中から喜びを発散させ、側転まで披露しながら堂々と歌うリーヴァイが実に素晴らしい。他にも、アマリアが切ない恋心を歌う〈ディア・フレンド〉などバラードも絶品。格調高い旋律と歌詞が美しく、ベナンティのソプラノの歌声に陶然となる。


初演スタッフとキャスト。左からジェリー・ボック(作曲)、バーバラ・クック(アマリア役)、ハロルド・プリンス(プロデュース&演出)、シェルドン・ハーニック(作詞)  Photo Courtesy of Sheldon Harnick



作詞家が振り返る「名作」への道のり

ボックは2010年に亡くなったが、ハーニックは健在。4月末に95歳の誕生日を迎える。今も本作を「特別な作品」と語る彼に、理由を訊ねてみた。

「私は原作となった映画が大好きでね、登場人物に魅了されました。だから曲創りは楽しかった。ところが1963年の初演は、私たちが期待したほどのヒットには至らなかったんです。派手さに欠けるなど原因を指摘されましたが、気に入っていた作品だけに心が痛みましたよ。しかしその後、地方で上演されるたびに、関わったキャストやスタッフから、観客の反応が抜群だったと手紙を頂いた。そして、30年の時を経た1993年の再演が好評を得て、ようやく正当に評価されました。長い道のりだっただけに、愛着もひとしおなんです」

2016年版も大いに楽しみ、「上質なプロダクションでした」と称えるハーニック。キャストの好演に加え、ベテランのスコット・エリスによる快テンポの手堅い演出と、きびきびと闊達なウォーレン・カーライルの振付も秀逸で、ブロードウェイ熟練のプロたちの丁寧な仕事には、作品に対する愛情が溢れている。

日本に居ながらにして、スクリーンでブロードウェイ・ミュージカルを堪能出来る好企画。舞台の醍醐味を、余すところなく捉えたカメラ・ワークも申し分なし。そして何よりも、「心暖まるハッピー・エンディング」がもたらす、ほのぼのとしたピュアな幸福感は何物にも代え難い。ぜひ映画館に足を運び、愛すべきキャラクターたちが織り成す、古き良きブロードウェイ・ミュージカル『シー・ラヴズ・ミー』の世界を楽しんで頂ければ幸いだ。


舞台となる香水店に集うキャスト ©Joan Marcus



文=中島薫(音楽評論家)

更新日:2019年3月5日
提供元:SPICE

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